ちょっと発表


日本経済新聞で知る日本プロ野球の「経営」実態
2016.07.10  3組 佐々木 洋

日本で育てた大リーグ投手

 日本経済新聞には、スポーツ新聞でもあまりお目にかかれないプロ野球情報が記載されることがあります。先日(6/7夕刊)は、「バーネット、光る救援」という投球フォームの写真入りの記事が載っていました。「ヤクルト抑え→レンジャーズ中継ぎ」という副見出しがありましたので、「昨年日本のプロ野球で41セーブを挙げヤクルトを優勝に導いた“あのバーネット”が今年は米大リーグに移っていたんだ」とわかりました。しかし、“あのバーネット”は、2006年のドラフトでダイアモンドバックスに指名されながらメジャー昇格できないまま2010年に来日していたんですね。「日本で野球を学び、心身ともに成長できたから、今がある」とバーネットは語っているそうです。大リーグを代表する打者を仕留めているのは“日本仕込みの変化球”なのだとか。球暦の乏しいバーネットを採用したヤクルトの首脳の肝の太さと、バーネットに変化球を習得させた伊藤智仁コーチ(現役時代は自らが高速スライダーを武器にしていました)やチームメート、ブルペン捕手等の“指導力”の強さに驚き入りました。同時に、朝BSで見る米大リーグの投手に比べて、日本のプロ野球の投手のスピードが遅過ぎるのでウンザリしていたのですが、「日本は変化球の王国なのだ」という意識を持てるようになりました。

「グラッと落ちるチェンジアップ」を掘り起こしたスカウト力
 また、スポーツページの「選球眼」というコーナーには、「若竜の決め球、進化どこまで」というタイトルで、中日ドラゴンズの若松駿太投手が紹介されていました。直球は140キロ前後で、谷繁監督が「遅いなあ」と嘆くほどなのだそうですが、「同じフォームからグラッと落ちるチェンジアップが出色」で、DeNA・ラミレス監督も「来ると分かっていても打てない」とお手上げ状態なのだとか。若松投手が「ドラフト7位指名ながら高卒3年目の昨季、プロ初勝利からいきなり10勝を挙げた」のは何故だろうと思っていたのですが、これはテレビ画面ではよく分からない“グラッと落ちるチェンジアップ”が武器になっていたからなんですね。調べてみるとこの“若竜”は福岡県久留米市で、聞いたことのない祐誠高の出身。2年生の時の秋からエースになっていたのですが、3年生の時は、福岡大会2回戦で敗れていますから甲子園出場歴は当然なし。こんな知名度の低い高校球児に目を付けてドラフト指名したのですから中日ドラゴンズのスカウト力は大したものだと思います。

優れた人材育成指導能力も
 この若松投手が登板して、7回を最少失点で抑えて先発投手の役割を果たした後に、ベンチでコーチによって懇々と諭されている風景がテレビ画面に映し出されていました。結果が良ければ賞賛されるだけで終わるのが普通なのですが、中日ドラゴンズの投手コーチは結果だけを見ているのでなく、過程における問題点を取り上げて反省を促し問題の再発を防止しているのだと思いました。また、ナニ―タ選手が好打を放って中日ドラゴンズが勝利した試合については「打撃コーチに指導されたお陰で」という旨のナニ―タ選手談を日経新聞は報じていました。バーネット投手を育てたヤクルト・スワローズと同じように、中日ドラゴンズには外国人選手を育てるコーチがいたのだと改めて思いました。また、ナニ―タが2015年に来日して中日に入団するまで、シカゴ・ホワイトソックス(2A)、ワシントン・ナショナルズ(AA)、トロント(3A)と渡り歩いて大リーグ歴がないこともバーネットと同じです。中日ドラゴンズの場合は、外国人選手をスカウトする場合にも「コーチの指導を受け入れて、変化球王国の日本プロ野球に適応できるようになる」ということを条件にしているのかもしれませんね。

