ちょっと発表




   魚名魚字 Part 5

2015.03.03   3組 佐々木 洋

 似非ワカサギ&カスベの巻

 吉田さんがまた、「ワカサギとフカヒレの偽物」http://odako11.net/Happyou/happyou_kumo_15.htmlをアップロードしたものだから、またしてもマイナーな魚の魚名と魚字のことを色々調べて書かなければならなくなってしまいました。思うに、「俺は鯛を食ったぞ」などと言っても少しも食通っぽくなりませんから、ひたすらマイナー魚路線を走ることになるのでしょうね。食通の吉田さんのストーカーばかりしていていたら、いつになったらメジャーな魚の魚名と魚字のことを書けるようになるのか分かりませんが、取りあえず「チカ」を含めた「似非ワカサギ」と「似非フカ」の[エイ]について以下の通りレポートしますのでご笑覧ください。


 似非ワカサギ”の魚名魚字


 ところで吉田さんは、上記のレポートで「チカ」を「ワカサギもどきらしい」とされていますが、私が仙台在勤中(昭和47-49年)に、石巻や女川方面に釣行した時に釣ったことがある「ウミワカサギ」だと思いますよ。もっとも、「本家ワカサギ」釣りには血道をあげていたのですが、「似非ワカサギ」は本命の魚が釣れない時に釣った記憶しかありません。受験で言えば“滑り止め校”みたいな存在だったんですね、ヘッポコ釣り師の私にとっては。


改めて、本物と似非の違いはどこにあるのだろうとHP「市場魚介類図鑑」に分かりやすい説明がありました。ワカサギ(上)は尻ビレの前方端(赤)が背ビレの端(黒)よりも前にあるのに対して、チカ(下は逆に尻ビレの前方端(赤)が後方にあるのだそうです。また、ワカサギは海から汽水域、淡水でも生きていけるのに対して、チカは淡水域には進入できない純海産種だとも。餌の豊富な海で育つせいかチカはワカサギより大きくて全長20cmほどにまでなるそうです。
 
ワカサギ
 
チカ

 学問的にも、サケ目キュウリウオ科ワカサギ属に分類されているのですから、チカが“ワカサギそっくりさん”になるのも無理はありません。ところで、ワカサギがキュウリウオ科に属しているのということは知っていたのですが、これは釣りたての時に新鮮な胡瓜(きゅうり)のような香りがするからだとばかり思っていました。ところが「我こそキュウリウオなり」と名乗るご本尊がいて、「キュウリウオ科」という縄張りを持つ一家の頭目に位置づけられているということを初めて知りました。縄張りは下の表のように仕切られていますから、チカだけでなく、シシャモも「似非ワカサギ」に限りなく近かったことになります。

ワカサギ亜科 ワカサギ、チカ
アユ亜科 アユ
キュウリウオ亜科 キュウリウオ・シシャモ・カラフトシシャモ・シラウオ
その他 アリアケシラウオ属、カラフトシシャモ属など11属

 さて「チカ」という魚名ですが、ロシア語の「小さい、小さくて可愛い」という意味を持つ“чка”が語源で「小さい魚」という意味だという説が見つかりました。確かにチカは”Hypomesus japonicas”という学名からすると“日本専属”のように見えますが、北海道及び三陸海岸以北の本州の日本領海だけでなく朝鮮半島、更には、カムチャツカ半島、サハリン、千島列島の沿岸などといったロシアの“縄張り”にも生息しています。「イクラ」と同じようにロシア語が日本語化したとも考えられますが、“чка”は確か接尾辞で、「~ちゃん」というような使い方しかできないはずです。一方。アイヌ語が起源ではないかと思ってさがしてみたのですがウソっぽい説があっただけでした。ここはやはり” japonicasっぽい”「『ちか』は『ちこ』と同義語で、『小魚』を意味する」という説をとりたいと思います。「『ち』は古語で“数”、『か』『こ』は“食物”を意味することから、『ちか』は“多数の魚”を意味している。」と続いて、これがチカの魚字「千魚」とも符合するからです。実際に“滑り止め”でチカ釣りをした時も群れをなして泳いでいましたよ、いかにも「千魚」っぽく。

 因みに、同じく「似非ワカサギ」の「シシャモ」は、和人が北海道に“侵入”するよりずっと以前の大昔からアイヌの人々重要な海の幸であっただけにレッキとしたアイヌ語が語源になっています。つまり、アイヌ語の「スス(柳)」と「ハム(葉)」で「ススハム(柳の葉)」。アイヌ伝説によれば、シシャモは「柳の葉っぱ」を神様が魚にしたものだそうです。それで、魚字の方もアイヌ語とアイヌ伝説そのまま「柳葉魚」となっているわけですね。英名もなんと”Shishamo smelt”でアイヌ語そのまま。「本家ワカサギ」も英名は”Japanese smelt”ですから、さすがキュウリウオ一家同士で、英名命名者に「匂いsmell」を意識させたのでしょう。但し、”smell”は悪い匂いを意味するようですが、これは、英名命名者の目じゃなくて鼻に触れたのが獲れたてのワカサギやシシャモじゃなかったため、独特のキュウリに似た「香りfragrance」が感じられなかったからではないかと思われます。


