ちょっと発表


物言い先はイランじゃなくてアメリカなのだ

3組  佐々木洋   

<「リーマン・ショック」の真実>
 武器・弾薬の類は破壊に用いられるだけで、新しい製品の生産や労働力の再生に全く役に立つことがありません。寧ろ公共投資を軍事に向けるのは経済成長阻害要因になるのですから、軍事費の過剰支出は世界経済の主導国であるアメリカの経済運営さえも危うくします。一般に「リーマン・ショック」と呼ばれ、「アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻したことに端を発して、連鎖的に発生した世界規模の金融危機」の通称とされていますが、これも真実は、「財政の軍事費への過剰支出により、アメリカ経済の中で最も弱い一環である住宅市場の資金流通が破綻したこと」に根本の原因があったものととらえることができます。因みに「リーマン・ショック」は和製英語であり、英語では「the financial crisis of 2007-2008(2007年から2008年の金融恐慌」または「the global financial crisis(国際金融危機)」、「the 2008 financial crisis(2008年金融危機)」 と呼ぶれるのが一般的だということは理解しておく必要があります。


<抑えがたい「軍部」の力>
 一方、軍事力が強大となるとともに「軍部」が力をもち、軍事に対する政治の優先を意味するシビリアン・コントロール(文民統制)が難しくなる傾向があります。軍部としてはまず、軍事予算を拡大するために「仮想敵国」を設定する必要があります。一時、元大統領のジョージ・ブッシュが、イラン、イラク、北朝鮮の3国を「悪の枢軸」と称して悪乗りしていましたが、あれも背後に、米ソ対立構造が消失した当時、何らかの形で仮想敵国を設定しておきたいという軍部の意向があったものと思われます。現在でも、アメリカの軍部の発言力は強いようで、さしものトランプも一時打ち出した対北朝鮮融和論をいつの間にか引っ込めてしまいましたね。日本の“軍部”も北朝鮮を「仮想敵国」とすることによって、歴年の軍事予算拡大を確保してきたのですが、安倍晋三首相は、トランプが対北朝鮮融和姿勢をとるに当たってトランプをノーベル平和賞受賞者として推するというようなミットモナイ愚行をしでかしてしまいました。


<永続的な受注を求める軍需産業の存在>
 また、軍事強国の軍部には常に「戦端を開きたい」という気持ちが強くあるようです。2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件は悲惨な出来事だったのですが、アメリカは、テロ事件の首謀者として指定されたアルカイダの引き渡しに応じなかったことを理由としてアフガニスタンのタリバン政権に対して軍事力行使を開始しました。「テロ支援国家」というのはありますが、本来テロ組織は国家組織に属するものではないのですから、いきなりアメリカの対アフガニスタン侵攻という国家関係の話に持ち込んだのはいかにも無茶苦茶な話でした。国際的に広がったアメリカ同時多発テロ事件ショックに乗じる形で、アメリカの軍部の「戦端を開きたい」という意向が直ちに発露された形ですが、あの米国空軍による凄まじい空爆の模様を見ていると「戦端を開きたい」という気持ちは軍部を支援する軍需産業から発したものなのかと思えてきます。アメリカほどの軍事大国となると、銃器・弾薬などの年間の発注量も大きく、また戦闘技術力維持のためにも、発注を中止するわけにもいかないのでしょうから、戦端が開かれないままでいると莫大な「不動在庫」となるはずです。あのアメリカ軍による徹底的な空爆の映像を見ては、「不動在庫処理の空爆であり、これによってテロには何の加担もしていない善良なアフガニスタン人の命が奪われているのだ」と胸を痛めていました。


<「敵は本能寺」で戦費拡大した結果>
 アフガニスタンへの夥しい空爆によって、大方のテロ組織拠点を破壊し尽くした筈なのに、米軍がアフガニスタンから撤退する気配を見せないので、さてはと思っていたところ、やはり米国には「敵は本能寺」とする別の攻略目標が準備されていたんですね。「悪の枢軸」の一角であるイラクの成敗がそれで、今度は「核兵器製造中」を制するためのイラク侵攻が始まりました。そもそも、自らが最大の核兵器保有国でありながら、イラクの核兵器開発に掣肘を加えようとするのが無茶苦茶な話なのですが、時の日本の宰相・小泉純一郎は、米軍のイラク侵攻を真っ先に指示し、後に、迷彩服を身に纏い銃を携えた自衛隊をサマーワの地に派遣しました。日本側は「人道・復興支援」と銘打っていましたが、イラクの反米集団もしくはテロリスト集団が、自衛隊を米軍の友軍としてとらえたのも無理はありません。日本が中近東の地で永年にわたって築き上げてきた「戦争をしない国」という信頼感は地に落ちてしまったわけです。日本人がテロ活動の標的となったのはこの時以来のことです。そして、米軍はここでも雨嵐の空爆を継続。大量な兵士を継続駐在させてのアフガニスタンに続くイラク侵攻でしたので、さすがに財政負担も重くなり、米国経済に「リーマン・ショック」という名の破綻を生ずる結果となりました。
 挙句の果てに「核兵器製造中」の事実も存在しなかったのですから、米国による侵攻によって命を落とした「悪」の呼称には全く無縁で善良なイラク国民には弔いのしようがありません。


