ちょっと発表




   魚名魚字 Part 3

2014.12.22   3組 佐々木 洋

カゴカキダイ・マンボウ・ハタハタの話

 かなりの魚食通、しかも、相当なナマ魚通と見られる4組の吉田さんが次々と魚食レポートをアップロードされるので、ナマ半可魚名魚字通としては、その“ストーカーする”(?後を付けること)のに精一杯の状態になっています。本来「後学のために」という言葉は「“後”の自分の“学”とするために」という意味があるのですが、“後”で“学”んだ“後学の事項”を交えて「魚名魚字Part3」をお贈りします。「かごかき鯛とマンボウ」http://odako11.net/Happyou/happyou_kumo_12.htmlと「鰰(ハタハタ)の季節がやって来た」http://odako11.net/Happyou/happyou_kumo_13.htmlの記事および写真と併せてお読みいただければ幸いです。


 カゴカキダイの巻

 防波堤釣りをしていて釣れてくることもありますし、水族館でお目にかかったこともありますので「カゴカキダイ」という魚名は知っていたのですが、どうしてこのような魚名が付けられたのか知らずにいました。この度、Web11を読んだおかげで、「駕篭担(舁)鯛」という魚字があり、その語源の由来が「眼の上から背びれにかけて著しく盛り上がっていて、この特徴的な盛り上がりが、肩の盛り上がった駕篭かきを思わせる」ところにあるということを初めて知りました。

 この熱帯魚にも似た魚の姿をみて駕篭かきの肩をイメージするのは現代人にはとてもできそうにありませんが、ヨコシマ、シマダイ、オトノサマ、カワヒシャ、キイゴッパ、キョウゲンバカマ、ギンボシ、ゲタノハ、シマイオ、シマキリ、タテジマなどといった数々の“地方区”の魚名をさしおいて、カゴカキダイが“全国区”の標準和名となっているところを見ますと、往時には駕籠や駕篭かきの姿が日本のあちこちで身近に見られ、しかも駕篭かきたちの肩が一様に著しく盛り上がっていたものと思われます。因みに英名には、タイガース・カラーの縞模様(Stripe)に発した”Stripey”という平凡な魚名もありますが、「フットボール選手」に由来した“ Footballer”というのもあって、プロテクターが入っていて肩が盛り上がって見えるフットボール選手が連想されるところから来ているようです。古今東西を問わず、この魚は肩の盛り上がりが注目されていたわけですね。

 たまに釣れてくるカゴカキダイは小さいものばかりでしたし、熱帯魚ばりの風情をしているので、「煮ても焼いても食えない」とても食用にはならない魚だとばかり思っていました。ところが、吉田レポートで「小田原のスーパーの魚売り場で売られて」いて「刺身で食べるとうまい」と知って驚きました。やはり、Web11には一読の価値がありますね。更に“後学”によると、「白身でクセがなくて、刺身にすると絶品で、塩焼きにしても実に美味しくて、煮つけにすると白身ならではの端正な美味しさが楽しめて、丸ごと唐揚げにしても味が良く、特に寒い時期のものは脂がのっており非常にうまい。」とベタ褒めされていることが分かりました。Web11の吉田レポートを読んだお陰で、カゴカキダイが早晩我が家の食卓にも載ることになりそうです。有り難いことです。
  
 ところで、このカゴカキダイは「鯛(タイ)」ではありません。日本には、特に扁平な体形をした魚で、魚の王様である「鯛」にあやかって「…ダイ」の魚名を名乗る“似非鯛”が多くカゴカキダイもその一種なのです。カゴカキダイの場合は、スズキ目スズキ亜目タイ科の“本家の鯛”と同じスズキ亜目のカゴカキダイ科ですからまだ“似非鯛”で済むのですが、中にはスズキ目にも入っていないキンメダイやアコウダイ、マトウダイなどといった“嘘っぱちダイ”もいます。このような魚名詐称については号を改めて“告発”することにしましょう。


