健  康 Home


 塩の取り過ぎはよくないか               2015.03.28  3組 江木紀彦 

 大学の同窓会などで、久しぶりに会う友人達との会話は、ちょっと前までは会社の話やゴルフやテニスが話題だったのに、身体の不調や病気と薬のことに花が咲いてしまうようになってしまった。
 最近は肥満や高血圧が目の敵にされていて、コレステロールを減らす薬やペットボトル入りでも特保と称するお茶を飲むと体内脂肪が減るなどと、宣伝が盛んである。健康診断では、体重や身長と胴回りが測られる。少しでも細くしたいとお腹を引っ込めると看護師さんに叱られ、ふっと息を抜かされる。するとだらしなくお腹が垂れ下がり、はい90cmですねとにんまりと微笑まれる。つまりメタボですねということである。しかし、現実にはメタボ側にいる方が平均寿命が長いという報告もある。どうもメタボと大騒ぎするのは血圧降下剤を飲ますための陰謀かと疑いたくなる。
 そうかというと、コレステロールの摂取制限は今年より無くなるし、高血圧も150mmHgくらいでもいいだろうという声もある。

 さて、食塩は、化学記号で云えば、NaClで、Naつまりナトリウムは水と同等に人間の身体にとって必須のものである。体内では重炭酸ナトリウム・イオンの形で存在する。これが一定量血中に存在する必要がある。Na+(ナトリウムイオン)が血管から細胞に移動することで、細胞が活動する。Na+の不足は細胞活動を止めることになる。ゲルソン療法というドイツの医師マックス・ゲルソンが1958年に「癌食事療法全書」で発表した療法がある。これは、まず徹底的に無塩とした食物を食して、身体を弱らせても癌を徹底的に叩くのである。それから、無農薬の野菜を主体として食して、体力を回復させる療法である。無塩が過ぎれば死に至るのであるが、Na+無しでは正常細胞より癌細胞の方がもっとダメージを受けることを利用している。これがNa+がどれほど身体に大事な成分かを示している。では、塩の取り過ぎが高血圧になるという点についてはどうであろうか。

 3月21日付の読売新聞に「減塩もっと積極的に」という記事があった。男性では1日9gを8gにしようと云っている。ラーメン1杯のスープも全部飲んでしまうと6gの食塩を摂ることになる。納豆そのものには食塩は入っていないが、パック1袋40gの納豆に付いているたれには0.9g入っている。ちなみに、食品に入っている塩分量〔( )内〕の例を挙げると、塩鮭1切れ 80g(6.5g)、カップラーメン1杯75g(4.8g)、梅干1個 10g(2g)、たくあん1切(15g)、味噌汁1杯 150g(1.4g)なので、コンビニの鮭弁当に味噌汁1杯だけで少なくとも8g摂ることになる。

 日本人は大体12gの摂取量となっていること考えても、和食で9g以下にすることがどれほど難しいかお分かりになると思う。


 では本当に食塩の摂取は血圧を上げるのであろうか。
2012年3月2日付けの毎日新聞の「長生き県は長野」という記事である。余談だが、ワープロに「ながいきけん」と打ったら「長い危険」と変換された。なるほどそうとも読めると感心してしまった。
 『厚生労働省は1日、人口10万人当りの年間死亡者数を表す都道府県別の年齢調整死亡率(2010年)を算出し、男女とも長野が最も低かったと発表した。5年毎の調査である。長野は男性が90年以降5回連続で最も低く、女性は前回2005年調査で2番目に低かった。
死亡率が低いのは、男性では長野で477.3、滋賀496.4、福井499.9の順であった。女性は長野248.8、新潟254.6、島根254.7で男性の半分。高いのは、男性が青森662.4、秋田623.5、岩手590.1。
女性は青森304.3、栃木295.7、和歌山294.5であった。
 <年齢調整死亡率:年齢構成の異なる地域間で病気など による死亡状況を比較するため、統計上の処理によって 年齢構成をそろえた場合の死亡数。(単位:人/10万人)>
長野の死亡率が低い理由について、同省は「保健師らによる 食生活の改善運動や病気の予防対策に熱心に取り組んでいるためでは」と指摘している。』それなら他の県でもやったらと云いたい。この青森県での死亡率と食塩摂取量の関係から、食塩の多量摂取はだめという結論を出している。
 一方、1人当たりの食塩消費量(摂取量)ランキングもある。
総務省は家計調査から都道府県別食塩消費量を調べている。この食塩消費量調査の結果は、1位は青森県で年間4571gで全国平均2692gの1.7倍の消費量である。山形、秋田と東北地方の後に、長野、そして岩手となる。

 心疾患、脳血管の罹病率の統計もある。長野は脳血管疾患は多い方だが、心疾患では少ない方である。青森の男性なら確かに肥満でもあり塩分摂取との関係があって、脳、心臓に問題がある。気温の低さと塩分摂取も割と強い相関があるが、北海道は該当しない。このようなことから、男女を問わず塩分摂取は良くないというのは単に仮説であって、正しいと立証された訳ではない。


