ちょっと発表


怒り欠乏症候群の日本

2018/04/24  3組 佐々木 洋

<末は博士か大臣か?>
日本では、昔から「末は博士か大臣か」と言い続けられてきましたが、博士はともかく大臣って本当にそんなにエライ存在なのでしょうか。総理大臣ともなれば、政府専用機を乗り回して世界各国に外遊して、日本の存在感を高めたつもりになることもできますが、国会で答弁するに当たって、自分の言葉で語ることができず、所轄官公庁の官僚がこしらえた答弁書を読み上げる姿を見るとナンジャコリャという気になりませんか。日本の官公庁には、それぞれピラミッド型の組織があって、担当する行政課題に関する情報は組織の下部から上達されてきていて、それぞれのトップの位置にいる事務次官に集約される形になっているのですから、政治家大臣が何か新規提案らしきことをしたところで、そんなことはとっくに官僚組織内で検討されている事項ですから、体よく聞きおかれるだけのことになります。麻生財務大臣などは、自分の言葉で答弁しているように見えますが、財務官僚の優秀さをご存知だから、財務事務次官をはじめとする高級官僚の声によく耳を傾け、その問題意識に添うような回答をしていただけなんだと思いますよ。議員内閣制とは形だけで、各事務次官が実質的な大臣であり、政治家大臣は屋上に重ねた屋のような存在でしかないんじゃないでしょうか。


<‴公文書の作り直し‟は日常茶飯事>
高級官僚と言えばエリートの代名詞のようなものであり、‟卒なく‟問題解決に当たることに習熟しています。ですから、警戒しているのは、ヨソモノの政治家大臣が国会答弁の際などに‟卒のある‟発言をすることで、これが起こった時には組織防衛に走ることになります。安倍首相も、官僚の言葉をよく聞いて‟卒のない‟言動をとってきたのですが、森友学園問題に関して、「私及び妻が‴関係していた‴というなら私は議員を辞める」という発言をしたのは、少々‟卒のある‟行為でした。加計学園問題にしてもそうですが‴首相(夫人)案件‟ともなると、関係する官僚にも力が入り過ぎてしまうようですね。いずれにしてもご自分やご夫人の名を借りて、当事者の権益を確保するために政治家が介入したのですから、たとえ私腹を肥やすようなことはなかったとしても、首相が‴関係していなかった‟とはいいきれないはずです。そこで、当案件に強い影響力を与えたと考えるがゆえに記入していた人名を削除して‴公文書の作り直し‟をするに及んだのでしょう。すべて、政治家大臣の手の及ばない官僚組織内で、自発的に、しかも、常套手段の一つとして行われたことなのでしょう。


<政官癒着による世襲議員の温床>
公共投資案件で、地元の有力有権者に利権を誘導するために、政治家が介在してきて、官僚がこれを‟卒なく″処理しているところも日常茶飯事となっているようです。だからこそ、特に与党議員に二世三世といった世襲議員の地盤が築かれているんだと思いますよ。しかし、今回の森友学園案件に関しての売却土地価格8億円値引きというやり方というのは、さすがに‟卒があった‟ようですね。女性記者に対するセクハラ問題で‟卒がある‟ところを見せつけてしまった財務事務次官殿も、録音されていた会話の中で「どうして、あんなことしたのかなあ」と言っていましたものね。官僚機構の中でもトップが知らぬ間に、中間管理層で売却土地価格8億円値引き劇が取り仕切られていたわけですね。各省庁とも財務省から獲得した予算を既得権益と考えていて、それを‟使い残ししない‟ようにすることだけに心血が集中されているのですから「予算内処理」という条件さえそろえば‟卒のない‟処理だと評価されているんですね、きっと。政治家大臣は事務次官任せ、事務次官は中間管理層任せの、恐ろしい管理責任の所在が不明な官僚機構がずっととられてきているのかもしれませんね。


<国民をトロくする大甘のマスメディア論調>
そもそも、政府は国権の最高機関である国益ベストとして国会が決定した予算枠内でしか行動できないはずなのですが、実際はそれぞれの省益や庁益の自己防御を優先する官公庁任せになっていて、税金を納める国民や住民側の利益は重視されていないというのが日本の行政の実態なんですね。それにもかかわらず、安倍首相は全官公庁の動きを管理しつくしていると認識していたのですから愚かなことです。また、今こそ「改革」が必要な時だというのに、日本のマスメディアも、この政府の官公庁依存体質に対して本質的な批判を行なっていないのが現状です。ですから、日本国民は、‟卒のある‟ところを露見した官僚や所轄の大臣を更迭すれば事成れりだと思ってしまうわけですね。小泉純一郎前首相は「郵政民営化こそ改革の本丸」などという意味不明のカイカク論を振り回していましたが、郵政省の現業部門だけ民営化したところで、少しも「改革」の実が上がるはずがありません。唯一、短期間ながら政権を握っていた民主党が、官僚組織依存を排し、政治主導の行政を行う姿勢をとっていましたが、惜しむらくは具体的な方法論を欠いていました。