 マンボウの巻


 インターネットにマンボウの画像(下左)と図解(下右)が載っていました。写真には「優雅に泳ぐマンボウ」というキャプションが付いていましたが、私には「すっとぼけた」とか「ひょうきんな」とか、精々「飄々とした」といった形容しかできません。かつて北杜夫さんが自らを“どくとるマンボウ”と称していたのも自分を「優雅」だと思ったからでは決してないはずです。「最大で全長3.3 m、体重2.3 t にもおよび、世界最大の硬骨魚のひとつである」というレッキとした触れ込みがありながら、尾鰭(この場合はオビレ)が退化した“魚離れ”をしたナサケナイ体形をしていて、見るからに泳ぐのが遅そうです。

 東北地方の一部で「ウキキ(浮木)」という魚名魚字が与えられているのも「ヤツは泳いでいるのではなくて浮いているだけなのさ」と思われているからに違いありません。鹿児島では「しきり(尻切れ)」という魚名になっているそうですが、「尻切れトンボの話」が「尾鰭(尾の場合はオヒレ)を付けた話」の対極をなしていることを示しているようにも思えて愉快です。

 

 時折海面にからだを横たえた姿のマンボウが観察されることがあり、丸い体が浮かんでいる様が太陽のようであることからOcean Sunfish という英名がついたようです。このようにノンビリと海中を受動的に漂いながらクラゲや動物性プランクトンを食べる「ノ―天気な魚」だと思い込んでいたのですが、この度の“後学”の結果、胃の内容物から深海性のイカやエビなどの残骸も発見されていることから、イカやエビなどの餌を捕食するだけの遊泳力があり、更に、マンボウが海流に逆らって移動したり、勢いをつけて海面からジャンプしたりすることができると分かり、「マンボウもやればできるじゃないか」と思い直しています。

 「“漫”然かつ“呆”然と気ぬけしてぼんやりとした日々を過ごしているからマンボウなどというナサケナイ魚名になっちゃうんだ」というのも私の思い込みで、実際は丸い体形を表した「マル(円)のボウ(坊)」に由来しているようです。因みにマンボウの学名の「モラモラMola mola」の「モラmola」も、ラテン語で「ひき臼」に当たる言葉で、やはり丸い体つきをマンボウの特徴として表現したもののようです。魚字としても、「翻車魚(はんしゃぎょ)」という字があてられています。「翻車」とは、「水をくみ上げる機械=水車」あるいは「ひっくり返った車輪」という意味で、「マンボウが、“水車”の形に似ている」あるいは「マンボウの背びれを車軸と見れば、“車輪がひっくり返った”ような姿に見える」というのがこの当て字の由来のようです。他にマンボウは「満方」「円魚」が由来という説や、お守り袋の「万宝」に見た目が似ているからとする説もありますが、マンボウの魚名魚字の語源だけに、ここはこの程度で“丸く”おさめておきましょう。

 “後学”した結果「肉は白身で柔らかく、刺身(肝和え)や天ぷらなどで食べられる。身の他に腸や肝臓(キモ)も食べられる。また、目も食べる事ができる。」ということも分かりました。これとともに紀州の紀北町というところに「マンボウと殿様」という以下の要旨のような民話が伝えられているということも知りました

御領内をお見まわりになるため長島浦へやって来られた紀州の殿様に、浦の人々が鳩首協議した結果「自分たちが一番美味しいと思うものを召し上がっていただこう」として選んだのがマンボウ。これが殿様にえらく受けて「このマンボウとやらは初めてじゃ。こんな美味しいものがあったとは!今後、浜に上げたなら、必ず和歌山のお城までもってまいれ。」とのご託宣が出て今度は浦の人々が大弱り。自分たちが好きなものが食べられなくなる上にマンボウが浜に上がるたびに漁を休んで誰かが和歌山までもって行かねばならないとはとんだ難儀だからだ。そしてそれ以降、長島浦の浜には、マンボウは一匹も上がらなくなった。だが、漁方の家では、マンボウの肉を相変わらず食べていた。マンボウを浜に上げさえしなければいいのだから、獲ったマンボウを沖の舟の中でさばいて、切りきざみ形をわからなくしてから手桶にいれて家に持って帰るようになったからだトサ。


