ちょっと発表


2021.01.20    月村 博
  榮 憲道さんを偲んで

 自分の人生の残り時間は時々刻々と減っています。そういう意識を持つことによって初めて人生のプライオリティー(優先度)を考えることができる。 自分の寿命を予測し、残り時間をどう使うかという綿密な計画を立てて生きていく——これからはそんな時代になる。 (平野啓一郎)

 2017年10月に、10万人に2人か3人という希少がん(GIST)と判明して以来、自分の寿命(榮さんは定命と称していた)を予測し、その間に考えられる終活を着々と進めて来たように思う。
『がんからがんの記』(2018年5月)によると、

(既に名古屋市池下に現代風陵墓を購入し、生前戒名の授与も受けている。いざとなれば今お世話になっているがんセンターに入院して、緩和ケア病棟で苦痛をなるべく少なくしてもらい、苦労をかけた妻に感謝しつつさっぱりとあの世へ旅立つつもりである。人には生まれた時から寿命は定まっており、どうあがいてもその時が来れば来世へ行くことになる。
この時点では、金婚式まであと1年、傘寿まで1年半、2年後には東京五輪もあるではないかと、もうひと踏ん張りして生き抜こう)

と記している。
 ☆ 現世に未練なけれど待てしばし金婚の春きみと言祝ぎ

『がんからがんの記(2)』(2019年6月)によると、よく効いて、副作用の非常に少ない抗がん剤・グリベックからスーテントに変わり、さまざまな副作用に苦しみながらも、『3つのふるさと』(2018年10月)を発行して、それぞれの地区(小田原・西宮・長久手)の思い出を詠い、友人・知人とのサークルを退会やら解散して身辺整理を進めました。第一のふるさとである小田原については、小田高同期テニス例会には体調が良ければ参加して、プレイ後の懇親会を大変楽しみにしておりました。
 2020年に80歳を迎える小田高同期の仲間たちには、『80歳、呆け防止のための俳句・川柳・短歌、初心者塾』
(2019年11月)を立ち上げ、趣味である短歌に加え俳句や川柳の短詩系文芸を勧め、“コロナ禍”で「特別な年」となった2020年春、「初心者塾」の実践編として、作品集を企画して投稿を呼びかけました。
猛暑の中、編集・印刷・製本と正に命懸けの作業を続けた結果、秋には素晴らしい“落ち着いた文芸誌”『傘寿記念、80歳から始める俳句・川柳・短歌、 初心者塾』(2020年10月)が誕生したわけです。
計画通り、秋11月に「傘寿を祝う会」が開催されたならば、制作の労をねぎらい積もる話をしていただくつもりでしたが、コロナ禍で機会は持てませんでした。
 ☆ この秋に傘寿の校友と盃挙げて後は悔いなし我が<余なる生>

 昨年暮れに書状でご連絡を頂いた奥様にお礼の電話をした際に「亡くなる2日前、ホスピスで面会した際、主人の顔付きが変わっていて、ほんとうに穏やかな表情で感謝の気持ちを伝えるため、50年間連れ添って来て初めて聞く、優しい言葉を3回も掛けてくれたのには大変驚きました」とのことです。これは恐らく榮さんが仏様のように慈悲深い心で、奥様に最後の挨拶をしていたのではないでしょうか。
そして最後の日となった10日、昼間は一人でトイレへ用足しに行き、夕方、老衰の如く静かに旅立っていかれたことに、ホスピスの関係者から「こんな事は初めてであり“奇跡的”です」と言われたそうです。

さすが榮さん、思いどおりに終活を進めて、さっぱりとあの世に旅立って行かれましたね。
どうぞ心安らかにお眠りください。   合掌



          1つ前のページへ