哲照さんの趣味 


ランドルフ・スコットのあの映画と再会!
2015.04.03
7組 山本哲照


 忘れられない西部劇のワンシーン

 2014年12月4日付の「WEB11」に西部劇に関する駄文を寄稿しましたが、幼少時「富貴座」で見た数多くの西部劇映画の中に強烈に印象に残っている一つのシーンがありました。

それはミスター西部劇「ランドルフ・スコット」が建物の中にいて窓越しに撃ち合いをしているシーンです。彼はなぜか両手の指に一本ずつ白い包帯を巻いていました。そして何発か撃ち合った末に撃たれて死んでしまいます。その時左手が窓枠をつかみながら白い包帯をした指が少しずつ外れて行き、最後には窓枠から離れて手が画面から消えてしまう、というシーンです。たったこれだけの場面ですがとてもよく覚えていました。   
 この映画の題名はもちろん、筋書きや他の出演者などは全く覚えていません。しかし役者がスコットであったこと、指に一本ずつ包帯を巻いていたこと、窓枠に隠れて撃っていたこと、最後に撃たれて死んでしまうことだけははっきり覚えており、何とかこの映画をもう一度見たいと熱望していました。けれどもこの映画を映画館ではもちろんテレビ時代になってスコットが出演する映画は殆ど欠かさず見てきましたが、とうとう今まで見る機会がありませんでした。ランドルフ・スコット(1898~1987)は50本近い西部劇に出演し、日本で公開されたものだけでも23本に及んでいます。いつか見られるかもしれないとは思いながら、近頃ではほぼあきらめかけていました。


 思いがけない再会


 ところがつい最近(2015年3月26日)その映画に再会しました。私は「韓流」にもハマッていてドラマや映画、K-POPなどを見るために小田原ケーブルテレビに加入しています。さらにオプションの有料チャンネル「衛星劇場」にも加入しました。その衛星劇場には「西部劇クラシックス」という枠があり、毎月往年の西部劇を2本ずつ放映しています。3月は「裸の拍車」(1953年、監督アンソニー・マン、出演ジェームズ・スチュアート、ジャネット・リー)と「西部魂」(1941年、監督フリッツ・ラング、出演ロバート・ヤング、ランドルフ・スコット)の2本でした。3月26日は録画しておいた「西部魂」を見ていました。途中まで見ているうちに何だか胸騒ぎがしてきました。頭の奥深くに眠っていた記憶が少しずつ掘り起こされるような感覚でした。「もしかするとこれは“あの映画”ではないか?」という感覚です。果たして物語の最後まで行って「あのシーン」が出てきました。細部に置いては少し記憶と違う部分がありましたが、ほとんど記憶の中の場面と一致しました。


 主な出演者と相関


 この映画について詳しくご紹介しておきます。「西部魂」(原題:WESTERN UNION)は1861年電信会社ウェスタン・ユニオンの技師長クレイトン(ディーン・ジャガー)が足を負傷して動けなくなったとき、助けてくれたショー(ランドルフ・スコット)を追われているらしいと知りながら牧童頭として雇います。電信技手として東部からやってきたブレイク(ロバート・ヤング)は同じく電信技手でクレイトンの妹であるスー(ヴァージニア・ギルモア)を巡ってショーと恋のさや当てを演じながら、一行はケーブルをオマハからソルトレイクシティまで引く旅を続けます。


 ショーと強盗団との関係は?

スレイド率いる強盗団に牛や馬が盗まれるという事件が発生、調べに行ったショーは昔自分も仲間であったスレイド一味の仕業であると突き止めましたが、クレイトンには「犯人はインディアン」と報告。クレイトンはショーに一抹の疑問を感じながらこの時は不問に付しました。目的地に近づいたころ、ショーはスレイドにおびき出されて仲間に復帰するように迫られたが拒絶。縛られて取り残されますが、焚火の火で縄を焼き切ります。撃ち合いのとき両手の指に包帯を巻いていたのにはこういうわけがあったのでした。キャンプに戻った時スレイドの放火で一行は散々な目にあっていました。クレイトンはショーに説明を求めたが彼は沈黙して語らず解雇されます。ショーはブレイクに「スレイドは俺の兄だ」と言い残してキャンプを去ります。


 床屋での撃ち合い


 「ここからが私の記憶の中に鮮明に残されていた撃ち合いのシーンになるわけです。スレイドは町の床屋で髭を当たっています。そこに子分が駆け込んできて「ショーが来る」と告げられ、首から足まで覆っている白布の下に拳銃を忍ばせて待ち構えます。ショーがスレイドに「決着をつけよう」と告げるとスレイドは拳銃を発射、弾丸はショーの左肩に命中し、彼は外に倒れ込みながら入口の左の窓枠のところに身を寄せ撃ち合います。そして中にいたスレイドの子分二人を倒しますが、彼自身はスレイドに撃たれてしまいます。この時包帯を巻いた左手が外の窓枠をつかみながら徐々に放して行き、最後に手が画面から消えて行きます。私が「スコットは家の中にいた」と最初にお話したのは間違いだったわけで、実際は家の外にいて中の相手と撃ち合っていたのでした。物語はこの後やってきたブレイクがスレイドを射殺して、ウェスタン・ユニオンは無事にケーブルを引き終り街中が祝賀モードに沸いている時、残されたクレイトン、スー、ブレイクの3人が「ショーが生きていれば・・」と彼を偲ぶ場面でエンディングとなります。


