ちょっと発表


(「花の言葉に耳寄せて」Part 5)

ミズキ(ヤマボウシ&ハナミズキ)の花の巻

3組  佐々木洋   

 ふと見上げると白い花びらが静かに微笑んでいました。あっ、ヤマボウシだ!そして、5-6年前の初のお目見えの時のイメージと重なって見えました。湯河原の幕山を頂上めがけて散策している時に山路の畔に立って静かな笑みを投げかけてくれたヤマボウシの姿です。さわやかで落ちついた印象のある白い花を見て一気に体の疲れが癒された思いがしました。「山法師」とはまた随分いかめしい名前がついているものだなと思ったのですが、白い花びらに見える総苞片を坊主頭と頭巾に見立ててつけられた名前のようです。「そうか、山中にこもって修行されている山法師殿にも人寂しい思いがすることがあるんだな」と勝手に思って、まだ会ったことのない山法師殿の人柄にまで好感を寄せるようになりました。そんな山中の花木と思っていたヤマボウシが実はここ辻堂界隈のお住まいのあちこちに植えられているのに気が付いたのは、「友情」を花言葉とするヤマボウシの花期になったせいでしょうか。宅地に植えて行きすがる人たちにも安らぎの気持ちを与えようとしているところに辻堂民族の豊かなホスピタリティが感じられるようで嬉しい気持ちになっています


 今回も不肖の先輩からのアウトソーシング要請に快く応じてくれた俳号・高幡大馬王殿ですが、今回の山法師は馴染みがなかったようで歳時記に当って、先ずはその中からお気に入りになった句を紹介してくれました。
   山法師 妻籠は雨に変わりけり   松本陽平 (角川歳時記より)


そこから更に、以前観光ガイドで行った妻籠/馬籠の旧中山道沿いにあった明治天皇行幸記念の石碑に思いを馳せながら詠んだのが次の一句です。


   山法師 行幸の碑を 守りおり   高幡大馬王

 
 情報通信技術(ITC)でも最先端の分野のシステムエンジニアとして大活躍をしていた俳号・高幡大馬王殿が豊かな遊び心の持ち主だということは知っていたのですが、歳時記を巧みに活かして即興俳句作りを楽しんでいるのですから大したものです。
 ヤマボウシの英名が、「Kousa dogwood」または「Japanese dogwood」とされているとしてオヤッと思いました。「dogwood」がハナミズキの英名だとことを知っていたからです。そこで改めて調べてみるとヤマボウシもハナミズキも同じミズキ属の花木であることが分かりました。「樹液が多く、春先に枝を折ると水が滴る」ことから「水木(ミズキ)」なる花木グループを編成した植物学者の発想も妙ですが、実際に、改めてヤマボウシとハナミズキの花姿を比べてみると驚くほど似ていることに気が付きます。インターネットにも以下のような写真を載せながら「ヤマボウシ(山法師)とハナミズキ(花水木)の違いは?」と論じている記事がありました。

 私がこれぞハナミズキという光景に出会ったのは25年程前、ニューヨークで勤務していた学生時代からの友人宅を訪れた時のことでした。当時は旺盛な経済力に支えられて日本人がアメリカで大いに羽振りを利かせていました。友人は「マンハッタンを東京市街とすると浦和に当たる位置関係」にあるスカ―スデールに住んでいましたが、元別荘地だったというだけあって、立ち並ぶ住宅の姿のいやはや見事なこと。そんな高級住宅地を飾っていたハナミズキの花姿がまた見事なものでした。赤色系が主体でしたが、賑やかに咲き誇る姿はまさに「アメリカの桜」を思わせるものでした。実際に、アメリカ、特に東部では、日本の桜と同じようにアメリカを代表する樹木とされていて、バージニア州とノースキャロライナ州などでは州花になっているのだとか。南部のジョージア州などで初春に、北部のメイン州などで春の終わりにという具合に開花時期が移動する模様が、日本の「桜前線」と同じように「ハナミズキ前線」として報道されることがあるなんてこともずっと後になって知りました。

 ハナミズキの英名の「Dogwood(犬の木)」は、「樹皮の煮汁が犬の皮膚病治療に使用されたことに由来する」というあまり面白くない話ですが、Dogwoodは英語っぽく発音すると「ダグウッド」。その昔、朝日新聞に連載されて日本でも人気を博していた「ブロンディ」、こんなアメリカの日常生活を描いた漫画の主人公の名前にまで使われているのだから「ダグウッド」はアメリカ国民の心の花なんだぞ…と思ってきたのですが、これは確証を得られていません。しかし、1912年に日本が桜(ソメイヨシノ)3,000本を寄贈した返礼として1915年にアメリカから贈られてきたのが、ハナミズキの日本デビューの機会となったのは事実です。「アメリカ・ハナミズキ」という別名があるのもこのためだと思います。いずれにしても、一方の桜が、アメリカの首都ワシントンDCを流れるポトマック河の畔で畔にアメリカ国民の心を癒し、もう一方のハナミズキが日本の数々の市の花として採り入れられてきているのですから、ともに日米友好の役割を果たしていると言えそうです。日本から桜を送り出した当時の東京市長・尾崎行雄はさすがですね。安倍晋三首相も米国訪問に当って、トランプ大統領私用のゴルフクラブを贈ったりしないで、アメリカ国民に対して日本国民の心を示した贈り物でもしていれば、少しは「憲政の神様」に近い評価を受けていたのにね。
 ヤマボウシの花言葉が簡潔にして真を得た「友情」であるのに対して、ハナミズキの花言葉は「永続性、耐久性」、「逆境にも耐える愛」、「私があなたに関心がないとでも?」と少々バタ臭い感じがします。ヤマボウシが、日本から中国・朝鮮半島に分布しているのに対してハナミズキはアメリカ原産で、氏素性が違うのですからやむを得ないところなのかもしれません。しかし、ハナミズキに「アメリカヤマボウシ」という別名があることを今回の執筆に当たって初めて知りました。我がRC庭(Rabbit小屋のCatの額ほどの庭)にもハナミズキがただ一本の喬木として植えられていて今年も精一杯花を咲かせ新型コロナウィルス禍で落ち込みがちな私の心を「友情」をもって癒してくれました。そうだ、これからは君のことを「アメリカヤマボウシ」と呼ぶことにしよう。私も、山法師殿の如く「友情」を忘れることなく、日々を修行よろしく精一杯の研鑽を楽しみ続けていくからね。