ちょっと発表



   なぜ鷹が強くて巨人が弱いんだろ?

2015.09.18   3組 佐々木 洋


 「こてんぱん」という言葉の語源は「鼻をへし折ってやれ」といったような意味のある韓国語の「コッテンパン」という表現にあるという説がありますが、ソフトバンク・ホークス(鷹)の強さは、まさに“こてんぱん状態”ですね。9月18日、16試合を残して2位に14.5ゲーム差を付けリーグ史上最速でパ・リーグ優勝を決めてしまったのですから。これに対して、本来同様に“こてんぱん状態”にするだけの戦力を擁していながら、同時点で首位とのゲーム差僅か2とはいえセ・リーグの3位に甘んじている読売ジャイアンツ(巨人)のなんたるテイタラクぶり。もっともこれは、原辰徳が“名監督”として評価されたいため、わざと“勝ち惜しみ”して「名将ぶりを発揮し苦戦を制して優勝」という筋書きを演出しているだけなのかもしれませんが。


 金権力”では互角だが
 鷹と巨人の違いを探すために9/13に行われた、それぞれ楽天イーグルスとDeNAベイスターズとのゲームの先発メンバーを対比してみました。一番バッターの川島(二塁手)から明石(一塁手)、柳田(中堅手)、内川(左翼手)、李大浩(DH)、松田(三塁手)、中村晃(右翼手)、高谷(捕手)、ウルフ(投手)と続くホークスのラインナップのうちで国内他球団からの“使い回し”は川島(ヤクルト)、内川(横浜)、李大浩(オリックス)、ウルフ(日本ハム)の4人で40%。一方のジャイアンツは、一番バッターの立岡(中堅手)、片岡(二塁手)、坂本(遊撃手)、阿部(一塁手)、長野(中堅手)、アンダーソン(左翼手)、村田(三塁手)、加藤(捕手)、大竹(投手)のラインナップのうちで国内他球団からの“使い回し”は立岡(ソフトバンク)、片岡(西武)、村田(横浜)、大竹(広島)の4人で44%。さすが平均年俸の高さの面で日本プロ野球界の1・2を争う2球団だけあって“金権補強度”は良い勝負というところで、同じリーグの下位球団からそれぞれ李大浩と村田を引き抜いてきて“弱い者いじめ”をしているところまで似通っています。

 発展途上の若鷹たちと成長停止の老巨人たち

 上記の両軍先発メンバーを比較して、一目瞭然の差が見えるのは、ジャイアンツでセ・リーグ打撃ベスト10に入っているのが坂本一人(7位)であるのに対して、ホークスの方は、柳田(1位)、李大浩(5位)、中村晃(6位)、松田(8位)、内川(9位)と5人もがベスト10入りしているところです。そして更に、ヤクルト・スワローズの山田と並んで、打率3割本塁打30本30盗塁のいわゆる「トリプル3」達成をほぼ確実にしている柳田をはじめとした“若鷹”たちが入団してから着実に力を付けてきているのに対して、即戦力を雇い入れる傾向が強いジャイアンツの方は、入団時に備えていた実力を使いつぶしているうちに次第に“老巨人”になってきたメンバーが多いように思われます。要するに、球団としての選手を鍛え育てる力の有無が強く感じられ、特にこれが、ジャイアンツのメンバーの体形や動作の中に見られる“鍛えこみの無さ”に如実に表れているように見えます。「選手は買いそろえるもの」という意識ばかりが蔓延していて、「選手は育てるもの」という意識が欠乏しているところに、“弱い巨人”の最大の原因があるのではないでしょうか。

 大谷攻略を生んだコーチの“予言”

 ホークスは9/10の日本ハム・ファイターズとの試合で、難攻不落の大谷投手を打ちこみ大量7点を奪いました。翌日(9/11)の日本経済新聞スポーツ欄の記事ではこれを「8/4の一戦に続く7点奪取」、「ソフトバンク戦では3試合続けて5失点以上」だとして、ホークス打線を「大谷をこれだけいいようにできる打線はほかにない」と評価し、これを可能にしたものとして藤井打撃・チーフコーチの存在の大きさを示唆しています。
「大谷の力に対し、力で向かうのでなく、強振せず、相手の力を利用するだけで飛ぶ」という“藤井予言”が選手間に伝わっていたということですが、同記事中に載せられていた右の写真を見るとこのことが素直にうなずけるような気がします。「2回無死1,2塁、右越えに先制3ランを放つ松田」というキャプションがついているように、大谷攻略の口火を切ったこの一打は“強振せず、相手の力を利用するだけで飛ぶ”という意識があればこそのものだったのではないかと思われます。また「大谷は最近フォークボールを多投する傾向がある。浮いてきたフォークボールは打てない球ではない。」という“藤井予言”もあって、これが6回無死満塁での今宮の2点適時打と7回の柳田による2ラン・ホームランの“フォークボール狙い”につながっていると同記事では指摘しています。