 これは旧塩専売公社からの話だから手前味噌(手前塩?)かもしれないが、真面目な内容である。
「インターソルト・スタディの結果から」(日本たばこ産業(株)塩専売事業本部調査役 橋本壽夫氏) 『文明社会では食塩摂取量と高血圧発症率は関係ない。』 インターソルト・スタディとは32ヶ国、52センター、10,079人(男5,045人、女5,034人)を対象として国際的に行われた食塩摂取量と血圧に関する、実施場所で差が出ない公平な調査となるよう配慮して行った疫学調査である。食塩排泄量(摂取量とほぼ同じ)と高血圧有病率との関係は図1のような結果となった。

 特に低塩食の食生活を行っているパプアニューギニアなど未開社会の4, 5, 24, 28番の集団を除くと、全く関係がなくなってしまう。この図から明確に言えることは、文明社会では食塩の摂取量に関係なく10~30%の高血圧患者がいるということである。
実際のところ、このように述べている文献もある。(ウィキペディアも参照して加筆:江木)

「高血圧の90%以上が原因不明」:
『高血圧は、原因により「一次性高血圧」と「二次性高血圧」に分類される。
「二次性高血圧」は、腎臓病やホルモン異常など、原因となる病気があるものを言い、原因となる病気が治ると、高血圧も改善される。いわゆる高血圧ではなく、高血圧疾患である。
「一次性高血圧」は、「本態性高血圧」とも呼ばれ、特に明らかな異常がないのに血圧が高いものを指す。血圧を上げる要因は、主として遺伝的要因、加齢による血管の老化である。

 遺伝的要因では、両親とも高血圧の場合、高血圧になる素因を子供が持つ確率は1/2と高率となる。つまり両親共高血圧だとその子供の半数は高血圧となる。塩分摂取を減らしても血圧は高い。
加齢により高血圧とされる大部分のものは、心臓の出口の5cm程度の上行大動脈の硬化症により、脳に供給する血流が不足して脳内の酸欠とならないよう、血圧を上げたために起きている。

 この上行大動脈硬化症と「食塩の取り過ぎ」については、明確な因果関係は分かっていない。』
腎臓の働きと塩分摂取量とを関係付けることはできる。血中の塩分濃度を一定に保つことが人体には必須である。体内の塩分量が増加すると、まずは喉の渇きとして自覚し、水分を摂って濃度を調整する。すると体内の血液が薄まって多くなり、血圧が上昇する。そして腎臓に流入する血液が増加し余分の水と塩分が排泄される。しかし腎臓の水と塩分の排泄能力にも限度があり、それを越えてしまうと血液量があまり減らなくなるので、高血圧状態が残ってしまう。高血圧患者の6割程度がこの食塩感受性高血圧症だそうである。つまり全員が必ず高血圧になるわけではないのである。

 ところが、日本で津軽地方の疫学調査をした時の結論が「他の場所に比べて、塩分を取り過ぎており、それが高血圧症状を示す人が多い原因である」であった。それを米国の学者が初めてデータの裏付けがある事実として取り上げ、米国内でも似たような調査をして、塩分の過剰摂取と高血圧を一般論として結びつけたものらしい。

 日本人の食塩摂取量は1日平均12gであり、欧米人に比べて多い。日本人の食塩嗜好は野菜の漬け物、梅干し、魚の塩漬けなど日本独自の食生活と関連があるが、日本の高血圧治療ガイドライン(2004年版)では1日6g未満という厳しい減塩を推奨している。
 でも、男女平均寿命の1位は83歳の日本で、(193カ国中2010年5月10日、WHO(世界保健機関))西欧のイギリスやドイツは80歳で20位である。どうして塩の取り過ぎを咎めるのか不思議である。長い間、過剰な塩分を摂取してきた日本人の腎機能が、あまり塩分を取らない欧米人と同じ機能しかないと決めつけていることも疑問である。先のインターソルト・スタディの結果は「文明社会では食塩の摂取量に関係なく10~30%の高血圧患者がいる」ということであり、津軽地方に高血圧が多いのは低温のせいだとする人もいる。
 また、肥満度の統計では、宮崎が1位で福島、栃木と続く。長野は痩せている方である。塩の取り過ぎが肥満になるというのも、眉唾となってくる。
 最近、何かの取り過ぎは良くない、とか微量放射線にも当たりたくないなどの過剰反応が多い。 コレステロールは関係なくなったら、今度は砂糖の制限となった。食品添加物の許容量は十分な検証を経て、一生涯食べ続けても健康に害無しというものの筈であるが、コンビニ弁当を食べていると癌になるなどの週刊誌報道もある。このような極端な言動には惑わされないようにしたいものである。 とはいえ、食塩も砂糖も過剰に摂ったりしない方が無難ではある。        以上

          1つ前のページへ