ちょっと発表



2012.12.12    今道周雄


「財政再建」

日本国の財政再建をどうするか
 日本の財政を端的に述べれば、「破産に瀕している」ということだろう。
● 借金漬けの日本
  
収入(90兆円)の半分は借金
  支出の4分の1(22兆円)は借金の返済と利払い
  44兆円を借りて12兆円返す。毎年32兆円積み上がる借金残高
  現在の借金は国民一人当たり550万円
● 国が裁量できる額は歳出総額の27%
  借金返済、社会保障費および地方交付税を除くと国が裁量できる額は歳出総額の27%、金額にして25.4兆円
● 膨れ上がる社会保障費
  福祉、医療、年金で社会保障費は毎年1兆円増加
 

● 消費税反対は良いが、財政再建の対策はあるのか
 税収の3本柱は所得税、法人税、消費税である。後は細々した税収をまとめても10兆円足らず。景気が回復すれば法人税が増加する、というが最も景気の良かった時期(昭和63年)でも20兆円足らず。所得税は過去最高で26兆円だが、少子化や高齢化で現在(13.5兆円)以上の税収を将来見込むには。
法人税率は平成元年の40%から現在の30%まで引き下げられている。海外諸国との比較で日本の法人税は高いと言われていて、企業が海外へ逃げるのを阻止しようとすると引き上げは難しそうである。
注1 法人税収は、平成22年度までは決算額、平成23年度は予算額です。
注2 税引前当期純利益は、法人企業統計調査(財務総合政策研究所)によります。

● 国債残高は毎年28兆円ずつ増えてゆく
 44兆円借りて12兆円返すという状態を続けてゆくなら、毎年32兆円の借金が増えてゆく勘定になる。借金の増加を止めるは歳出を32兆円減らすか、歳入を32兆円増やすかということになる。それは難しいから、半ばをとって歳出を16兆円減らし、歳入を16兆円増すことにしてはどうか。
● 
今の政治家は無責任
 選挙公約で消費税反対を唱える政治家は、当選だけを目当てに安易なキャッチフレーズを掲げている。既に破綻している国家の財政をどのように立て直すのかを真剣に考えているとは思えない。このまま国債残高が増え続ければ、デフォルトの心配から国債の買い手が無くなるかあるいは売り超過で価格が暴落することが予想される。そのような事態にどう対処しようとするのか、明確な政策を示さなければ無責任きわまりない。
 年2%の物価上昇を目標として設定すると自民党は唱えている。毎年2%上がれば10年後には20%上がることになり、消費税10%を加えれば30%となる。これでは年金生活者はいきてゆけなくなる。そもそもインフレと好景気とは別物であり、物価が上がれば景気が良くなるという考えがおかしい。

● 歳出削減は聖域無し
 
年金生活者としては言いたくないことだが、社会保障費や地方交付金も含めて歳出削減を図らなければ財政再建は難しい。基礎的財政支出68兆円から16兆円を削るとなると、23%の削減を各支出項目で行わなければならない。だが、この程度の節約は可能なはずだ。その根拠を示そう。
昭和60年度の予算と平成24年度の予算を用途別に比較すると以下のようになる。予算総額は1.7倍になり、施設費とその他費用のみが昭和60年比で減っている。
 
● 人件費
 人件費はITの導入で効率化されたはずであり、賃金水準は民間では昭和60年から平成24年で7%しか上がっていない。従って人件費の20%削減はできるはずである。

 下のグラフは賃金水準の推移(産業計企業規模計(1997年水準=100))


● 旅費
  昭和60年度と比べ1.23倍となっている。民間ではインターネット等を利用した安価なTV会議を導入して極力旅費  を使わない努力をしている。それに習えば23%の削減は可能である。
● 物件費
  昭和60年度と比べ2.06倍となっている。この項目は購入品目の精査を行えば23%の削減は可能である。
● 補助費・委託費および他会計へ繰り入れ
  この二つの項目は1.79倍となっている。この倍率からみれば23%の削減は可能である。



