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  2015.04.02 7組 斎藤良夫

砲弾と湖底のふるさと


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  丹沢湖畔の高台に神尾田神社(神奈川県山北町)がある。鳥居をくぐり石段を上った先に、一対の砲弾が並んでいた。岩石を積んだ台座の中心に砲弾が屹立している。それを噴煙に見立てれば、今なお噴火を続ける「西之島火山」のようだ。
 境内に「想郷の碑」が建っている。砲弾から戦場に散った兵士の慰霊碑と思ったが、碑の裏面に「神尾田地区三保ダム移転者」とあり、37人の名前が刻まれていた。ダム建設で生まれた丹沢湖に沈んだ家々の世帯主の名前だった。湖底に沈んだのは神尾田地区を含む旧三保村の4地区で、総世帯数と家族は223軒、約1000人にのぼる。
 18年間続いた神奈川県「丹沢湖ビジターセンター」が今年3月限りで廃止・閉鎖された。そのお別れ展示を見るために閉鎖直前の3月28日(土)に訪問した。ここで昨年秋に、私と同じ小田原市国府津に住む主婦、野地悌子さん(68歳)が、丹沢湖ができる前の旧三保村の風景を紹介した水墨画展を開いた。野地さんは同村世附(よずく)の出身で水没前の写真と自らの記憶を重ねて、生家の旅館「落合館」をはじめ「湖底のふるさと」を描いた。この水墨画展とビジターセンターの回顧展示の話が今回の私の丹沢湖行のきっかけだった。
 神尾田神社の境内から丹沢湖が一望できる。台座には何も刻まれていないが、砲弾鎮座は戦没者の慰霊碑と言えよう。センターの帰路に神尾田神社に立ち寄ったが、砲弾との出会いは思いがけないものだった。湖底に沈んだ村から各地に移り住んだ移転者とともに、村から出征して亡くなった戦没者も、また、ふるさとを失ってしまっていたのだ。  神尾田神社境内から丹沢湖を一望できる。湖畔のサクラも二分咲きで、この日は天候に恵まれ、多くの観光客や釣り人が繰り出していた----。

2015年3月限りで閉館になった神奈川県立丹沢湖ビジターセンタ
神尾田神社と砲弾の碑
丹沢湖
丹沢湖ビジターセンターの惜別展示
来館者の寄せ書き
湖底に沈んだ旧三保村の「丸石だけを祭った道祖神
湖底に沈んだ旧三保村の「世附(よづく)中道の風景」
湖底に沈んだ旧三保村の「野地悌子さんの生家『落合館』
神尾田神社境内にある砲弾の碑
丹沢湖
神尾田神社境内にある一対の砲弾の碑
神尾田神社境内に立つ「想郷の碑」。湖底に沈んだ家の世帯主の名前が刻まれて


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