ちょっと発表



   税金の使われ方

2016.12.24      3組 佐々木 洋

 水口幸治、山本哲照、中澤秀夫と私の小田高同期カルテットでしたヨーロッパ旅行(「ヨーロッパ三感トリップ」 http://h-sasaki.net/EuropeTrip.htm)のうちのある朝、ホテルとハイド・パークの間を散策した際に水口兄がふと漏らした「税金がきちんと使われていることがはっきり分かるような気がするなあ」という一言が印象に残っています。ロンドンの街では、大通りの歩道にも随所に色とりどりの花が植わった鉢が、さりげなく吊り下げられていて、朝の散策に彩を添えてくれいます。若者が早朝から市役所の清掃用車で街角を清掃している光景にもでくわしました。税金が市民の望む「街の美化」にきちんと使われているのが目に見えるような気がしました。

オーストラリアでジェイソン夫妻にブリスベンからメルボルンまでの1,700kmロングドライブに連れていってもらった時には、思わず「いいな、オーストラリアって。日本でこんなに長距離走ったら、道路交通費だけでも大変な額になっちゃう」という声が出てしまいました。これに「そりゃ私たちが高い税金を納めているからさ」とジェイソンが受けたので、「そうか、じゃ、あの交通標識もこの橋もジェイソンたちの税金でできたんだ」となり、以後は”Thank you, Jason! Thank you Jason!“が繰り返されることになりました。無料で高速走行できるのですから、道路建設の源資をなしたオーストラリア人の納税には感謝ですし、オーストラリア人自身も、自分たちの税金によって道路などのインフラが整備されたことを誇りに思っているように見受けられました。

さて、ひるがえって考えてみて、日本では「街の美化」に「税金がきちんと使われている」という実感を持つことができているでしょうか。また、税金が道路などのインフラ整備にあてられている姿をクリアに見てとることができるでしょうか。もともと日本人には税金は“上”納するものであって、後は“お上”が決めるものだという意識が強すぎるのではないでしょうか。そして、“お上”のお役人たちは、それこそ“親方日の丸”で、源資が税金だと意識することなく、それぞれの予算を「国(または地方公共団体)から得た我が既得権益」として見て、しかも、「いかに効果的に使うか」ということより「いかに余すところなく使い切るか」に執心しているのですから、“国民(または地方公共団体住民)の満足”などは二の次、三の次になってしまおうというものです。

安倍首相はトランプ次期大統領に面会に行きましたが、あの時の貢物のゴルフセットも、ポケットマネーで買ったのではなくて税金が充てられたのでしょうね。だとしたら、「これは日本国民からの心のこもった贈り物です」とか何とか言ったんでしょうか。まさかね、どう見たって、日本人の心がゴルフセットに結び付きゃしませんもの。トランプの方も安倍晋三のことを、決して日本の首“脳”だなんて思っていなくて、「こいつが虎(アメリカ)の威を借るキツネか」というくらいにしか見ていなかったと思いますよ。日本に対して「在日米軍費用をもっと負担すべきだ」なんて言っている御仁なのですから、せめて「日本は自衛しますからアメリカは在日基地から全面撤退してください」とでも言ってやってくださいよ。日本はアメリカ圏を守るための最前線拠点なのですから、米軍は日本から撤退することなどできるはずがないのです。

日米安保条約は“アメリカのため”のものでもあるのです。ですから、その名もキテレツな「思いやり予算」なども愚の骨頂で、“国民の満足”に全くつながらない税金の無駄遣いです。「アメリカに基地を置かせてあげている」というくらいの意識を持っていなければ、いつまでも日米関係は虎とキツネにしか見られないのではないでしょうか。あんなに飛行の危険性を恐れていたオスプレイが墜落事故を起こしたため、知事初め沖縄県民がその恐れを更に募らせています。そのさなかに、米軍が事故の真相解明も再発防止策の検討もしないまま平然とオスプレイ運行を再開させているのに安倍首相はすっかり“ノーと言えない日本人”になりきってしまっています。何回も渡米して米国の首脳や次期首脳と親密になっているのにこれでは外交効果ゼロと言わざるを得ません。
  
