ちょっと発表



 

2016.01.20   3組  佐々木 洋
V2青学とVレス巨人

原晋と原辰徳とはハラ違い
 箱根駅伝でV2を果たした青山学院大学の底力の強さには、日本シリーズでV2を果たしたソフトバンクホークスともども、かつての読売巨人が達成したV9をこのまま達成してしまうのではないかと思われるほどの凄味がありましたね。不調と故障からの復調状況を見極めて1区に久保田、5区に神野を起用した原晋監督のハラの座り具合、それに対して、育てようという意思も力を見極めようという思いもなしに、4番バッターをコロコロ変えていた原辰徳巨人前監督のハラの座らなさの間に、V2青学とVレス巨人の違いを感じました。さすがにハラの据わった原晋監督も、大晦日になって最終的にオーダーを決めるまでには大いに迷い、一時は4区を走った田村を1区に起用しようかと思ったこともあったのだそうですが、「あいつは朝寝坊だから」と考えなおして早朝スタートの1区から外したのだそうです。実力や調子ばかりでなくて、選手の生活パターンまで熟知していることは、とりもなおさず選手個々に対する関心や愛情の深さを物語るものなのだと思います。これに対して、ハラの座っていない原辰徳の方は、輩下の巨人選手が野球賭博に浸っていたというのに、“監督不行き届き”の責任を取って引責辞任することもなく、さっさと“勇退”してしまったのですから話になりません。


名選手必ずしも名監督・コーチたり得ず
 原晋さんにも、世羅高校3年の時に主将として全国高校駅伝2位に貢献したり、世羅高校OBが監督を務めていた中京大学に進学し3年時に日本インカレ5000メートルで3位になったり、中国電力入社後も主将として全日本実業団駅伝初出場に貢献したりしたという実績はありますが、どう見ても“名選手”と言えるほどの戦歴ではありません。しかし、早稲田大学で“名選手”の名をほしいままにした後、母校のコーチと監督に就任した瀬古利彦と渡辺康幸がさほどの育成指導実績を示せなかったところを見ると、「名選手必ずしも名監督・コーチたり得ず」ということがここでも言えそうです。青山学院の箱根駅伝V2の陰には、自校出身でもない“かつての二流選手”の持てる育成指導力を見極めて監督に据えた学校当局のハラの座り具合があったとも言えそうです。そう言えば、中日ドラゴンズからヘッドコーチとして引き抜いてきた牧野茂も、巨人のV9を語るには欠かせない存在ですが、選手としては二流でしかありませんでした。恐らく名選手ではあったのの自分の指導育成能力欠如を悟っていた川上哲治が牧野を参謀役として招き入れる必要を訴え、当時の正力亨オーナー(巨人の創設者・松太郎氏の長男)が他球団からの「名選手にあらざりし名コーチ」の導入を了承したのでしょう。やたらと金にあかせて他球団から名選手のみを買い集めているナベツネのもとで、自らに育成指導能力が欠如しているのも自覚せずに、身内の現役時代からの仲良し仲間を“迷コーチ”として起用し続けてきた原辰徳のハラ座りの無さとは対照的で、ここにも往年のV9と近年のVレスを隔てる大きな要因がありそうです。


“氏より育ち”の上位校
 二浪してようやく合格した日本語教育能力検定試験の試験会場になっているので合計3回青山学院大学のキャンパスに立ち入ったことがあります。そして、その端正な佇まいぶりから察して、学生数の点からすると“中小大学”だとばかり思っていたのですが、改めて調べてみると、Most 1の日本大学、Most 2の早稲田大学には遠く及ばないものの、Most5明治大学、Most6慶応義塾大学、Most7東海大学、Most9法政大学、Most11東洋大学、Most12中央大学、Most13帝京大学といった 学生数2万人超の諸大学に次いでMost16の学生数の“中堅大学”だということが分かりました。 そこで、原晋監督の育成指導力ばかりが取りざたされている中で、「実は学校の財力を活かした巨人流の名選手獲得をしているのがV2の真相ではないのか」とゲスの勘繰りをしたへそ曲りの私は、今回の箱根駅伝ベスト4校の高校男子駅伝名門校出身者依存度を比較してみました。私の定義した「男子高校駅伝名門校」は「1990年の第41回大会から 2015年の第66回大会までの優勝校」で、具体的には西脇工(兵庫)、仙台育英(宮城)の各7回優勝校、5回優勝の 世羅(広島)、2回優勝大牟田(福岡)、各1回の報徳学園(兵庫)佐久長聖(長野)鹿児島実(鹿児島)   豊川(愛知)  山梨学院大附(山梨)がこれに該当します。これによると、ベスト4校の各10名のランナーのうち高校男子駅伝名門校出身者は下表の朱記の通りであり、青山学院は、東洋、駒沢と並ぶ2名のみで、ともに早稲田の3名を下回っていたということがわかりました。上位校は軒並み“氏(出身高校)より育ち(大学入学後の進歩)”で、巨人流選手ハンティングはされていないようです。

