ちょっと発表



2015.08.28 7組 斎藤良夫

 コメント 「生誕100年「安藤軍治」特別展を終えて」

 
 「名残リ惜しくて、また来てしまいました」と、二度三度訪れた女性。画伯との交流があり、懐かしい思いで最終日まで日参の八十一歳の男性等々----。

   昭和時代の女性像を明るく作品に遺した小田原市国府津出身の画家「安藤軍治」(旧姓「石塚」1915年-1973年)。2015年8月19日から小田原市栄町の「ギャラリー新九郎」(伊勢治書店本店3階)で開かれていた「軍治生誕100年」を記念する画業特別展が24日、無事お開きになりました。来場者は延べ450人を越えました。「延べ」と言うのは上記のようなリピーターが多かったためです。

  会場入り口に立った来場者が先ず口にするのが「すごい!」という感嘆の声。ギターを手にした女性や出演前のバレリーナなど高さ160cmを超すF100号の大型油彩画をはじめ、一目で目に入るように扇状に展示された数々の女性の画像群に圧倒されたためなのでしょうか。加えて半世紀以上を経た作品とはおもえない色彩の鮮やかさも手伝って「感動しました----」という言葉を、私は何回耳にしたことでしょうか。

 軍治画伯の生家は国府津にあった「石塚材木店」。小田原中学(現・小田原高校)、東京美術学校(現・東京芸大)を卒業後、東京を拠点に日展、一水会展等で活躍。雑誌『主婦の友』の表紙画を15回にわたって掲載するなど1950年代から70年代にかけて数多くの作品を残しましたが、73年(昭和48年)に57歳で急逝しました。軍治画伯は国府津小学校と国府津中学校に作品を寄贈しており、現在、ともに校長室に掲額されています。

 展示された作品は軍治の遠縁にあたる剱持雅章さん(学校法人「平塚学園」)が30年間に渡って収集したものです。会期中の8月23日(日)午後、画伯の長男、安藤直人さん(東京大学名誉教授)のギャラリートークが行われました。安藤さんの専門は「木質構造学」。全くの偶然ですが父の生家の「材木店」と<木材>でつながっていたのです。そんなエピソードを交えながら父親像と作品を解説。「実は、美校への入学は彫刻でした。絵の具が買えなかったからです。(遺品の)スケッチブックなどをみると、小さい頃から教師や友達の似顔絵を描いていました。それだけ、画が好きだったのです」「父の画は、モデルの顔が写真のように似ている『肖像画』ではなく、モデルに似ている似ていないではなくモデルを幅広く立体的にとらえた『人物画』と言えます。そして、戦後の昭和の時代にあって女性を明るく描き、画そのものも大変素直に描いています」。

 「素直さ」という点については、絵筆を握る皆様が異口同音に述べていました。特に、コマーシャリズムの中で生活しているセミプロ、プロの画家ほどその思いは強く、「美しさを追求する、その原点回帰を思い出させてもらった」と言い、「自らの今の姿勢を反省させられた」とまで話す画家もいました。作品の前に長時間たたずみ、涙を流しながら鑑賞する女性もおられました。

 画伯の趣味は釣り。会場にはそんな釣行での風景画も並べられました。作品の監修と展示構成は全て安藤直人さんの手によるものです。トークでは、全国高校野球の「第50回記念ポスター」が軍治作品であると紹介されました。折から甲子園では「100周年」の記念大会が開催中で、ポスターの現物は展示できませんでしたが、ポスターと共に画伯が写った写真が来場者の目をひきました。ポスターは画伯が亡くなる5年前に制作されたものです。展示作品は女性像が中心ですが、画伯の制作の幅の広さがうかがえます。

 来場者の中に「軍治作品」を持参された方が6人いました。「石塚軍治」時代の珍しい作品が一点ありました。安藤直人さんや剱持雅章さんにとって「驚きの新発見」でした。しかし、大半の方は「安藤軍治という名前を初めて知った」「小田原にこんな画家がいたのですね」と話していました。来場者の一人、加藤憲一・小田原市長は「----描かれた女性像はいずれも魅力的。郷土が生んだ画家の足跡を、今後多くの方に知って頂きたいと感じました」と、市長日記(8月25日付け)に写真を添えて記しています。

 「生誕100年『安藤軍治』画業特別展」はマスコミでも紹介されました。「読売新聞(湘南版)」、テレビ「J:COM小田原」、インターネット新聞「あしがらネット」などです。私も「FMおだわら」で20分間ほどお話しさせてもらいました。搬入から搬出まで、「コレクター訪問・剱持雅章氏紹介」(新九郎通信)等々、「ギャラリー新九郎」の木下泰徳・和子ご夫妻には大変お世話になりました。アルバムに見られる広角レンズを使ったワイド写真。会場の雰囲気が良くお分かりになると思います。国府津在住の飯島俊幸さんのご協力によるものです。

 夏の6日間の特別展は終わりました。しかし、この展示会は生誕の地「国府津」の地元の方々をはじめ小田原の皆様に「安藤軍治」の名前と画業を知って頂く第一歩でもあります。今後、軍治作品をひとりでも多くの皆様にご覧になって頂く機会が増えること----。それが、特別展を企画した「安藤軍治画伯を偲ぶ会」の願いでもあります。

 皆様、ありがとうございました。



          1つ前のページへ