ちょっと発表


(「花の言葉に耳寄せて」Part 7)

百日紅&夾竹桃の花の巻

3組  佐々木洋   

 花木の名前がどうして決まったのか定かではありませんが、「サルスベリ」については、その昔も小池百合子さんのような人気のある女性がいて、「あれじゃ、木登りが上手なお猿さんでも滑っちゃうわね」とか何とか云ったのが受けて、全国に広まったのでしょうね。幹が肥大成長するのに伴って古い樹皮のコルク層が剥がれ落ち、新しいツルツルした感触の樹皮が表面に現れるところから小池百合子さんもどきは「サルスベリ」を口にしたのでしょうが、実際には、「猿は滑ることなく簡単に登ってしまう」という証言があります。いずれにしても、どことなく控えめな風情で優しい言葉を投げかけてくれる花姿に「サルスベリ」という名前は似つかわしくありません。

 サルスベリは中国南部が原産で、唐代長安の紫微(宮廷)に多く植えられたため「紫薇」という立派な名前で呼ばれているそうですよ。また、比較的長い間紅色の花が咲いていることから「百日紅」とも呼ばれているのですが、これが日本でもサルスベリの漢字表現に充てられているんですね。私に成り代わって即興俳句詠みに携わってくれている俳号・高幡大馬王殿は、花期が長いことと紅という感じから、「年老いてなお口紅だけは、いつもちゃんと化粧している我が母(84歳)を思い出して」次のような即興俳句を詠んで寄稿してくれました。やはり漢字表現「百日紅」を使っていますね。「サルスベリ」の字面では、母を慕う気持ちなど表現できないものね。
    いつ死んでもいいと語る母なり百日紅    高幡大馬王
 サルスベリはあまり種類が多い花木ではないのですが、「紅」だけでなく、下の写真の白やピンク、濃い紅紫、紫色に染まった花びらをもつものがあって、7〜10月の100日間ほど美しくて控えめな風情の花姿を見せてくれます。花言葉には「雄弁」というのがあります。「雄弁」は枝先に花が群生する姿が華やかで堂々としていることからつけられた花言葉のようですが、私には“堂々としている”ようには見えません。「同じ百合でも一見“堂々としている”ように見える小池百合子女史よりも、どことなく控えめで優しい風情の吉永小百合さんの方が実は“堂々とした”存在なのだ」という議論があれば同意できるのですが、それが「雄弁」につながるのかどうか。また、「愛嬌」、「不用意」という花言葉もありますが、これは「サルスベリ」という命名と同様であまりいただけませんね。やっぱり「潔白」「あなたを信じる」、やっぱりこれでしょう、お似合いの花言葉は。…ある王子が恋人と百日後に再会することを約束して旅に出たものの、帰ってくるとすでに恋人は病により亡くなっていて、その墓地に咲いていたのがサルスベリだったという、切ない恋物語の伝説に由来した花言葉だそうです。

サルスベリやムクゲなどとともに日本の代表的な夏の花木として知られているのが「夾竹桃(キョウチクトウ)」です。この「夾」の字には「はさむ」、「混ぜる」という意味がありますが、葉が竹に、花が桃に似ているところから、「竹と桃が混じりあった花木」という意味で「夾竹桃」と名付けられたのですから、サルスベリとは全く違った“学究的な”命名です。インドが原産地ですが、日本には18世紀に中国を経て伝わってきました。花の色にはピンク、白、黄色などがありますが、綺麗な花姿と似つかわしくところの第1点は、排気ガス、病害虫、大気汚染、潮風などの公害に強いタフなところで、高速道路の分離帯、海岸や幹線道路沿いの工場、学校、公園等、条件の厳しい場所の緑化にも用いられる。また、本来は熱帯性なのですが、いったん根付くと寒さに強く、東北の南部でも戸外で越冬できる庭木に育ちます。

原爆被災で70年間、草木も生えないと言われた広島焦土にいち早く咲いたのも夾竹桃の花でした。広島の平和記念公園は、外国人観光客に対するガイドの仕事で毎年10回近く行っている非常に特別な場所です。市民に、復興への希望と光を与えたことにより、犠牲者への慰霊の意も込めて1973年に広島市の花に選定されたことを知った俳号・高幡大馬王殿は、「平和への願い、不戦の誓いは絶対に風化させてはいけない」という思いを込めて次のような俳句を詠んでいます。
  夾竹桃 あの日の記憶 背負うごと   高幡大馬王

綺麗な花姿と似つかわしくところの第2点は、夾竹桃の花や葉、枝、根や果実などのすべての部分に加え、周辺の土にも毒性があるところです。青酸カリよりも強いオレアンドリンなどが毒の成分で、体内に入ると心臓発作や下痢、痙攣などを引き起こします。夾竹桃の枝を箸や串の代わりに使って食事をするだけでも死に至るといわれ、歴史的にもアレキサンダー大王の軍隊で、夾竹桃の枝を串にして肉を焼いたために兵士が死んだと伝えられているそうです。強い毒性があることから花言葉も「油断大敵」「危険な愛」「用心」という花言葉がつけられました。
  毒ありと 言われてもなお 夾竹桃   高幡大馬王

 ふと思い出して、およそ20年前に、水口幸治兄を隊長として山本哲照兄と中澤秀夫兄と私が加わる“小田高旅烏カルテット”が3週間にわたって9,000kmをドライブして回った結果を記した「還暦記念カナダ・アメリカ西部ドライブ旅行」http://h-sasaki.net/CanadaAmericaDrive3.htmには次のような記述がありました。


 <異郷で知る花々の美しさ>
 やがてプリム(Primm)という街があって、ここで灼熱のネバダ州におさらばして気候温暖なカリフォルニア州へ…と思いきや、人生そんなに甘くはない。道路脇にあった温度表示計の「華氏108度」(なんと摂氏42度!)を見た気のせいか却って一層の暑さを感ずる。車窓の風景も、砂の色が淡いグレイに変っただけで、サボテンが点在する砂漠が続いている。(中略)。だが、今日の宿泊予定地ベーカーズフィールド(Bakersfield)に入ると様相が一変する。緑が多く、住宅街はバンクーバーのそれに似ている。中央分帯には、モミの木だろうか、三角形を三つ重ねたクリスマス・ツリーのような木が植えられている。  路側には、赤、白、ピンクの夾竹桃が咲き競っている。日本の夾竹桃の並木に比べるとピンクが多いので、コスモスの群落が続いているように見えて華やかだ。「へー、夾竹桃って、こんなに奇麗だったんだ!」と今更ながらビックリ。車窓で満開の赤い花が優雅に見えたので、Best Western Hill Houseに着いた後、歩いて行って確認するとサルスベリであった。ここでまた、「へー、サルスベリって…!」となったのだが、優雅な姿に似つかわしくない無風流な名前を付けられたサルスベリに対して妙なところで“義憤”を感じたりもした。中華レストラン「ライスボウル」で夕食をとった後8時頃宿舎に帰着。夜になっても暑い。「気候温暖なカリフォルニア」はイルージョンだったのかもしれない。
                                                  (2001/7/25)


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