国会の議論は何故まとまらず決めることが出来ないのか
● 共通目標がない
  
国会の議論では目的/目標設定の議論と手段の議論が明確に意識されず、混沌としている。
  
消費税の議論がその典型であり、消費税は財政再建の手段にすぎない。
  
目的:大幅な赤字を解消し、財政を立て直すこと
  目標:赤字国債の発行停止を○○年度までに達成する。累積赤字を××年度までに達成する。
  手段:歳出削減、歳入増加
  対策:実現のためにどのような対策をとるか。「財政健全化責任法案」は政治の駆け引きに使われ日の目を見てい  ないが、この様な箍をまずはめることが第一歩である。
● 鳥瞰図がない
 昭和62年4月に経済構造調整特別部会報告書(新・前川レポート)が提出された。このレポートは当時貿易黒字が積み上がり、一方では高関税で輸入を制限し、長時間労働で安く作った製品を輸出することが国際的な非難の的となっていた。このような事態を打開するために構造調整の指針をこのレポートが示した。以後平成10年くらいまではほぼこの指針に沿った政策が取られてきた。指針の骨子は以下の通りである。
  1. 内需拡大(住宅建設、社会資本整備、産業構造変換のための投資、消費拡大)
  2. 産業構造の国際的調和(海外直接投資、内外競争条件の整備)
  3. 輸入拡大と市場アクセスの改善(基準・認証制度の縮減、工業製品の関税撤廃、政府調達拡大)
  4. 国際化にマッチした農政(生産性向上、産業としての自立、農村地域の活性化)
  5. 働き過ぎの解消(労働条件の改善、ワークシェアリング、労働力シフト、就業構造の変化)
  6. 地域経済への対応(構造不況地域への対応、地方都市の重点整備)
  7. 世界への貢献(大幅黒字の還流、円の国際化、経済協力、国際交流)
  以上の指針は今後何をすれば良いのかを包括的に示していた。 しかし、25年を経過した現在、日本は新たな構造の  変化に直面し、どのように行動すれ良いのかを示してくれる包括的な指針を持っていない。これは政治家、経済学  者、経済団体など本来この問題にイニシャティブを取るべき人々の怠慢である。
● デフレの克服
 デフレの原因は経済構造の変化によるもの。
前川レポートが出されたときの日本の状況と現在の状況とは全く異なっている。世界的な経済構造が変化し、日本の経済構造も大きく変化したからである。昭和63年当時は中国および東アジアの諸国はまさにこれから発展しようとする出発点に立ち、日本は技術力、経済力でアジア諸国とは格段の差があった。
 いまや米国は1989年の冷戦終結後、イラク湾岸、そして9/11後のアフガン・イラクと立て続けに戦乱を経験し、また、テロとの戦いに消耗して且つての圧倒的な経済力を失い、経済的には低迷している。欧州は1993年EUをスタートし統合通貨を発行して大欧州経済圏を作ろうとしたが、ギリシャの金融危機に見られるごとく経済力は低下している。
一方、中国は急速な経済発展を遂げ、豊富な労働力を生かして安価な商品を世界中に供給している。
日本は輸入拡大に努めた結果、輸入額は2008年には1987年の輸入額の4倍に達した。輸出は価格や技術力で中国、韓国に押されぎみであり、優位性を失いつつある。その結果2012年度は貿易収支が赤字となり、今後さらに赤字幅が大きくなるだろうと予測されている。

 前川レポートでは内需拡大を謳っているが、内需は縮小傾向にある。その典型的な例が自動車で、1990年をピークとして国内の販売台数はなだらかに減少している。


 内需縮小の最大の原因は、高齢化に依る購買層の減少にあると考える。20歳- 60歳の労働人口は1998年をピークとして急激に減少しつつある。2010年には1987年よりも二百二十万人少ない6,760万人となった、率にして3%強である。ピーク時に比べれば7%強の減少で、この減少傾向は今後変わらないことを思えば、内需の拡大を望むのは難しい。

 輪転機でお札を刷ってばらまきインフレにしよう、などという戯言をいう政治家がいる。しかし、ものが有り余り需要が減れば、物価は下落しデフレ傾向になるのは当然の成り行きである。実需を伴わないインフレを作り出すのは経済破壊以外のなにものでもない。
 
● 公共建造物の維持管理ができなくなりつつある。
 内需拡大のために住宅、道路、鉄道、空港、大規模土地開発、などが行われ、テクノポリスと呼ばれる技術集約型新都市が建設された。その結果はどうであったか。国土交通省は平成23年2月に「国土の長期展望ー中間取りまとめ」を出し、日本が迎えようとする暗い未来を描き出した。人口減少により社会インフラの維持管理費用の負担が大きくなり、特に地方自治体では維持管理費を負担しきれなくなるだろうという予想を示した。人口が減少するにつれ、大都市への人口集中が一層進み、地方の小さな自治体では平均人口減少率よりもさらに高い人口減少率となって、その地区の公共建造物を支えきれなくなることを指摘している。
 下図に示すごとく、2033年に全国での維持管理および更新の費用負担は、2010年時点の2倍となることを予想している。「維持管理・更新を適切に実施できない場合は、機能、安全性の低下が懸念される。」と指摘しているが、2012年12月2日の笹子トンネル崩落事故はまさにこの指摘が的中していることを示したものだ。
 政治家が公共投資を唱え始めたなら、注意をしなければならない。新しいものを建造するということは子孫にその維持費の付けをまわすことに他ならない。それを無視するような政治家は、亡国の徒である。

● デフレ対策はどうすれば良いのか
 企業は海外企業との競争に勝つためと称して、人件費を切り詰め商品価格を下げるか、生産を海外にシフトして生き残りを図ってきた。その結果非正規雇用者が多数生まれ、安定した将来の生活を望めない若者は結婚もせず子供も作らず、人口の減少に拍車をかけている。従って内需は減り、企業はさらにコスト削減を図ることになる。まさに負のスパイラルに落ち込んでいるのが日本の現状である。これを食い止めるには
 1. 安定した雇用を作り出し、少子化に歯止めをかける。
 2. そのためには正規雇用者を増やし、適正な賃金をはらう。
 3. そのために、企業は今までになかった新たな品物やサービスを生み出し、利潤を得る努力をしなければならない   。政府はそのような方向へ向かう企業に重点的に支援をする。
 4. 行き過ぎた規制緩和や、2重3重の中間搾取を許さないような仕組みを作る。
 5. 大量の国債によって国に吸い上げられたお金(700兆円)が投資に向かうよう、国は国債の償還を急ぐ。赤字   国債発行に大急ぎで歯止めをかけなければならない。
 6. 富裕層の課税を引き上げ、保有資金(286兆円)が投資に向かうようにする。

 これは新たな構造改革であり、政府と民間が知恵を出し合ってシナリオを作り上げなければならない。誰が前川氏に代ってシナリオを書きいてくれるのか。まずは総選挙で投票者が良く考えることだ。


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