外務省のホームページで「総理大臣の外国訪問一覧」というのを見てみたのですが、歴代首相の中で安倍首相がダントツでした。いとも気軽に海外に飛び出していくところを見ると存外海外旅行がお好きなようですね。5月31日時点で、安倍晋三首相の第2次政権発足(2012年12月)以来の海外出張回数は41回で費用総額88億円超だそうです。税金による支援を受けられず厳しい生活を強いられている日本国民も多いのですから、安倍首相も少しは「こうして政府専用機を乗り回せているは税金のおかげだ」と意識しなおして、「"国民の満足感“を最大にする外遊」を目指さないと、「外遊」が単なる"外遊び”になってしまいますよ。本来、「外遊」というのは、留学や研究、視察などの"個人的な目的"のために外国を旅行することなのですから、首相をはじめとした政治家や官僚が税金を使って海外旅行する場合には国または公共団体の“組織的な目的"を明確にし、海外旅行の成果を組織的に積み上げて行政や立法に役立てていく必要があるのではないかと思います。

今回、日露首脳会談のため来日したプーチン大統領を「ウラジミールと呼んでいる」と安倍首相は得意げに話していましたね。ファーストネームで呼び合うことは海外では珍しいことではないのですが、一応これはこれで、数次にわたる外遊の過程でロシア大統領と親密になったという成果として認めてよいかもしれません。しかし、これは〝個人的な″成果であり、組織的な外交成果に少しもつながっていないのですから、今回の経費支出もやはり〝税金の無駄遣い″と言わざるを得ません。プーチン大統領は初日の山口県入りに大遅刻した上に翌日の東京での会談にも遅刻をしました。安倍首相は完全に「なめられている」ということを自覚しなければなりませんし、プーチン大統領が「今回の日露首脳会談にはあまり期待していなかった」ということを改めて認識しておく必要があると思います。プーチン大統領としては、安倍首相の出身地である山口県長門市に招待されても嬉しいことは少しもなく、むしろ、日本人の対ロシア嫌悪感を和らげるために、〝ロシアの税金を使って″来日したことに渋い気持ちを持ち続けていたに違いありません。

今回の日露首脳会談に当たっては、「北方領土の返還」が実現されるかのような期待感が流れていました。しかし、プーチン大統領が、来日を前に、「ロシアには領土問題はない。ロシアとの間に領土問題があると考えているのは日本だ」と語ったと聞いて、「あれれ、今回の日露首脳会談には〝筋書き″ができていないのかよ!」とがっかりしてしまいました。もともと領土は過去における力関係の推移を経て決まっているものですので、国境線の変更は楽にできる問題ではありません。日本にとっては「北方領土の日本への返還」ですが、ロシアにとっては「東南諸島の日本への供与」という〝国益"に反する事項なのですから、これを補う"国益"が得られなければ同意できるものではありません。今回議論の対象となった「"北方領土″(歯舞、色丹、国後、択捉の4島)での共同経済活動」では、ロシアにとって"東方諸島"の供与に見合う〝国益"になりません。

仮に安倍首相がロシアの大統領だったらプーチン大統領と同じような領土観をしているに違いありません。外交というのはGive & Takeの観念が際立った世界だと思います。ロシア側の領土観を受け入れたうえで、ロシア側の望む〝国益"で日本側が提供できそうな便益を探り出して予備提案するために、関係官庁の役人たちが税金を使って訪露していたのなら、国民の満足感もそこなわれずに済んだことでしょう。しかし、何の根回しなどの下準備もなく主役である安倍首相が舞台にまかり出たところでストーリーが展開するはずがなく、税金の無駄遣いぶりがあらわになるだけの話です。行政機関の長である総理大臣自らが、自らを「税金を〝使わせていただく″身である」ことを意識して、「〝国益"ないし〝住民益“を満たして満足感を得るために税金を使う」ことに意を用いるようにしたら、日本を覆っている〝お上意識″を一掃することができ、国民や住民も税金を納めることに対して積極的な意義を認められるようになるのではないかと思います。

以上