ラインとスタッフの融合が成功のカギ
 6月11日の日経新聞には「タカ、緻密に菅野攻略」という見出しで、前日2-1で巨人を降したソフトバンク・ホークスの戦いぶりが報じられていました。副見出しのように「疲れさせ鶴岡がケリ」という結果になったのですが、「巨人・菅野の攻略に至った道のりはチェスのように緻密だった」という実態が記されています。先ずは、工藤監督が、「菅野が今季絶対の自信を持つ直球に狙いを絞らせた」こと。これによって増えたスライダーを打者が「見極めて7回まで99球を放らせた」こと。そして、「(菅野に)疲れが加わってか」8回に2四球。そして、最後は「鶴岡がスライダーをきっちりと拾い上げた」のですが、その鶴岡の「スコアラーやコーチと狙い球が一致した」というコメントも記されています。経済新聞だけあって、プロ野球球団を一つの経営体として見ていて、ライン(監督 ― 選手)とスタッフ(スカウト、コーチ、スコアラー)が一丸となることが経営の成功のカギだと述べているように思えて楽しくなります。

華やかさの陰にあるシブさ
 「さすが常勝軍団」として、「その強力打線は柳田や松田らの豪快な一発に代表されがちだが、こうした遠回りもできることこそ王者たるゆえんだろう」とこの記事をしめていますが、私にはこの“柳田や松田ら”を“王や長島ら”に置き換えればそのままかつての「G9巨人」の表現になるのではないかと思いました。私はG9巨人を支えた牧野茂ヘッドコーチとほぼ1時間、1対1でお話しする機会に恵まれましたが、牧野さんが強調されていたのは「野球とは守り勝つもの」だということであり、250種ほどの守備パターンを設定して繰り返し反復訓練して鍛え上げているという極めてシブイ話でした。現今のソフトバンク・ホークスを見ていると、“柳田や松田ら”の華やかさの陰に、かつてのG9巨人の“王や長島ら”の陰に備わっていたシブさが、しっかりと身についているように思えます。

見染められた鍛え上げの姿
 かくてソフトバンク・ホークスは本日(6/20)の日経新聞で「貫禄のタカ勝率1位」の見出しで、「交流戦2年連続6度目」の首位獲得を報じられることとなりました。今回の交流戦で目立ったのは、この記事でも「伏兵城所、満塁弾で花」という副見出しが付けられているように、30歳で13年目を迎える城所というシブイ選手の活躍でした。シブさというものは鍛え上げなければ身につかないものですが、個別の選手が自らを鍛えあげているという事実を監督やコーチが見逃していては話になりません。同記事では、「休むのが怖いというぐらい練習している。集中力も切れていない。」という工藤監督の談話を報じています。心技体の向上・改善のために懸命に努力する姿が認められて起用された城所選手が持ち場を与えられて大活躍するとともに一層自信を強めたところに“伏兵大活躍”の舞台裏があったようです。

心と目を向け監督を
 監督やコーチの選手に対する関心の高さも球団運営の上での条件になるということは、一方での、読売ジャイアンツでの野球賭博事件からも反証できるような気がします。原辰徳前監督は、選手に対する“監督”不行き届きの責任も取らずに勝手に勇退してしまいましたが、野球賭博に耽っていて、心技体の向上・改善のための懸命な努力を怠っていた選手たちから漂っていたはずの無力感、倦怠感や惰性感覚に監督が気付かずにいたのですから、球団運営が成功するわけがありません。では、人材育成指導能力欠如の原辰徳の跡を受けて、管理監督力を鍛え上げる機会もないまま引き継いだ高橋由伸新監督には、心技体の向上・改善のための懸命な努力をしている選手を見極めるだけの心と目があるのでしょうか。テレビ画面では、選手の活躍ぶりに感動もしない無感動な表情がしばしば映し出されているので気になっているのですが、シブイ選手たちにも心と目を向けて、くれぐれも優れた“伏兵候補”を見過ごさないようにしてもらいたいものだと願っています。
                                         以 上