ちょっと発表



2012.11.18    今道周雄

 「クラウド・コンピューティング」と「クラウド・ソーシング」

 ● クラウド・コンピューティング
 二年ほどまえから、テレビのコマーシャルで「クラウド・コンピューティング」という言葉をたびたび聴かされるようになった。「クラウド(Cloud)」は「雲または雲状のもの」を意味する。クラウド・コンピューティングはインターネットの出現に伴って、次々と作られたデータセンターの運用を効率化しようして始められたものである。
 従来はある特定の情報処理を行う場合、それを扱うプロセッサー(コンピュータはプロセッサーと記憶装置から構成される)は、1台に限られていた。該当処理がおわるとプロセッサーは空いてしまい、次に行うべき処理がなければアイドル状態になる。データセンターには数百〜数千台のプロセッサーが収容されているが、プロセッサー全体の利用率を見ると10%にも満たないという状況が出現した。このような資源の無駄を省き、有効利用をしたいという発想がクラウド・コンピューティングを生み出したのである。
 クラウド・コンピューティングを実現させるために必要であった技術は「仮想化」であった。「仮想化」とは、仮想コンピュータをソフトウエアで作り、複数のプロセッサー(ハードウエア)と記憶装置をリソース(資源)として割り当てるようにする技術である。ユーザから見ればクラウドの中にあるリソースを、必要なときに必要なだけ使える事になる。クラウド・コンピューティングを利用するユーザはハードウエアの維持管理という業務から解放され、もっぱら情報処理業務に専念できる。
 このようにクラウド・コンピューティングはよいことずくめに思えるが、システムが複雑化したための問題もある。特に最近話題になっているのは、セキュリティである。しかし、それは氷山の一角に過ぎず、この他には安定性リスク、可用性リスク、そして維持リスクがあるといわれている。

 ● クラウド・ソーシング
 米国の作家マーク・トエインは次のような警句を吐いていたそうだ。「歴史は繰り返さないが、韻をふむ。」(Greg Goth, “Detailed Questions Hit the cloud”, IEEE Internet Computing)
その予言に従った訳でもないのだろうが、クラウド・コンピューティングの次に注目されたのは、クラウド・ソーシングである。この場合クラウドはCrowdであって、群衆を意味する。クラウド・ソーシングとはネットワーク上に存在する多くの人々の力を利用しようとするものである。ごく単純な例では、フェースブックで記事を見た人が、「いいね」と言ったり「駄目だね」と言ったりして評価する、大衆の評価力を利用する例である。
 ウイキペディア(Wikipedia)はクラウド・ソーシングの良く知られたもっとも複雑なシステム例であろう。これは多くのボランティアの力を借りて百科事典を作り上げるためのプラットホームを提供している。そのプラットホームを使って10カ国語で作られた百科事典は、例えば英語で400万記事、日本語で81万記事を収録している。このように多量の記事を12年という短期間で編集することは、従来の方法では難しかっただろう。
 Amazonが開発したMechanical Turksは、ウイキペディアではボランティアであった人資源を有償化し、コンピュータでは処理できないような仕事を多くの人にやってもらう仕組みである。(以下ウイキキペディアから引用)「例えば、お店の店頭写真の一番良いものを選ぶ、製品の説明文を書く、音楽CDの演奏者を特定する」といった仕事を人に有償で頼むのである。個々の仕事は余りたいした量ではなく気軽にできるから、余暇に趣味をかねて作業する人も多いだろう。

 インターネットは人類の知恵を結集するのに大いに貢献をした。インターネットが現れる以前、文献調査などには非常に時間がかかった。今はキーボードを叩くだけで、必要な情報が直ちに入手できる。ある大学教授は、「自分が数十年かけて蓄積した知識を、今の学生は数分で手に入れる。」と嘆いたそうだ。しかし、知識が身に付くにはやはり時間がかかる。
 次の語呂合わせがクラッド・コンピューティング(crud computing: 無意味なコンピューティング)にならぬよう気をつけなければならない。





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