哲照さんの趣味 


思いこみが強すぎる私的女優論
2015.09.13
7組 山本哲照


 ラウラ・アントネッリの訃報

 今年(2015年)6月下旬新聞の夕刊にイタリア女優の小さな訃報が掲載されました。その女優の名はラウラ・アントネッリ。1941年当時イタリア領だったクロアチアのプーラで生まれた彼女は我々と同世代です。彼女は1973年(昭和48年)のイタリア映画「青い体験」(監督サルヴァトーレ・サンペリ)で母を亡くして男4人の所帯になった家に、お手伝いさんとしてやってきた若くてお色気たっぷりなアンジェラに扮し、世界の青少年の股間をわしづかみにしました。当時のイタリア女優は、

 エレオノラ・ロッシ=ドラゴ(1925年生まれ以下同じ、激しい季節)
 ジーナ・ロロブリジーダ(1927年、花咲ける騎士道、空中ブランコ)
 シルヴァーナ・マンガーノ(1930年、にがい米)
 モニカ・ヴィッティ(1931年、情事、太陽はひとりぼっち)
 ロッサナ・ポデスタ(1934年、トロイのヘレン、黄金の七人)
 ソフィア・ローレン(1934年、島の女、ひまわり)
 クラウディア・カルディナーレ(1939年、刑事、ブーベの恋人)

などがそれぞれ強烈なセックス・アピールを銀幕に振り撒いていました。
 これらイタリア女優の中での私の一押しはなんといってもラウラ・アントネッリでした。セックス・シンボルのように言われる一面もありながらその中世の肖像画から抜け出したような上品で古風な顔立ちが私は好きでした。彼女の出演作で私が見たものを製作年、監督名とともに列挙してみます。

 「毛皮のヴィーナス」(1970年)、マッシモ・ダラマーノ
 「刑事キャレラ 10+1の追跡」(1971年)、フィリップ・ラブロ
 「裸のチェロ」(1971年)、パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ
 「青い体験」(1973年)、サルヴァトーレ・サンペリ
 「続・青い体験」(1975年)、サルヴァトーレ・サンペリ
 「イノセント」(1976年)、ルキノ・ヴィスコンティ
 「悦楽の貴婦人」(1977年)、マリオ・ヴィカリオ
 「スキャンダル 愛の罠」(1985年)、ジュゼッペ・P・グリッフィ

 イタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督にも認められ彼の遺作となった「イノセント」ではアメリカ女優のジェニファー・オニール(1948年生まれ)と共演しました。オニールはロバート・マリガン監督の「おもいでの夏」(1971年)で戦地へ行った夫の帰りを待つドロシーを演じ、思春期の少年たちのあこがれの的となった女優です。但しその清楚で憂いに満ちた美貌とは裏腹に私生活では9回も結婚しています。情熱の国ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで生まれたせいでもないでしょうが・・・「おもいでの夏」の印象が強烈過ぎてその後の作品には恵まれなかったように思いますが、「イノセント」ではさすがの存在感でした。「おもいでの夏」はなんといってもミシェル・ルグラン作曲のテーマ曲が素晴らしかったですね。「あのイントロを聞いただけで青春の甘酸っぱい思い出がよみがえってくる」という方も少なくないでしょう。


 ちょっと脱線

 女優の話とはちょっと関係ありませんがルキノ・ヴィスコンティは1970年頃の私の大好きな監督でした。貴族の子として生まれ滅びゆく階級の頽廃・堕落と革命思想との矛盾を追及した巨匠でした。私が見た作品を製作年と主演俳優とともに並べてみますと、

 「夏の嵐」(1954年)アリダ・ヴァリ、ファーリー・グレンジャー
 「白夜」(1957年)マルチェロ・マストロヤンニ、マリア・シェル
 「若者のすべて」(1960年)アラン・ドロン、アニー・ジラルド
 「山猫」(1963年)バート・ランカスター、アラン・ドロン
 「熊座の淡き星影」(1965年)クラウディア・カルディナーレ
 「地獄に堕ちた勇者ども」(1969年)ダーク・ボガード
 「ルートヴィヒ 神々の黄昏」(1972年)ヘルムート・バーガー
 「家族の肖像」(1974年)バート・ランカスター、シルバーナ・マンガーノ
 「イノセント」(1975年)ジャンカルロ・ジャンニーニ

の9作品です。殆どの作品が2時間を超える長尺で、今思えばよく見たものだと我ながら感心します。今、映画館で上映時間120分以上の映画を見るとすると、途中でトイレに行かずに済ませる自信がありません。家のテレビでDVDやレコーダーに録画したものを見るのなら、途中で何度でも中座することが可能ですから、どうしても映画館よりは自宅で見る機会の方が多くなります。

