ちょっと発表



   魚名魚字 Part 9

2015.08.28   3組 佐々木 洋

 オシツケの巻

 いつも辻秀志さん(3組)がきちんと設定してくれるおかげでテニスとアフターテニスを満喫できているのに「同期テニス会」では少々ナサケナイ名前だなと思っていましたので勝手に「樫士テニスサークル」と名付けてみました。「樫」は小田高同窓会の「樫友会」から、「士」は「西向く侍」と同様11期生の「十一」を模したものです。しかし、無い知恵しぼって提案した改名案にはウンともスンとも反応がありませんので、このまま「同期テニス会」でいきそうです。

 ところで、今回の「このまま同期テニス会」のアフターテニスの飲み会(7/27)は、鴨宮駅北口の「べたなぎ」で開かれました。昨年11/25にテニス会が雨で流れたため、急遽しつらえられた早めの忘年会で訪れた時に、思いがけずありつくことのできた“郷土の誇りスミヤキ”には時節柄か出遭うことができなかったのですが、今回はダメモトで注文してみたところ“憧れのオシツケ”がメニューに載っており、思いもかけず生まれて初めて食べることができました。さすが杉山さん御用達の「べたなぎ」です。

 


 スミヤキについては、Web11の「魚名魚字Part 2:スミヤキという名の魚の話」
  http://odako11.net/Happyou/happyou_sasaki_12.htmlで、昨年11/25に訪れた時の話を書いており、榮さんと今道さんを「“スミヤキ知らず”の 同年輩小田原人がいた!」とサゲスンデいます。ところが、オシツケについては、吉田Web11編集長から私が逆に「小田原出身なのにオシツケも知らないの?」とサゲスマレていたので、Web11編集長殿に“食通レポート・ストーカー”として「是非是非、食通レポート・オシツケ編を試みてくださいよ」と“せっついた”り、「オシツケについて書かれる際には、茶碗と箸をもって参上させていただきますので、視覚だけでなく味覚も共感させてくださいますように」と“懇請”したりしていたのですが果たされぬままでいたのでした。杉山さんのお陰で、吉田さんの食通レポートに先駆けて「魚名魚字:オシツケ編」をここに投稿できることになりました。

 さて、注目のオシツケは、切り身の煮魚になって供されてきたので原型が分かりません。しかし、続く杉山さんの「油っこいから食べ過ぎないように」という一言に、「えっ、ひょっとするとオシツケってアブラボウズのことなの?」と反応したところ、杉山さんから「ええ、そうですよ」といういとも涼しげな答えが帰ってきました。そうか、“腎臓博士”こと杉山さんは、“スミヤキもオシツケも”の“純正小田原人”だったのです。いずれにしても、敵がアブラボウズと分かったので、先ずはアブラボウズの魚名・魚字探索。魚字は予想通り、「油坊主」または「脂坊主」で、魚名の由来は「身に脂(油)が含まれている」ところにあることが分かりました。「坊主」は「三日坊主」と同じように、親しみや嘲りの気持ちを込めていう場合の「坊主」なのだと思われます。

 では、この「坊主」はどんなご面相なのかと調べてみると、インターネットに下のような写真が見つかりました。「おやっ、クエ(モロコ)みたい。もしかしてハタ科なのかな?」と思ったのですが、「カサゴ目ギンダラ科ギンダラ属」とありました。食べてみて「ギンダラみたいな食味だなあ」と思った私のアテズッポーな味覚の良さも満更捨てたものでもありません。

オシツケ

 「最大で全長180cm超、体重90kg超に達する」というのが大方の触れ込みだったのですが、いざインターネットで見た下の写真にはビックリしてしまいました。こうなると油坊主どころではなくて油大入道ですね。伊豆の富戸で船釣りをしていた釣り師が外道(本来の狙いと違う魚)として釣り上げたものだそうです。実際の水深は500~600m程度ですが、潮で糸が流されるので1000mほど糸が出ていたのだとか。東京スカイツリ―のてっぺんあたりから地上に釣り糸を垂らしていることになりますが、そんな深海は太陽光線が届かぬ漆黒の闇。こんな“規格外の”大入道が潜んでいる真っ暗な深海は魑魅魍魎の世界ですね。それにしても、“釣り上げ”はしたものの、もし漁協が定置網漁の水揚げの時に使うクレーンを持っていなかったとしたらどのように“吊り上げる”ことができたのだろうかと、余計な心配をしてしまいました、


釣り上げられた巨大オシツケ

 歳不相応な回数(週4-5回)下手ッピテニスをしていながら、なお下腹部に皮下脂肪がついて“太っ腹”体形になっている私のことですから、水深400-1,000mといった深海の岩礁域を棲み家としていて多分運動不足状態でいるアブラボウズが皮下脂肪まみれになっていることくらい容易に想像することができます。但し、身に多量に含まれている脂質はトリグリセリドという普通の脂なので、脂質(グリセリド)分解酵素の乏しい体質の人は、脂を消化しきれず腹をこわして下痢などの腹痛を起こすこともありますが、脂そのものに原因があるものではないので、食べ過ぎなければ食べても問題がないのだそうです。そこに行くとバラムツ、アブラソコムツなどは、ワックスエステル(蝋)を含んでいるため食品衛生法によって市場や魚屋で販売禁止になっているのだとか。因みに英名ではアブラボウズがGiant skilfishとなっているのに対してバラムツの方がOilfishになっています。

 では小田原界隈でなぜ「おしつけ」と呼ばれるかというと、この「おしつけ」というのは御殿女中の使った女房言葉で「飲食物の毒見をする」という意味があるのだそうです。この魚は脂が多いため食べ過ぎによる下痢に注意が必要だから、「毒見を要する魚」とされていたのでしょう。従って、魚字も庶民っぽい「油坊主」から転じて、雅っぽい「試饌」となるのですが、どう見ても“御殿女中人口密度”がさほど高かったようには思えない小田原界隈で、どうして「おしつけ/試饌」といった魚名魚字が使われるようになったのでしょうか。もしかすると、獲れてしまってから「こんな脂っこい物なんか食えたもんじゃない。お前んところで始末しろ。」とか“押し付け”合いがされた挙句、魚グルメが多い小田原や沼津など静岡県東部の港に“押し付け”られてきたから魚名が「おしつけ」になったんじゃないかと邪推しています。現在でも、流通業者の間で「オシツケが上がったら、とりあえず小田原へ送っとけ!」ってんで、銚子や外房の千倉などから“押し付け”られて入荷してきており、“よそもの”の「おしつけ」を使った解体ショーが小田原港の見世物になっているようです。

 私が見間違ったように、アブラボウズが超高級魚とされるクエに外観が似ていることから、特にクエを珍重する西日本地域においては偽装表示事件がしばしば起こっているということも初めて知りました。近年、クエの人気が高まり高値になっていることから、クエよりも安価なアブラボウズが流用されたものです。アブラボウズは小田原や沼津だけでなく、実は大阪や福岡などでも“クエもどき”として食用に供されていたわけですね。但し、“クエもどき”とは言っても、美味ですし、漁獲高も少ないことから、超高級魚のクエに比べれば1/7-1/3ほどの値段ですが高級魚並みの価格で取引されているようです。私が「べたなぎ」で気軽に頼んだオシツケも存外値段が高いものだそうです。同じ小田原育ちでも庶民的な価格のスミヤキだけでなく、高価なオシツケを口にすることができていたのは、杉山家や吉田家などのような雅な家系だけだったのかもしれません。