 選手の育成指導体制に大差

 同記事ではまた、ホークス工藤監督の「スコアラー、打撃コーチがしっかりデータをみてくれたおかげ」という談話を紹介し、“タネも仕掛けもあっての猛打”と評しています。ホ―クスでは、監督からも選手たちからも信頼され感謝される育成指導者がきちんと機能しているからこそ選手が育っているのだということを、この工藤監督談話からうかがい知ることができます。しかし、ジャイアンツにも昨年までは橋上秀樹氏という存在があり、野村克也氏譲りのID野球を導入して、打線の得点力強化にも大いに貢献していました。当時の清武GMの肝煎りで1軍戦略コーチに就任したので、清武GMが野球音痴のナベツネによって“粛清”された後は居心地が悪かったのでしょうが、それでも選手たちからの信頼を集め、「阿部慎之介に一言言えるのは橋上コーチだけ」と評されるまでになっていたそうです。交流戦が行われた際に、阿部慎之介をはじめとするジャイアンツの選手たちが、入れ替わり立ち替わり、今年から楽天イーグルスの打撃コーチとなった橋上さんのもとを訪れ挨拶を交わしている光景をみて、その信頼度の高さを改めてみてとることができました。しかし、原辰徳は、清武GMの差し金で入団してきた当初、橋上さんが単なるスコアラーとして登用されたものと勘違いしていて、「キミもコーチとしてユニフォームを着ることになるのか!」とトンチンカンな受け答えをしていたそうです。結局は、昨年のCSで敗れた責任をとらされる形で、これも原辰徳にとっては“押し着せ”の川口投手総合コーチともども“育成指導音痴”の原辰徳に態良く“粛清”されてしまいました。

 侍でなくなった村田と侍になった内川

 TV観戦していると、ホークスの選手からは、自己鍛錬にいそしんでいる者ならでは発し得ない士気を感得することができるのに対して、ジャイアンツの選手からは感ずることができません。士気と言えば、文字通り、武士の気質としても重要なものであり、これなくして「侍ジャパン」と称するのでは詐称と言わざるを得ません。ジャイアンツの村田修一も横浜(現DeNA)在籍時に「侍ジャパン」の一員としてWBCに参戦していた時には野武士の風格を漂わせていました。しかし、弱小の横浜藩を脱藩して読売藩に移って高禄を食みだしてからというものは、全く武士の気質が感じられなくなり、“侍ばなれ”していて、やたらのっぺりと見える風貌がTV画面に映し出されるので苦々しく思っています。一方のホ―クスでは、唯一人、内川聖一のみが“侍ばなれ”しているように見えました。攻守走三拍子そろった好選手であり、実力的には「侍ジャパン」の一員たるのに十分なのですが、口元をゆるめてチューイング・ガムを噛んでいる姿がなんとも情けなく知性のかけらも感じられなかったからです。しかし、これもソフトバンク社の孫正義社長の鶴の一声でゲーム中のガム噛みが禁止された由で、外見的にも“侍・内川”が認められるところとなりました。IT事業経営に当たっても、日本企業らしさを出しながら世界市場進出を進めている孫社長にしてみれば、アメリカのメジャーリーガーの外見だけ真似てガムを噛んでいる選手の姿が見苦しく思えたのでしょう。良かった良かった、高校球児やリトルリーグのチビッ子選手たちが、プロ野球選手を真似てゲーム中にガムをクチャクチャし出したら世も末ですもの。

 求心力の源はオーナーの志の高さ

 ホークス球団運営にも本腰を入れているニューメディアの寵児・孫社長のことですから、オールドメディアの読売新聞を親会社とするジャイアンツとの間の「金権力」の差が拡大するとともに、選手育成指導力も一層強化され、ホークスは「侍ジャパン」の牙城となっていくことでしょう。また、孫さんは、かつての読売新聞社主の正力松太郎氏もかくやの高い志の持ち主と見受けられます。“メジャーリーグくずれ”や“メジャーリーガーまがい”が幅を利かせている国内の他球団を「こてんぱん」にやっつけているのだけではことたりず、鍛え上げた若鷹たちがメジャーリーグ界を雄飛して「侍ジャパン」パワーを見せつけられるようになる近未来を見据えておられることでしょう。ジャイアンツの活路は、ソフトバンクに負けないほどの資力があって、孫社長に負けないほどの意欲と志の高さのあるオーナーのいる親会社に身売りするしかなさそうです。かつて熱烈なジャイアンツ・ファンであった私が愛していたのは“巨人”であって“読売”ではないのですから、たとえ“マイクロソフト・ジャイアンツ”や“グーグル・ジャイアンツ”になったとしても、かつてのように“鍛えられた巨人たち”のゲームを観賞できるようになったら喜んで熱烈なジャイアンツ・ファンに戻りますよ。