1区
2区
3区
4区
5区
6区
7区
8区
9区
10区
青山

久保田
九州学院

一色
豊川
秋山
須磨学園
田村
西京
神野
中京大付

小野田
豊川

小椋
札幌山手
下田
加藤学園
中村
大阪桐蔭
渡辺
東北
東洋
上村
美馬商
服部
仙台育英
服部
豊川
小笹
埼玉栄

五郎谷
遊学館

口町
市川口
桜岡
那須拓陽
山本
遊学館
高橋
黒澤尻北
渡辺
九州学院
駒沢
其田
青森山田
工藤
世羅
中谷
西脇工
高本
学法石川

大塚
大分東明

宮下
駒大高
西山
伊賀白鳳
馬場
倉敷
二岡
鳥取中央育英
中村
松山北
早稲田
中村
高松工芸
高田
鹿児島実
武田
早実
永山
鹿児島実

安井
市船橋

佐藤
明和
光延
鳥栖工

早大本庄
井戸
龍野
藤原
西脇工

“心”の指導による「楽しさ」の享受
 しかし、疑り深い私は「一体、原晋流指導法とは一体何なのだろう」と思って“探求”を続けてみました。そして、心技体のうちの“技”と“体”の強化については、多くのトップアスリートを指導する中野ジェームズ修一氏が監修する体幹トレーニングスに多くを委ねて、自らは“心”の指導の方に重点傾注したところに原晋監督の真骨頂があるのではないかと気が付きました。スポーツ報知紙には、自らも箱根駅伝を3回走ったことがある東洋大OBの竹内記者が、青学大に1年間密着取材して原監督が「指導者から言われた練習をしているだけでは絶対に強くなれない。自分で考えなさい。」と口癖のように繰り返していたのを聞いており、その「指導しない指導」が奏功したと書いています。原晋さんは現役選手生活を終えてからビジネスマンとして活躍され「伝説の営業マン」と称されているそうです。見込み客の“心”を見極められ、購買意欲を高めてきたスキルとノウハウが、選手たちの自主性と向上心の向上のために向けられてきたものと考えられます。また、走行を終えた青学大の選手たちが口々に「楽しく走れました」とコメントしていたのも印象的でした。真の「楽しみ」とは「楽をする」のとは対極的であって、「高い目標に向けて自己のベストを尽くす」ことによってのみ感得できるものだと思います。7区、8区、10区を走ってそれぞれ区間賞をとった小椋、下田、渡辺だけではなく、今回は控えに回った橋本と池田も揃って2月に行われる東京マラソンに出場するそうです。単なる駅伝ランナーにとどまることなく、マラソンで世界に雄飛しようとするような高い目標を掲げるように仕向け、それに見合った自主的な訓練を重ねているからこそ青学大の選手たちは「楽しく走れる」ことができているのではないかと思いました。


原辰徳のニの轍を踏まぬよう
 Vレス巨人の新監督となった高橋由伸は、記憶に残る長嶋茂雄と記録に残る王貞治とは程遠いものの、原辰徳と並ぶ程の“そこそこの名選手”だったには違いありませんが、育成指導能力の方は如何でしょうか。かつての巨人は、これも選手としては二流であった荒川博を、王貞治の打撃コーチとして付けて一本足打法を編み出し“世界の王”を育てあげました。2009年に巨人に入団して以来“未完の大器”と言われ続けながら依然としてくすぶっている大田泰示にも然るべきコーチを付けていたら、ヤクルトの山田哲人やソフトバンクの柳田悠岐などよりよほど早くトリプルスリーを達成し、巨人の4番打者として成長していたことでしょう。また、昨年、守備・代走要因としてオールスターに選ばれて話題になった鈴木尚広も、スイッチ・ヒッターとしての訓練を施し、バントヒットや内野安打を増やせるようにしておいたら、本塁打30本は無理だとしても打率3割盗塁30の“ダブルスリー”の常連となりリードオフマンとして定着していたのではないでしょうか。今年こそ育成指導体制を抜本的に改革することによって巨人の選手たちが「楽しくプレイする」姿を見てみたいものだと願っています。