ちょっと発表


日本の行政組織に欠けたるもの

2021.02.21 

3組  佐々木洋  

 <えっコロナ・ワクチンの“ロジ”担当大臣の指名だって?!>


 “諸外国で次々とワクチン接種が開始され出した今頃になって(1月18日付)” 新型コロナワクチン接種推進担当大臣に指名された河野太郎氏が「コロナのワクチンの“ロジ”を担当します」と語った時には思わず「えっ?!」という声を発してしまいました。河野太郎氏は言葉を継いで、新型コロナウィルス対策には「ワクチンや注射する医師は厚労省、冷蔵庫は経産省、物流は国交省、使った針などは環境省、学校を使えば文科省、自治体の関係は総務省、予算は財務省等々と調整して進めます」と、少なくとも7省庁が関係していると語っています。その言葉通り、まさに「ワクチンは厚労省」ですから、実際には厚生労働省が専門的な判断を下しながら、ワクチンの調達と接種推進に全力を尽くしてきている筈です。

 なぜ今頃“ロジ”を担当する大臣が必要なのだろうか、ことによると日本では、新型コロナウィルス対策の終着駅とされるワクチンと治療薬の開発と提供の準備ができていないのだろうか…と思っていたところ「ワクチン明日(2/14)にも第1便が日本到着、欧米より2カ月遅れでワクチン接種ようやく始動」というニュースが流れてきました。そして、厚労省が2月17日から国内でのワクチン接種を始めるということを取り決めたのですから、今度は「あれっ、だとすると、新型コロナワクチン接種推進担当大臣がされる仕事は一体何なのだろう?」と疑問に思えてきました。

<コロナワクチン接種推進担当大臣の役割は?>


 インターネットを検索してみたところ、河野太郎氏が如何にも事情通っぽく使っていた「コロナのワクチンの“ロジ”」はロジスティクス、つまり、「物流」のことかと思っていたのですが、どうも意味が違うようですね。「サブ」と「ロジ」は官庁用語で、「ロジ」は「サブ(サブスタンスの略)つまり政策の中身を実現するための手続きすべて」を意味しているのだということが分かりました。つまり、「サブ」(新型コロナワクチン対策)の中の「ロジ」(接種推進)を担当することのようですね。厚労省は自省の役割を「ワクチンを確保して自治体に分配する」ところまでで、そこから先の「実際に住民に接種する」のは「自治体の責任」と考えていたんですね。ワクチンを届けるためにシステム開発に乗り出していた『ワクチン接種円滑化システム』(略称;V-SYSブイシス)でもワクチンの需給に合わせて自治体に配送することだけを管理するもので、誰にいつどこで打ったかを記録する仕組みがないことが昨年末に分かって官邸で大騒ぎになっていたのだそうです。河野太郎大臣談によると「自治体の関係は総務省」ですが厚労省と総務省が連動していなかったということがはっきりわかりますね。

<日本の議院内閣制には横断的な問題対応能力が欠如>


 どんな政治家大臣でも行政体験は無に等しいのですから身に付けている問題解決能力はたかが知れてい  ます。ですから小泉・安倍流の「担当大臣を決めれば問題解決」とする考え方は基本的に間違い。コロナ 担当大臣に起用された西村康稔氏なんか通商産業省の官僚上がりですから多少の行政経験はあるのでしょうが、関連情報が一手に集まってくる各官公庁の事務次官の経験レベルと比べると段違い。コロナ担当大臣とは言っても、配下にピラミッド組織を擁していないのですから、高級官僚なみのそつのない応対こそできますが、問題解決力はなきに等しいのです。河野大臣にしても然り、結局関係省庁や業界関係者の協力を得てできる限りのことしかできないのでは。縦断的な問題の解決なら、政治家大臣が屋上屋を重ねるような形で、関連情報が一手に集まるそれぞれの官公庁の事務次官の上に座していれば有能な官僚が問題を解決してくれるのですが、新型コロナウィルス問題のような横断的な問題となると頼れる官僚がいないんですね。菅首相は「横断的な問題解決能力を持ったデジタル庁を新設する」と語って良い所を見せましたが、安倍前首相はこれに先立って、関係省庁の官僚を常駐させた「コロナ担当庁」を設置し、その管理権限を西村康稔コロナ担当大臣に委託すべきでした。議院内閣制は、議会の多数派が内閣を形成して政権の座につくことにより立法と行政との間に協力関係が築かれることにあるのですが、横断的な問題解決能力を備えた官公庁組織が不在のままでは話になりません。

