ちょっと発表




   魚名魚字 Part 7

2015.05.08   3組 佐々木 洋

 マトウ鯛と似非鯛たち

 平塚の「浅八丸」の釣り船に乗ってアジ釣りに行ってきました(4/26)。遥かに年下の釣友の池田さんと宮下さんを左右にして真ん中の釣り座を占めていたのですから、さながら左右を助さんと格さんに守られている水戸黄門様の風情です(下写真左)。朝7時に出港してから、船中の皆さん(全部で20人くらいいたかな)があまり釣れていなかった時期に、似非黄門様の私が“先制の二塁打(*1)”を放ち、大方の予想を裏切って、一時は“竿頭”(*2)になったというので船長が駆けつけて撮ってくれたのが下の右の写真です。私の投稿記事の中の写真の画質の悪さについては、かねがね吉田編集長殿からクレームを付けられているのですが、この2枚の写真は船長の撮影によるものであり、「浅八丸」のホームページに載ったものですから、画質に関する嫌疑については、私は無罪だということになります。(いいえ、判決は船長との共謀罪で執行猶予付き5日の懲役刑です 吉田)


 
助さんと格さんを左右にした似非黄門様の私
 
船長による“先制の二塁打”のスクープ写真

(*1) 「1本の釣り糸に2本以上の釣り針を結びつけて、一度に2匹の魚を釣ること」を“魚釣り業界用語”で      「一荷釣り」と呼び、これをフザケテ「二塁打」または「ダブル」と称したりしてします。
(*2) これも“魚釣り業界用語”で「釣り船に乗り合わせた人の中でいちばん多く魚を釣った人」の意味です。

 結局、サバも何尾か釣ったのですが、「サバを読む」ようなことはせず、帰宅してから並べてみたところ、アジの釣果は下右の写真の通り12尾どまりだったということが分かりました。さすが助さんと格さんは腕利きだけあって似非似非黄門様を遥かに凌ぐ20尾の大台に乗せていました。しかし、老いたりとはいえさすがはご老公にだけは下左の写真で「この印籠が目に入らぬか」とばかりにかざしているマトウダイが釣れてきました。

 

 私はここで自動詞の「釣れる」を使いましたが、それはマトウダイを狙って「釣った」(他動詞)のではないからです。このように狙っていないのに釣れてくる魚を“業界用語”では「外道」と呼びます。「魚名魚字Part3」で私は以下のように述べ、マトウダイの魚名詐称ぶりを“名指しで批判”していますが、まさにマトウダイは鯛の世界においても「外道中の外道」なのです。

 日本には、特に扁平な体形をした魚で、魚の王様である「鯛」にあやかって「…ダイ」の魚名を名乗る“似非鯛”が多くカゴカキダイもその一種なのです。カゴカキダイの場合は、スズキ目スズキ亜目タイ科の“本家の鯛”と同じスズキ亜目のカゴカキダイ科ですからまだ“似非鯛”で済むのですが、中にはスズキ目にも入っていないキンメダイやアコウダイ、マトウダイなどといった“嘘っぱちダイ”もいます。

 タイ科に属するクロダイキダイチダイ、ヒレコダイ、タイワンダイ、アカレンコなどは「親戚筋」ですから堂々と「鯛」を名乗っても良いのですが、アマダイキントキダイイシダイなどはカゴカキダイと同じくタイ科と同じスズキ亜目に属する魚たち、そして、辛うじてスズキ目の中の別亜目に属するエボシダイくらいまでが“似非鯛”の範囲であって、スズキ目の外で同じ“目じゃない”キンメダイ(キンメダイ目)、アコウダイ(カサゴ目)などまで大“目”に見ても「鯛」と言える代物ではありません。マトウダイも独立したマトウダイ目の“棟梁”として一“目”置かれているのですから、いつまでも鯛を詐称し続けていて良いものやら。マトウダイ目は、スズキ目に極めて近いグループであると考えられてきたのですが、2000年代に入ってからの分子生物学的解析により、むしろタラ目との類縁が深く、互いに姉妹群の関係にある可能性があると示唆されるようになったのだそうです。思い切って「マトウダラ」とかなんとかに改称しないと、今度はタラの世界でも“でタラめ”なヤツだと「外道」呼ばわりされてしまいますよ。

 このマトウダイの魚字は、「馬頭鯛」ないしは「的鯛」となっています。右の写真でお分かりのように、それぞれ、口が前に伸びて馬面になっているから「馬頭」、体側面中心にある斑紋が弓道の「的」のようになっているところから付けられた魚名であり魚字なのですが、できれば、不名誉な馬面に注目されて付けられていて「魚名魚字Part6」でご紹介したウマヅラハギと紛らわしい「馬頭鯛」よりも、“衣装デザイン”面に注目して付けられた「的鯛」と呼んであげたいものですね。島根県などでは「馬頭」と書いて「ばとう」と“罵倒”されているそうですが、なんといっても、学名はZeus faberで、ギリシャ神話の最高神「ゼウス」が当てられているのですから、妙な呼び方をすると神罰が当たってしまいますよ、きっと。

 マトウダイの料理法や食味については、吉田魚食グルメ殿の出番ですので多くは語りませんが、今回は右身、左身、中骨の3つの部分に切り分ける三枚下ろしでなくて、カレイやヒラメなど扁平な魚を切り分けるために背骨に沿って切れ目を入れる五枚下ろしにして刺身で食しました。キモもキモ和えにするのでなくてスライスにして刺身に添えました。我が家のカミ様の評価は「いままで食べた魚の中で最高!」とのことで「また釣ってきてほしい」というリクエストがつきました。しかし、これは無理な注文というものです。なにしろ今回だって「釣った」のではなくて「釣れた」のですから。いずれにしてもこんな美味な「外道」は大歓迎です。ちょびっとだけ吉田魚食グルメ殿の真似っこをしてマトウダイさんに語りかけました「ごちそうさん、さようなら…」と。