2012 年始のご挨拶 Home



内田昌ちゃんの冥福を祈って                 4組 石川正則   2012.01.01

 新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。4組の吉田君の
脅迫めいた催促で、一文したためることになりました。

 昨年の11通信で、内田昌ちゃんの訃報を知らされて、55年も前の、高校2年の時のことを思い出しました。私は昌ちゃんの前の席で、昌ちゃんの席の近くには内田妙子さんもいて、何時も賑やかで、当時の小田高には珍しく華やいだ空気が漂っていたのを覚えている。

 あれは樫の林もすっかり日が陰っていたから、冬の初めだったのではないかと思うけれど、化学部の活動が終わって教室に戻ると、昌ちゃんの机の上に本が一冊おいてあった。見ると徳永直の「太陽のない街」であった。私もこの本を読んだばかりで、つい手にしてページをめくっているところへ昌ちゃんがどこからか帰ってきて、言葉を交わすことになった。

 「この本俺2度も読んでいるんだ。今度で3度目だよ」と昌ちゃん。「俺はまだ一回だけ」と私。昌ちゃんが「すごいねこの本。本物だよ」と言って、「本当。すごいね。俺ももう一回読んでみよと思う」と私が言ったところで、昌ちゃんの友達が迎えに来て会話は終わった。それから間もなく、みんなが何事もなかったように受験戦争の戦士として鎧を着て自分の巣にこもり始めた。

 私はこの小説を、受験を控えていたが、2回読んだ。都合3回読んだことになる。昌ちゃんの一言で3回も読んだことになる。読んでいるとき、昌ちゃんがこの本のどこに魂を震わせ、どこに日本の未来を見出し、何に人間の悲しみや苦しみの根源を求めようとしたのか聞いてみたかった。自分の考えも昌ちゃんに聞いてみて欲しかった。

 卒業していつか昌ちゃんに会える時があったら、あの教室で途切れた会話の続きを話してみたいとずっと思っていたが、不幸にも卒業後、一度も会うことはなく今回の訃報を聞くことになってしまった。

 内田昌ちゃん安らかに。心から冥福を祈っています。


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