<全く無駄だった安倍首相のイラン訪問>
 さて、2010年8月に前大統領のバラク・オバマが「戦闘終結宣言」を発し、米軍のイラクからの完全撤収が始まってから約10年間の間、アメリカは「戦端を開く」こと無しできたので、さぞや大量の武器・弾薬が不動在庫として蓄積しているのではないかと思っていたところ、アメリカとイランの間の悶着の度が一気に高まり、アメリカのイラン侵攻の気配が漂ってきました。昨年6月に、安倍首相は「米国・イランの仲を取り持つ」と称してイランに向かいました。安倍首相は、ご自分を外交の達人と考えておられるようですが、平素諸外国を渡り歩いて行っているのは表敬訪問に過ぎず外交上の成果をもたらしたところは一つもありません。「なんの仲介案も持たずに行ったって“米国・イランの仲を取り持つ”ことなんてことはできっこないさ」と思っていたのですが案の定でしたね。逆に、安倍首相のテヘラン滞在中に、UAE沖で日本のタンカーを含む2隻のタンカーが攻撃される事件が起こって、それが米国・イラン関係を一層尖鋭化させる結果になってしまいました。


<トランプの“秘めたるバランス感覚”が危機回避>
 このような仕掛け国不明の悶着が幾つか続いて年が開けた1月3日に、米軍がイラン革命防衛隊の精鋭
部隊「コッズ部隊」のカセム・ソレイマニ司令官を空爆し殺害したというニュースを聞いた時には、「何
たる軍部の暴挙。トランプのシビリアン・コントロール力は無きに等しいものなのか!」と驚きました。人望があってイラン国民にも慕われていたお人柄だったそうではありませんか。イラン国民が憤るのは当然。盛り上がる市民デモに答えるかのように、イランがミサイルによる報復攻撃したのも当然だと思います。 いざこれにてアメリカの「戦端を開く」準備は完了でアメリカによる戦闘開始は必至と思われたのですが、トランプの反応は意に反して冷静なものであり、一触即発の危機が回避されました。トランプは前大統領オバマとの業務引継ぎの際には驚くべき程謙虚に恭順の意を表していました。ビジネスマンとしての経験を経て身に着けたバランス感覚のなせる業だと思いました。この一触即発の危機に際しても、トランプの“秘めたるバランス感覚”が、辛うじて軍部の主張を抑えて戦闘回避に役立ったものとみています。しかし、強力なアメリカの軍部の動向を考えてみると、イラン情勢がなおも砂上の楼閣状態にあることは間違いありません。


<何故イランのロウハニ大統領は来日したのか>
 アメリカとの関係が悪化する中でイランのロウハニ大統領が来日したのには驚きました。昨年安倍首相がイランを訪問した際には、ロウハニ大統領が積極的に何かを説明している様子が印象的だったのですが、ここで説明したことが安倍首相に理解されたと信じて、改めて米国との仲を取り持つよう依頼するために来日したのだろうと思えます。米国から加わる圧力に抗しかねているロウハニ大統領の胸の中にあったのは、 「頼りない安倍だが、イランの声をアメリカに伝えるためにはトランプと友好関係にある安倍に依存せざるを得ない」という思いだけだったのではないでしょうか。しかし、バランス感覚も持ち合わせていない安倍首相は聞く耳もたず、引き続き無益な海外歴訪を続け、今度は中東各国首脳に対してイランに語り掛けるよう勧めるのだと言っています。どのような「筋」でイランに語り掛けてもらおうと思っているのでしょうか。


<日本国民の声を米国へ>
 トランプは、貿易関係でのアメリカの有利を取り戻すため「アメリカ・ファースト」を叫んでいるではありませんか。アメリカは「世界警察」の仮面をかぶっていますが、軍事上も「アメリカ・ファースト」の姿勢をとり続けてきているのです。ひたすら「日本はアメリカに助けられている」とように恩義を感じているのは日本だけで、「アメリカ圏を守るためにアメリカは日本と安保条約を結び日本国内に基地を設営している」という見方が国際的な常識だと思います。アメリカのみが「正義」であり、アメリカの意に添わぬ国は「悪」であるという考え方は「筋違い」というものです。それぞれの国が「自国ファースト」を持ち合っている国際関係の紛争を解決する「筋」は、やはり「戦争は止めましょう。そして、国連に歩み寄りの場を求め続けて生きましょう。」の一言に尽きるのではないかと思います。そして、先ずは好戦国アメリカに向かってこのメッセージを発するところにこそ平和憲法を擁する日本の使命があるのではないでしょうか。平和憲法改憲で頭の中が一杯で、「軍事国・日本」への傾斜も容認してしまっている安倍晋三にはできないことでしょうから、野党合同でトランプ詣でをして、アメリカ国民に「日本国民の声」を届けたらどうでしょうか。国家観音痴に不相応な“安倍人気”に惑わされることなく、「日本の進むべき道」を真剣に考えることなしにいたら、日本はいつまでも“アメリカのポチ”でいな
ければならないのだと老心をかきむしっています。