 「西部魂」の日本公開や監督・出演者のこと


 この映画は1941年の製作ですが、日本で公開されたのは1949年(昭和24年)でした。私は小学校2年生か3年生でした。今回テレビで見たものはカラー作品でしたが、当時は確かモノクロだったように思います。監督のフリッツ・ラング(1880~1976)はオーストリア生まれのユダヤ人。暗黒街の弾痕」「外套と短剣」「地獄への逆襲」「死刑執行人もまた死す」など重厚な作風の監督です。「西部魂」もテーマのはっきりした良作ですが随所に笑える場面も交えています。この作品のクレジットはロバート・ヤング、ランドルフ・スコット、ディーン・ジャガー、ヴァージニア・ギルモアの順になっています。つまり主役はロバート・ヤング(リチャード・ブレイク)であってスコットは準主役の扱いです。当時のポスターもヤングとギルモアのツーショットで、スコットは描かれていません。映画の中でスーを巡って恋のさや当てを演じていますが、ショーはスーに対して「自分は貴方を愛する資格はない。過去は消せない」というようなことを話すシーンがありました。映画全編をとおしてショーが過去の悪事を悔いていて、なんとか目立たないように生きて行こうとする姿勢が感じられます。これらのシーンの積み重ねからスコット演じるショーの悲劇的な結末を予測させるような構成になっています。私が今回この映画をテレビで見ている時に感じた「あの映画かも?」という直感はこのせいだったのでしょう。


 ディーン・ジャガーと「頭上の敵機」


 出演者のうちロバート・ヤングとヴァージニア・ギルモアについては私は殆ど覚えていませんが、ディーン・ジャガー(1903~1991)については一つだけ記憶に残っている事があります。私の一番好きな外国男優「グレゴリー・ペック」(1916~2003)が出演した映画「頭上の敵機」(1949年、原題:TWELVE O’CLOCK HIGH、監督ヘンリー・キング)に出演し、その演技が高く評価されてアカデミー助演男優賞を受賞したことです。

 「頭上の敵機」は第2次大戦時、対独戦略爆撃に参戦したアメリカ第918空軍を実話をもとに映画化したもの。大量の犠牲者を出した部隊はこれまでの隊長に変えてその親友のサベージ准将(グレゴリー・ペック)が指揮を執ることになります。サベージはそれまでの隊長とは違って厳格な規律と猛訓練で臨み、部下の反感を買って全員が転任願いを提出する事態に。サベージは副官であるストーバル少佐(ディーン・ジャガー)に時間稼ぎのために転任願いの提出を遅らせるように頼むと、少佐はサベージのことを理解していてそれに応じます。ジャガーは物語の冒頭から登場して映画は彼の回想という形で進展します。彼はサベージのよき理解者として描かれ、その演技によってアカデミー賞を受賞しました。


 テレビドラマの「頭上の敵機」

 「頭上の敵機」は1964年アメリカでテレビドラマ化されました。第1シーズンのサベージ准将役はロバート・ランシング。「小田高11期通信」第6号で私がご紹介した「87分署」シリーズで主役のスティーブ・キャレラ刑事を演じた俳優です。グレゴリー・ペックと同様に私の好きな役者だったので、テレビ朝日で放映された第1シーズンは欠かさず見ていました。ロバート・ランシングはいかにも渋好みの役者でいかつい顔に大きく張り出した眼窩の奥の眼が鋭く光り、刑事や軍人がよく似合いますが女性向きではない、ということでこの「頭上の敵機」では第2シーズンの1作目で戦死させられ、主役は女性向きのポール・バークに替わり、邦題も「爆撃命令」という面白くもおかしくもないものに替わってしまいました。原題の「Twelve O’Clock High」は12時の方向すなわち頭上(に敵機)という意味でこの空中戦の緊張感を表現した題名だったのですが・・・


 終 章

 子供の頃に見て74歳を過ぎた今になっても忘れなかったランドルフ・スコットの西部劇に思いがけず再会できた嬉しさを、誰かに聞いてもらいたくて思わず筆を取りましたが、またもやいつもの癖が出てあちこちに話が飛びそうなので、この辺で筆を置くことにします。この稿を書くにあたって参考にさせてもらった文献をご紹介して感謝のしるしとします。

 

  「THE WESTERN 西部劇大全集」発行所:芳賀書店
  「大いなる西部劇」発行所:新書館
  「誇り高き西部劇」発行所:新書館
  「シネマクラブ 2008年最新統合版」発行所:ぴあ


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