ちょっと発表



2018.04.29   4組 大田 充

老人と子供たち

 東北大震災直前に50数年ぶりに小田原に帰郷しました。
無為徒食の身を持て余しておりましたので、自宅近くの囲碁同好会に早速入会しました。その同好会は会員数が80名を超え、会員の平均年齢は二年前の統計では77歳、一週間に水、木、土、日曜日の4日間例会が開催されていました。そして例会の参加者数は毎回40~50名で、年に三回開催される大手合大会には60数名が参加する老人集団でした。

 今後の少子高齢化の日本の社会を考えたとき、なんとかこの元気な老人パワーを子ども達の教育に生かせないものだろうかと考え、小田原市教育委員会に相談に行きました。
というのも、当時、酒匂中学校では窓ガラスが割られ、校舎が水浸しになる事件が新聞に報道されていましたし、いじめの問題も話題になっていた時期でしたので、この老人パワーをなんとか活用できないものだろうかと相談に伺ったわけです。
小田原市教育委員会では現場の校長先生にお任せしているので、現場に直接相談してほしいとの回答でした。
早速、酒匂中学校に伺って、社会経験豊富な元気老人が授業中に教室の片隅で座っているだけでも生徒間のいじめ問題の解決や経験の浅い若い先生方の相談相手にもなれるのではないかと相談したわけです。
結論から言えば「間に合っています」とのことで、提案は断られてしまいました。酒匂小学校でも結果は同じでした。恐らく教室は先生が一国一城の主で他人の干渉を嫌がったのではないかと推察しました。

 一方、近隣の老人介護施設からは入居者の囲碁のお相手をしてほしいとの要請が囲碁同好会に寄せられ、多いときには五つの介護施設で、その近くに住む複数の同好会会員にお願いして碁のお相手をしてもらっていました。これは小田原市の「アクティブシニア応援ポイント事業」の一つでもあり、今も続いています。

 介護施設を垣間見る機会に感じたことは、「入居者を介護することは大変なことだな」ということです。ある介護施設の入居者を手押し車に乗せて久野のフラワーガーデンを散策したことがありますが、散策しながら入居者に声を掛けても無表情、バラの花を顔に近づけて話しかけても無表情。これには暗澹たる思いでした。
「私ができることは、生きているうちは心身ともに健康を維持し、若い人たちに迷惑を掛けない努力をすることだ」と自分自身に言い聞かせています。

 今、一番楽しいことは、地区の小学校の「見守り隊」の一員として毎朝十字路に立って通学の児童を誘導していることです。中には仲良し4人組の女子児童が私の前を通るとき、声をそろえて大きな声で「おはようございます!」と言って私を驚かせたりもします。「仲良し4人組」と声を掛けると、「私たち喧嘩することもあるよね」と言って通り過ぎていきます。また、「おしっこ、したいの」と言ってくる児童もおり、自宅のトイレを貸したこともあります。翌日にはお母さんが子どもの登校時に付き添ってきてお礼を言われました。
毎日の児童の誘導ですので、私の顔を見知ってか、街の路上で子ども達に会う機会があるとハイタッチしてくる子どももいます。このような時には、「見守り隊」に入って良かったなと思います。

 私の一番の願いは無料の寺小屋塾を開いて子ども達に分からないことを教えることですが、万一事故でも起こったときには「誰が責任を取るのか」との問題に直面して、未だに実現していません。

 私らがこの世を去ってから直面するであろう20年、30年後の超高齢化社会の日本。日本人の英知、特に若い人の力でこの困難を乗り切っていくことを願っている今日です。



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