<マトリックス組織の導入を>
何よりも専門情報の持ち分にかけては他の誰にも負けず相応の問題解決力も持ち合わせているのですから、官僚を敵視する必要はありません。要は、「政治が動かしやすい官僚組織」にすればよいのです。専門的な問題は、現在の官公庁の差配に委ねることにして、「事務次官」という紛らわしい名前を「長官」か何かに変えて総理大臣が自ら句処するようにしたら良いのです。専門家集団の官公庁では対処しがたい複合的な問題が増えているのですから、各官公庁から適任者を常駐させた横断的な組織を作って、これを政治家大臣が句処するようにすれば、議院内閣制の実が挙がるのではないでしょうか。例えば少子化問題なども複合的な問題であり、ただ女性議員を少子化対策担当大臣に起用したからといっても人気取り政策に過ぎません。お陰で日本は生産年齢人口が減少し、特にサービス業部門に人手不足現象が現れてきてしまったではありませんか。遅ればせですが、厚生労働省、通商産業省、内閣府、財務省等々からの専門家を常駐させた横割り組織を作って「人的資源確保」のプロジェクトを政治家大臣に担当させる必要があるのではないでしょうか。言ってみれば、従来の縦割り組織に新たに数々の横割り組織を加えたマトリックス組織の導入ということになるのでしょうか。


<怒れ、若者たちよ!>
少し前に、爆笑問題の二人が起用されているバラエティ番組があって、その中で“太田総理”が「政治家に経済が動かせるわけがない」と述べ、ゲスト出演していた次期首相格の石破茂氏もこれに反論できずにおりました。自由経済の下では、物価は事本的に需要と供給のバランスによって決まります。労働力も商品の一つとして、需要と供給によって条件が変化します。最近の有効求人倍率改善傾向も、決して怪しげなアベノミクス(その実‴アベノ―エコノミクス‟)によるものではなく、生産者人口の減少による労働力供給欠乏化によるものと見られます。それなのに若年層は、「雇用情勢が改善したのも安倍総理のお陰」と感謝し、30%までに低下した安倍内閣支持率を下支えしているようです。昨年のOECD講演会で講師を務めた今道さんが指摘したように、日本の財政は窮乏化しており、道路、橋梁、港湾などの社会インフラの保守も賄いきれない状態になってきています。短期的な案件、例えば、‴首相(夫人)案件‟について無駄な財政出動が行われていることに対して自ら怒ろうともせず、少子化問題やインフラ整備などの長期的課題に対しても何の政策も打ってこなかった安倍首相に対して、「怒れ、若者たちよ!」と声を大にして呼びかけたくなる心境です。


<地に落ちた諸外国からの日本観>
小泉純一郎前首相が、ジョージブッシュ元大統領の大義名分なきイラク出兵に対して逸早く賛意を示しただけでなく、サマーワに自衛隊を派遣して以来、日本に対する諸外国からの見方は一変してしまいました。日本では「人道支援のための派遣」と称してきましたが、迷彩服を着て銃を携えてのイラク上陸だったのですから「米国の援軍到来」と見られても仕方のないところでした。お陰で、「戦争をしない国」として日本がかちえてきた国際的信頼感はなくなり、実際にサマーワに駐在していた自衛隊も戦場下に近い危険な経験を強いられることになったはずです。そんな危険な環境を報ずる「活動報告書(日報)」がある筈ですが、自衛隊は当時の稲田朋美防衛相にたいして「日報は残っていない」という偽りの報告をしていたことになります。シビリアンコントロール(軍事に対する政治の優先)を決定的に危うくするような事態になっているのに安倍首相は怒ろうともせず、小野寺五典防衛相の遅すぎる事実報告を聞きおくだけにとどまっている様子です。


<私たちも怒らなければ>
奥様方の間でも「核兵器持ってる国が、北朝鮮の核兵器を非難するっておかしいと思うわ」という声が広がっているのですが、安倍首相の耳には届いていないようですね。少年期に時の宰相・岸信介おじいちゃんに「アンポって、日本がアメリカに守ってもらうということだよ」と教わって以来、安倍晋三は「アメリカこそ正義」という考えに凝り固まっていて、アメリカが核兵器を持つことは正義だと思っているのでしょう。 閣僚の中にも「日本はアメリカの核の傘で守られている」と公言する人が多いのですから、日本が核兵器禁止条約に参加できるわけがありません。唯一の原爆被爆国として、アメリカと北朝鮮の間に割って入り、アメリカ側にも核廃絶ないし核兵器使用制限を呼びかけるべきところだったのですが、米国論調に乗って「圧力の強化」ばかり唱えてきた安倍晋三首相は出番を失い、先ずは北朝鮮に対して親和的な態度を示し、アメリカとの間の仲立ちに立って、北朝鮮の安全保障について根拠を得た(と考えられる)韓国の文在寅大統領の陰に隠れる形になってしまいました。この上、どのような文脈で、拉致問題について協力を得ようというのでしょうか。アメリカの属国視されている現状に対して怒るべきなのは若者たちばかりではなさそうです。