<今こそ「脱官僚依存」と「政治主導」の実現を>


 およそ10年前に民主党が政権を立ち上げる時にうたった「脱官僚依存」と「政治主導」は、「縦割り組織の中で活動している官僚組織に“動かされている”状態から脱却して、官僚組織を“動かす”形にしなければ政治主導を実現することはできない」と正しく認識すべきでした。「関係各省庁の官僚が原組織に籍を置きながら常駐して問題解決に協働する横割り組織を設け政治家大臣がこれを区処する」といった官僚組織改革構想が不可欠だったのですが、民主党はこれを欠いたため、「事業仕分け」によって、財務省による予算配分のもと業種別縦割り組織の中で国費が無駄遣いされている実態を暴き出すにとどまりました。それも、自民党政権に戻ってから雲散霧消。再び大宝律令(701年制定)以来かと思われる伝統的な縦割り官公庁組織に“動かされている”実態に戻ってしまっているわけです。ともかく「欧米より2カ月遅れでワクチン接種ようやく始動」というのは“国際政治オリンピック”の観点からみても入賞ラインから程遠い恥ずかしい状態です。通常の予算配分の中で厚生労働省が“部分ベスト”を尽した結果に“動かされている”状態に過ぎず「内閣が官僚組織を“動かす”」状態になっていないということを政治家諸侯はじっくりと認識する必要があります。

<求められる官公庁組織の改革>


 いきなり大掛かりな組織改革を実現するのは至難でしょうから、民間企業では疾うに導入しているプロジェクトチーム体制をとっても良いのです。安倍前首相は、無い知恵を絞って問題解決に全く役立たない一人当たり10万円の特別給付なんかしていないで、真っ先に「コロナ対策プロジェクトチーム」を設け関係各省庁の選りすぐりの官僚を常駐させ、ワクチンと治療薬の開発と提供を最優先課題にした全体的な新型コロナウィルス対策の体形と予算の設定について“全的ベスト”を追求する体制を設けるべきでした。そして、プロジェクトチーム所管大臣からの報告を受けて国民に、たとえば「来年3月にはワクチンと治療薬を国民の皆さんに提供できるようにします。それまでに出来ることがひとつだけ。それは私たちの行動に関わることで、ウィルス感染の拡大の速度を落とし時間稼ぎをするしかないのです。」とでも説明しておけば、国民は「おお、安倍さんの言うとおりだ」となって、外出規制要請にも積極的に賛同するようになったことでしょうに。

<“国際ワクチン接種競技”で金メダルを>


 ワクチンの製造については、国及び日本企業の持てる人・物・金・情報の総力を挙げて、日本産ワクチンを開発することを検討したのだろうか。それとも国産医薬業界の新薬開発能力がもう地に落ちてしまっているということなら、それならそれで、海外の医薬業に人・物・金・情報を支援して日本への輸入時期を早める手を打っておかなかったのだろうか。いずれにしても、ワクチンの調達について日本としての総力が掲げられた形跡が見当たりません。これからでも結構。「コロナワクチン接種推進プロジェクトチーム」を編成して“国際ワクチン接種競技”で金メダルが取れるよう、各省庁が連携した全的ベストが実現できる体制をとる必要があります。そして、菅首相が、オリンピック・パラリンピックのために来日する外国人の選手や観客に向けて、「国民全員へのワクチン接種が完了して新型コロナウイルス感染の恐れが全くなくなった日本へ安心しておいでください」と声をかけることができるようになりますように。

 


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