生産の復興・拡大につれて、国民の消費生活にも変化が生じており、昭和34年の経済白書において、初めて「消費革命」という言葉をつかって次のごとく説明いる。
「33年度の国民消費水準は、29年度以降としては最高の伸びを示したが、消費の内容についても質的高度化の傾向が強められた。消費内容の変化の中には少なくとも三つの方向がみとめられる。その第一は過去への郷愁であり、第二は狭義の生活合理化であり、第三は電気器具等の新製品の出現および教養娯楽施設の増加などに対応する生活の変化である。すなわち、高級婦人着物にたいする支出増加や米食率の増加などは第一のものであり、肉乳卵類、加工食品の支出増加は第二の動向を示している。また家具什器、外食、教養娯楽費等の支出増加は第三の方向を反映するものである。この三つの方向への支出増加の傾向はここ数年来つづいているが本年度はとくに第三の方向への支出増加がデモンストレーション効果、価格低下、月賦販売の普及などに助けられて最も顕著であった。その中でもとりわけ、支出増加のいちじるしい家具什器の中の家庭用電気器具についてであり、最近の家庭用電気器具の普及は高所得層から漸次中所得層へと移行しつつある。農業における消費の内容も都市とほぼ同様であり、穀類への支出減、肉乳卵類、加工食品、外食への支出増加をはじめ、家具什器、交通通信、学校教育費、教養娯楽費などへの支出が目立っている」と、このような消費革命の原動力となり、また同時にその需要を支柱とした各種の消費財産業の発展と、それらの変化に対応する農林水産物、工業生産物、サービス部門における生産構造にも大きな影響を及ぼした。
これらの背景のもっと根本的な変化として、国民生活や国民文化の変貌としてのとらえかたもあり、すなわち国民の教養・娯楽・観光など生活文化の側面に現れた変化が、根本的な現象といわれており、そこにレジャー(余暇)が発生し、レジャー産業の到来である。
技術革新は、産業の機械化、合理化を促し、マスプロの分野と規模とをますます拡大されることによって、製品の質とコストに大きな影響をおよぼし、一方では通信・輸送手段の発達に伴い技術の伝達、普及もそくしんされた。
それらの過程を通じて、労働時間は短縮され、労働の質と職種も変わり、労働環境も改善され、こうしてレジャー消費すなわち生活時間的にみれば余暇利用は、多くのレジャー産業やそのための公共施設を発達させた。
これまで述べてきたように、所得水準の向上、技術革新の進展、大量消費財の生産拡大、消費革命の進展、レジャー産業の発展、マス・コミの普及という一連の経済的・社会的現象は、たがいに関連しあって一つの新しい現象を生み出し、それは国民の生活意識の本質的な変化であり、それの社会的・文化的の現れとしてのマス文化の発生といえる。
長い間、われわれ日本人の生活意識の基盤は家庭生活を中心として、その行動範囲も狭い地域社会にあり、日常生活にたいする基本的態度は、消費節約・勤倹貯蓄・刻苦勉励を美徳とし、家長や目上の権威を尊重して、その権力に服従する道徳を中心としてつらぬかれており、いわゆる封建的倫理によってしつけられていた。
そうした封建的意識の社会的基盤は、すでに戦前からしだいに緩んできていたとはいえ、終戦後の民主化において、その権威・権力の制度的基盤が失われてから、いきょに崩壊過程にはいったが、しかし、そうした民主化過程からただちに新しい生活意識は発生せず、それは、新しい生活意識を支える経済的・社会的・文化的基盤がかけていたからであり、いまや終戦十年にして生活革命が進展し、まったく新しい生活意識が発生したのである。
この新しい戦後の生活意識にはいろいろの特徴があり、その一つは、生活用品の大量生産・大量流通がみられるにいたった結果である大衆社会の出現であり、マス・コミとしては、テレビの普及と大衆向きの週刊誌のおびただしい発刊である。
もう一つの特徴として、安定ムードとともに「私生活への傾斜」がうまれ、働く人たちが、職場よりもむしろ家庭生活に力点をおく傾向さえ出てき、それは戦前の日本人の生活意識にみられなかった革命的変化といえよう。
たしかに、国民の生活意識には革命的な本質的な変化がみられたが、さらに高い次元からみるに、そうした大衆消費やマス・レジャー時代の到来による生活意識の革命は、他の社会的側面や政治的次元とのバランスがとれたであろうか。
そこには、なお戦後日本の歴史的展開によって現在も露呈される幾多のアンバランスがみられている。
つづく
|