 この「マンボウと殿様」の話に似た「マンボウは漁師が好んで自分たちで食べてしまうから市場に出回ることがない」という話を私も聞いたことがありました。そして実際に、営業マン時代にお客様を伊豆半島の北川にご招待して船釣りをしていて思いもかけずマンボウが釣れた時に、「この魚は調理が難しいから」とかなんとか称して船頭にソソクサと持ち去られるという一件もありました。ですから、その後暫く経ってから魚屋さんの店頭に“幻のマンボウ”の姿を見た時には“積年の恨み”もあって一も二もなくなく購入決定、すぐさま夕餉の卓に載せました。しかし食した結果得られた感想は、吉田レポートの「マンボウの身は白子のように柔らかく特にこれといった味は無い。肝と一緒に醤油と好みによってポン酢を垂らして食べるとソコソコ食べられる。」と似たり寄ったりのものでした。さすが魚食通の吉田さんも紀州の殿様や漁師の皆さん程の舌はお持ち合わせではないようです。それとも、店頭に出されるマンボウは漁師が“良いとこ取り”したあとの“残り物”なのかも。

 ハタハタとついでにブリコの巻

 ♪秋田音頭です(ハイ、キタカサッサー、ヨイサッサ、ヨイナー)♪という歌詞(合いの手)で始まる民謡の秋田音頭では♪秋田名物八森ハタハタ、男鹿で男鹿ブリコ(アーソレソレ)♪と歌われています。「ハタハタ」は精々20センチ前後にしかならず、吉田食通レポートでも「一度に10尾くらい食べないと食べた気がしない」とされているような小魚で身も小さいので、さすがのナマ魚通殿も刺身でというわけにはいかなかったようです。そして「ブリコ」はハタハタの“図体にしてはデッカイ”卵巣で、これが「糸を引きながら口の中で砕けるこの食感は何とも言えない幸せを感じる」と食通殿をうならせているように、ハタハタの商品価値を高めています。身のうまさからいって一級品のハタハタにしてもブリコが入っていなければ値打ち半減してしまうそうです。

 「ハタハタ」という魚名は、もともと北日本各地での魚名で、海が荒れて雷鳴とどろくようなときに獲れることから雷光の古語〈はたはた神〉に因んで名づけられたようです。魚字として「鰰」という国字(中国から渡来した漢字ではなくて日本で作られた文字)が当てられているのも同様に「雷」に端を発しており、「雷魚(かみなりうお)」という魚名と魚字で読んでいる地方もあります。では「ブリコ」の方はどうかと言うと、「昔水戸の藩主であった佐竹公が関ヶ原の合戦の後に秋田に国替えさせられたときに、ブリ(鰤)の料理で正月を迎える習わしがあったところを、ブリがとれない年にハタハタで代用した。そしてその卵をブリコ(鰤子)と名付けた。」という限りなく判じ物に近いのですが、史実に基づいた“由緒正しい”語源の由来があるのであって、松田聖子を称していう「ブリッコ」などの新造語と一緒にされるのではハタハタ迷惑ということになります。

 秋田の郷土慮娌である「塩汁(しょっつる)」はハタハタの魚醤を鍋の調味料として使ったものですが、吉田さんのように「鍋に入れることもあるが、たいていは塩焼きである」だけではなくて、「煮つけ」や「干物」の他に、鰓をとり水洗いしたハタハタを昆布だしでゆであげて、これをポン酢や生しょうゆをつけて食べる「湯あげ」などの食し方があることが“後学”の結果分かりました。驚いたことには、鳥取県では、刺身にすることがあるそうです。鳥取県にはよほど手先の器用な料理人が住んでおられるのかも。この他に「鮮魚で手に入れたら三枚に卸して酢締めにするとビックリするほどうまい。これは病みつきになる。」、「当然の如く簡単かつうまいのは塩焼きであろう、塩をして軽く干してから焼く。皮がねっとりして旨味が強くしかも香ばしい。」、「市販の干物も当たり外れがなくどれもうまい。変わり種では粉をまぶしてからのムニエル。ハタハタの皮目の風味が生きてくる。」といったように絶賛の辞を連ねたホームページもありました。「たかがハタハタ」と思いこんでき私が「されどハタハタ」と思えるようになったのもWeb11のお陰です。同様に私の拙文を読まれて「たかが魚名されど魚名」と思って下さる人が一人でもいてくれたらと願っています。
                                                 以 上