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  2015.05.15 4組 今道周雄
日本で初めての連続熱延DDC(直接ディジタル制御)

1. 川崎製鉄水島

 三菱電機は1969年に川崎製鉄水島のホットストリップミル(連続熱延ミル)を受注し、私が所属する部門はスーパーバイザリコントロールとコンピュータAGC(自動厚み制御)を担当することになった。当時ホットストリップミルの仕上げミルは、東芝がGEから導入したアナログAGCの強みでほぼ独占に近かった。しかし、1968年に三菱電機がウエスティングハウス(以下W社)から技術導入して完成した第一厚板ミルの計算機制御が成功したことから、川崎製鉄は三菱電機をホットストリップミルの電機品供給業者に選んだのである。
 計算機AGCの技術は1967年に私の上司がW社で習得し、ソフトウエアを持ち帰っていた。(そのころW社ではPRODAC 50ですでに実績を上げたことになっていた。)

 AGCプロジェクトのチームは今道、京都大学椹木研卒のI君で、電機の制御は神戸製作所計画課のT氏が担当する事になった。

2. サンプリング制御

 ホットストリップミルは約1000度に熱した厚さ250mmほどのスラブを可逆式の粗圧延機で25-30mmくらいまで圧下し, 次に6段のミルで1.2-32mmくらいまで連続圧延を行う装置である。
 AGCとは自動板厚制御のことで、フィードバック及びフィードフォワード制御を行う。6連ミルでは2/3/4/5段のミルを制御に使う。6段目を動かすのは形状に影響が出るので好ましくないとされていた。
 フィードバック制御では、当該スタンド(ロール・スタンドのこと)で検出した圧延力とロール間隙から板圧を計算し、スーパーバイザリー・コンピュータが計算したロールのパススケジュール設定ロール間隙を微調整する。フィードフォワード制御では前段のスタンドで検出した圧延力とロール間隙から板圧を計算し、後ろの段のロール間隙を微調整する。この調整は鋼板を圧延中に時々刻々おこなうのである。
 圧延するロールの回転は、前段は遅く後ろへ行くほど早くなり6段目の出側でのストリップ速度は10-15m/secとなるが、AGCが主に制御する2/3/4段目ではそれほど早くなく、2-6m/secである。しかし5段目は、フィードバックでは遅れが大きくなるために、4段目からフィードフォワード制御をするようにした。
 フィードバック制御では、制御系の遅れが大きいと不安定になり制御できなくなる。制御の遅れは「検出」「演算」及び「圧下駆動」の3要素で発生する。MELCOM 350-5(当時のミニコンピュータ)では乗除算をソフトウエアで行い、1命令が200μSec程度かかるため演算遅れが心配であった。演算上の要点はサンプリングの間隔である。サンプリング時間を短くすると演算が間に合わなくなり、さりとて時間を長くしすぎれば制御精度が悪くなる。
こういった心配を取り除くためには、出荷前に十分な調整が必要なのだが、ダイナミックな制御を調整できる方法がその時点ではなかった。

 ふと思いついたのがミルをアナログコンピュータでシミュレーションすることであった。そこで神戸製作所のT氏に相談すると、すぐにアナログコンピュータ1台と模擬圧下装置を送ってくれた。模擬装置といっても大きなものでサイリスタ制御装置と150Wのモータ及び実際に使うセルシン送受信機(圧下位置を検出するもの)を装備していた。

3. シミュレーション

 試験調整はI君が担当した。京都大学大学院椹木研究室の出身であるI君は、DDCの完成にもっとも適した人材であった。シミュレーションを始めるとすぐに、模擬圧下装置の応答が実物よりかなり悪いことがわかった。しかし、ステップ信号応答試験や正弦波信号応答試験を重ね、ソフトウエアのデバグやサンプリング周期決定、及びループ応答ゲインの決定などほぼ考えていた試験を全て行うことができた。この結果は第9回計測自動制御学会学術講演で発表した。


4. 成果

 このシステムでは信頼性を求められたために、MELCOM 350-5を二重系として納入した。しかし、M-5の信頼性は非常に高く、むしろバックアップ機は新しいプログラムのデバグに使った。全成果は「計測と制御 昭和47年5月、第11巻 第5号」に掲載されている。