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 したたか自民とナイーブ野党

2015.02.19 3組 佐々木 洋


民主党代表選に見られた「純真さ」

 海江田前代表の昨年末(12/14)の衆議院選挙落選に伴って行われた民主党の代表選挙の過程は、派閥の領袖たちが暗躍する自民党の総裁選挙と違って、“清く正しく美しい”ものでしたね。候補者3氏の言動も真摯そのものでありケレンみのないものでした。この「ケレン」は、「派手な演出・演技」という意味をもつ演劇芝居用語「外連(けれん)」に発するものであり、ここから「はったり」や「ごまかし」といった意味で広く使われるようになった言葉だそうです。まさに、日本語化されて専ら「純真な」という意味をもつようになった「ナイーブさ」が代表選の場にも表れていたように思えます。しかし、フランス語から発した英単語の”naïve”は寧ろ「単純な」とか「世間知らずの」、「だまされやすい」といった意味で使われることの方が多いようです。どうも民主党には「純真さ」の反面に〝世間知らずで、だまされやすい”「生硬さ」がついて回っているようです。それが何より証拠には、1/26総選挙後初めて開かれた通常国会に岡田新代表を擁して臨んでいる民主党に対する国民の期待度は少しも高まっていません。つまり、「純真に」代表を選出するあまり、この機会を利用して国民にアピールし民主党支持者を増やそうとするシタタカさが欠けていたということになります。

自民党の挙げた衆議院選大戦果

 そこにいくと、不要不急の衆議院選挙を、しかもクソ忙しい年末に仕掛けて大勝をおさめることによって「純真な」国民に以下のようなことを“気が付かないうちに”認めさせた自民党のシタタカさは大したものです。

① メッキがはげてきた「アベノミクス」(実は経済学不在の“アベノーエコノミクス”)の看板を引き続き  掲げ続けること

  しかし、日本国民のうちの何人が「アベノミクスの具体的な内容は何ですか?」という質問に正しく答  えることができるというのでしょうか。そう言えば、小泉純一郎元首相も具体的な内容が全く不可解な  「カイカク」を連呼して「純真な」国民を煙に巻いていましたっけ。

② 集団的自衛権行使に関して国会審議より行政府決定を先行させた三権分立の原則を脅かしかねない〝暴  挙“を不問に付すこと

  このことによって、行政府が決定した事項(実質的な立法)を実現させるための法令が、本来は国権の  最高機関であるべき立法府で審議制定されるという奇妙な手順が白昼堂々ととれるようになりました。

③ 景気動向の如何にかかわらず、否も応もなく、消費税を2017年4月に8%から10%へ引き上げること

  通常は、消費税引き上げを行った内閣は倒れて短命に終わるのですが、今回は景気弾力条項が削除され  るということが総選挙の結果是認された形になっていますので、安倍長期安定政権はお墨付きを国民か  ら得たようなものになります。思えば2014年4月に5%から8%に引き上げられたのも、「純真な」民主  党政権の野田元首相が仕掛けた三党合意に基づくものだったので自民党に対する風当たりはほとんど無  かったようですね。

④  政治とカネの問題から就任早々退陣を迫られた小渕優子・松島みどり両女性官僚に  対する安倍首相  の任命責任は問わない

  ご両名とも「ナイーブな」地元有権者の支持を得て当選しているのですから、それぞれ物議を醸したネ  ギだのウチワなどは日常茶飯事であってメクジラを立てるような政治とカネの問題ではないと思われて  いる証拠です。今後は国会における政治と金の問題の追及も手緩くなることが予想されるので安堵して  、ほくそ笑んでいる自民党議員もかなりおられることでしょう。

陰でタクラム知恵者の存在

 しかし、このような自民党のシタタカなタクラミは、お坊ちゃん育ちで”naïve”(「単純な/世間知らずの」)な安倍総裁の頭脳で考え出されたものであるはずがなく、陰で誰かが糸を引いている者がいるに違いありません。小泉総裁の時代にも、政党助成金を支払って起用したコンサルタントが、主婦層とシルバー層を「IQ(知能指数)が低く、具体的なことは分らないが、小泉総理のキャラクターを支持する層」と分析して、これをメイン・ターゲットに仕上げ、「郵政民営化に賛成する者は善玉、反対する者はカイカクに反対する悪玉」とする分かりやすい勧善懲悪ストーリーの“小泉劇場”を設えて、まんまと2005年の9・11総選挙で国民の圧倒的な支持を取り付けていましたね。今回も同様に政党助成金を使って腕利きの知恵者であるコンサルタントを起用したものと思われます。政党助成金を賄うための税金を納めていながらコケ(低ⅠQ)扱いされてしまうのでは間尺に合いませんし、「これじゃ、“衆愚政治”を助成しているだけじゃないか!」と憤りたくもなりますが、それでも選挙による党勢拡大のため、つまり“政党助成”に役立てられているのですから文句のつけようがありません。