 エイ、またの名はカスベと発しやす

 吉田さんも上記レポートで「カスベはエイである」とマトモに書いているように、「カスベ」は「エイ」の地方名とされています。しかし続いての、「フカの遠縁みたいなものと思っている」という“ご託宣”には「えっ、そんなアホな!」と思いました。カスベは、ほとんど下処理済みされた切り身の状態で売られていますので気が付かなかったのでしょうが、原型は下左の通りで、西日本では大きいものが「フカ 【鱶】」の名前で出ている下右の「サメ(鮫)」とは大違いだからです。しかも、エイの仲間にも、強力な毒針になっている背びれで、何の罪もないオーストラリアの環境保全主義者を刺し殺したアカエイのような“テロリスト”もいますが、サメ一家のジョ―ズ大親分から見れば下っ端に過ぎず、「そんなチンピラと“遠縁”呼ばわりされる筋合いはねえぜ」とガンをつけられるに違いないとも思ったからです。


 
エイ
 
サメ

 ところが改めて調べてみると、学問的にはエイもサメも同じ軟骨魚綱板鰓亜綱に属していて、鰓裂が体の下面に開くものがエイ、鰓裂が体の側面に開くのがサメというところだけが違うということが分かりました。「単なる食通さ」と内心で思っていたのですが改めて「吉田さんって意外とガクモン的だったんだ」と思い直しました。しかし、いくらガクモン的だからと言って、エイの切り身を食しているくせに「フカヒレの偽物」呼ばわりするのは如何なものかと思います。エイにも尾鰭(この場合はオヒレと読みます)が付いていて、ヒレを干したものが「エイヒレ」として、酒の肴になっているということをお忘れなきように。

 ところで「カスベ」を、その形が北海道の地形に似ていることから、「北海道の魚」と“詐称”する向きもいますが、私は東北大震災が起こるまで在住していた福島県いわき市の店頭に並んでいるのを買って食したことが何回かあります。秋田市では「カスベ祭り」(別名:「土崎港曳山まつり」)が行われていて、お祭りの時には土崎地区のほとんどの家庭でカスベを煮付けて家族揃って食べる慣わしがあるというのですから「カスベ北海道の魚説」がマユツバものだということが分かっていただけると思います。但し、「カスベ」の魚名がアイヌ語の「カスンぺ」または「カスムペ」に由来しているのは確かなようです。しかし、だからと言って、アイヌ語の音からそのまま「糟倍」という魚字が当てられているのは気の毒ですから、「鮊」またはカマスにも用いられている「魳」をもって“Web11認定正式魚字”としてカスベに進呈することに致しましょう。

 ついでに本名の「エイ」の魚名と魚字についても調べてみましたのでご紹介しておきます。魚字の一つは「鱏」。魚偏に「覃」ですがこれには「美味」という意味がありますから、昔の中国にも吉田さんみたいな食通がいて、食したエイにこの魚字を進呈したものと思われます。もう一つ「海鷂魚」という魚字がありますが、「鷂」は中日辞書によると「ハイタカ」ですから、エイの泳ぐ姿が翼を広げて飛ぶ鷹の一種に似ているところからこの難解な魚字となったのだと思います。魚名の語源についても色々な説があって、「その形容をいうエダヒラキ(枝開)の義」やら、「尾が長く桝の柄に似ているためにエと名づけた」などなどなどマコトシヤカな諸説がプンプン。私は寧ろ英語名の”ray”と語感が近いなあと妙な感じ入り方をしました。

 メジャーリーグの「タンパベイ・レイズ」は、もともとフロリダ湾に多く棲息する「イトマキエイ」(英語名devil ray)に因んで「デビルレイズ」として誕生しました。この「イトマキエイ」の学名がまた“Mobula japonica”となっていることから、もしかしたら和名の「エイ<ei>」から英名の「レイ<rei>」ができたのではないかなどとマコトシヤカに考えたりしています。

 更に、「イトマキエイ」の親分格が「オニイトマキエイ」で、これが「マンタ」(英名:Manta ray)とも呼ばれる世界最大のエイ。体の横幅8m、体重3tに達する大物がいるそうです。「イトマキエイ」の魚名は、前端の左右にあるコウモリの耳のような形のひれ(頭鰭)が糸巻を連想させることに由来し、魚字も「糸巻鱏」になっています。しかしこの「エイ(鱏)」は旁の「覃」の意味する「美味」では決してなく、吉田家の食卓にのぼることはコンリンザイなく、従って食通レポートされることもなさそうですので、ついでに触れさせて頂きました。