民主党はナイーブな助成金活用を

 民主党が政権の座に就いた時に掲げた「官僚依存からの脱却」というスローガンは誠にナイ―ブ(純真)なものであり、現代の日本に強く求められている課題であったのですが、惜しむらくは、これを実現するための理論武装を欠いていました。もともと、縦割りの階層構造のトップに君臨していて、人・金・物・情報に関する権限が集中している各省庁の事務次官の上に、屋上屋を重ねる形で政治家大臣を配置したところで政治家が官僚を制御できるわけがないのです。ますます複合化しつつある問題に対する解決能力のない現在の縦割りの官僚機構を縦断的機能を重点とする組織に改編し、これを政治家大臣が差配する形に“改革”する必要がありました。そして、それには、問題解決型の横断的な組織に、専門分野別の縦割り組織(各学部)の教授が常駐して問題解決に協働するMIT(マサチュセッツ工科大学)のマトリックス組織なども格好のロールモデルになり得ると考えられたのですが、民主党はそのような先進事例に見習おうとせず、泥縄式に菅直人氏がイギリスの議会を見学に行っただけでした。案の定、短兵急に成果を求める国民の期待に応えることができず、民主党政権は早々の退陣を求められ、元の木阿弥で、旧態依然たる自民党官僚依存政権に舞い戻ってしまいました。小泉流のカイカク(似非改革)でさえ“抵抗勢力”が現れたのですが、本物の“改革”には強力な抵抗や反発が伴いますから余ほど説得力のある理論を装備しておく必要があります。民主党は捲土重来を期するためにも、政党助成金を投じて専門家(この場合は実践的で説得力のある組織論の論者)にコンサルティングを委託して、官僚機構の改革のための構想や方法論についての建言を求めるべきではないでしょうか。これに基づいて、民主党が理論武装するとともに、国民を啓蒙してくれれば、その支持率が高まって民主党は“浮動票頼りの政党”から脱皮することができ“政党助成”の実を挙げることができます。国民を愚弄するかのごときシタタカな自民党の政党助成金の使途とは対極的ですが、このように国民を政治意識高揚に導いてくれるような使途法こそナイーブ(純真)なものであり、政党助成金のスポンサーである納税者としても心から納得のいくものとなるに違いありません。

衆愚政治”打破へ向けて

 日本共産党は「企業団体献金禁止を名目に助成制度を作ったにもかかわらず、現在も企業団体献金を残しているのは有権者への裏切り」として政党助成金受け取りを拒否して、清く正しく美しいナイーブ(純真)な姿勢を取り続けています。昨年末の衆議院選挙では,292人を小選挙区、比例代表に42人、それぞれ立てて議席数は増やしたものの一方で、最低得票数に達しない候補者が多かったため、約9億円の供託金が国庫に没収されたようです。そして、その国庫から政党助成金が自民党に支払われて選挙での大勝利に役立てられるというのですから皮肉な話です。その「筋を通す」潔い姿勢は壮とすべきですが、自民党が衆愚政治を推進してきている過程で、特に、日本が世界に誇ってきた平和憲法が改憲の危機にさらされている今、日本共産党は危機感をもって平和憲法護持勢力の拡大のため“政党助成”を急ぐ必要があると思います。これまで“平和憲法護持政党”を代名詞としていながら凋落してしまった社会民主党に代わって超党派的な平和憲法護持活動の中心的な役割を果たせるのは日本共産党しかないと思われるからです。残念ながら、すっかり陳腐化してしまったように見える“共産主義”の看板を掲げ続けているところに典型的に見られるように、一般的には日本共産党は“特別な人たちの集団”と見られているのではないでしょうか。政党助成金を用いて専門家(この場合はイメージ訴求のための演出家)のアドバイスを得て、平和憲法の意義を説いたり市民運動の展開を呼びかけたりする広宣活動を強化する過程で、“開かれた党”であることを国民に向けて訴求していけば支持者が増えて政党助成の実もあがることでしょう。昨年の集団的自衛権行使の閣議決定について、昨年末の衆議院選挙で国民から“気が付かないうちに”承認を得た上に、今度はISILによる日本人人質殺害事件まで追い風と利して安倍内閣は平和憲法改憲に向けてひた走っているように見えます。しかも、根底に「民は因らしむべし、知らしむべからず」という強烈な“衆愚政治”志向があるのですから心寒い限りです。麻生太郎副総理兼財務相が、平和憲法改憲について「ドイツのワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。“誰も気が付かなかった”。あの手口に学んだらどうかね」と口を滑らせたのも、それが本音だったからでしょう。ワイマール憲法を改憲したナチスとまではいかないまでも、軍国主義国家に偏していった戦前の日本の“いつか来た道”を辿りつつある日本を見ていると背筋が凍る思いがします。自民党政権によって「IQ(知能指数)が低い」と決め付けられた私たちシルバー層ですが、せめて、自分たちを啓蒙し気付きを与えてくれる政党を支持し“助成”していくことにしようではありませんか。
 



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