 ミレーヌ・ドモンジョがテレビドラマに

 おっとまた脱線してしまった!いかんいかん。女優の話をしていたんでしたね。先日テレビで「レオン」「ニキータ」で世界に認められたリュック・ベッソンが製作総指揮のフランス製ドラマ「ノーリミット3」を見ていました。マルセーユが主な舞台で秘密情報機関「イドラ」のメンバーである「ヴァンサン・リベラッティ」が活躍する物語です。このヴァンサンの母親役で登場してきたのがミレーヌ・ドモンジョでした。最初に画面に登場してきた時はいかにも「老婆」と言った感じだったので、まさかこの女優があのミレーヌ・ドモンジョだとは全く気付きませんでした。後でキャストのクレジットが流れてきてその中に「Mylene Demongeot」という文字が出てきたので「おや?」とびっくりしてあわてて一時停止して確認しました。ミレーヌ・ドモンジョは1938年生まれで、 マルティーヌ・キャロル(1922年、夜毎の美女、浮気なカロリーヌ) フランソワーズ・アルヌール(1930年、禁断の木の実、ヘッドライト) ブリジット・バルドー(1934年、素直な悪女、殿方ご免あそばせ)等の先輩フランス女優に比べてキュートな可愛さで日本でも人気が爆発しました。同世代のパスカル・プチ(1938年、危険な曲がり角)、ジャクリーヌ・ササール(1940年、芽生え、激しい季節)とともに「三人娘」と呼ばれ、特に三人で共演した「お嬢さん、お手やわらかに!」(1959年、ミシェル・ボワロン監督)では当時人気絶頂だったアラン・ドロンをめぐって恋のさや当てを演じました。ドモンジョは第2の「ベベ」(ブリジット・バルドーの愛称)と呼ばれ「悲しみよこんにちは」「女は一回勝負する」など話題作に出演しましたが、大成したとは言えなかったようです。いつの間にかスクリーンから遠ざかっていましたが、2004年に映画「あるいは裏切りという名の犬」(未見)に久しぶりに出演してセザール賞(フランスの映画賞でアメリカのアカデミー賞にあたる)助演賞候補になったということです。この三人娘の中ではジャクリーヌ・ササールが私は一番好きでしたが、三人の中ではということで特に好きな女優という訳ではありません。


 お気に入り女優

 私が今一番好きな女優はジェニファー・ジェイソン・リーです。「WEB11」の前身「小田高11期通信」の第6号に寄稿した「私のウンチク~アメリカテレビドラマと映画のこぼれ話~」でも触れていますが、彼女は「コンバット」でサンダース軍曹を演じたヴィク・モローの次女です。1962年生まれで現在53歳。彼女が2歳の時に両親が離婚、高校を中退して演技を学び80年に「他人の眼」で映画デビュー。「ブルックリン最終出口」と「マイアミ・ブルース」での演技でニューヨークとボストンの批評家協会賞で助演女優賞を受賞。以後1作ごとに変身して柔軟な演技力を見せ、売れっ子監督から引く手あまたの女優となりました。身長は160cmでアメリカ女優にしてはひときわ小柄ですが、作品ごとに見事に変身して見せます。私が見た彼女の出演作を製作年と監督名と共に記します。

 「初体験リッジモンド・ハイ」1982年、エイミー・ヘッカリング
 「グレート・ウォリアーズ 欲望の剣」1985年、ポール・バーホーベン
 「ヒッチャー」1985年、ロバート・ハーモン
 「地獄のシスター」1987年、ビル・コンドン
 「ハート・オブ・ミッドナイト」1989年、マシュー・チャップマン
 「ブルックリン最終出口」1989年、ウリ・エデル
 「マイアミ・ブルース」1990年、ジョージ・アーミテージ
 「バック・ドラフト」1991年、ロン・ハワード
 「ルームメイト」1992年、バルベ・シュローデル
 「ミセス・パーカー ジャズエイジの華」1994年、アラン・ルドルフ
 「未来は今」1994年、ジョエル・コーエン
 「ジョージア」1995年、ウール・グロスバード
 「シークレット 嵐の夜に」1997年、ジョセリン・ムーアハウス
 「イグジステンズ」1999年、デビッド・クローネンバーグ
 「ジャケット」2005年、ジョン・メイブリー

合計15本です。どの作品も好きですが敢えてベスト3を選ぶならば順不同で「ブルックリン最終出口」「ミセス・パーカー ジャズエイジの華」「ジョージア」でしょうか。
「ブルックリン最終出口」(Last Exit To Brooklyn)は出版されるや否や強烈な主題とリアルな描写で文壇、法曹界、読者を賛否両論の渦に巻き込んだヒューバート・セルビーJr.の大ベストセラーを映画化したもので、ドジャーズがまだこの街にあった1952年のブルックリンが舞台となっています。工場がストライキで閉ざされて職を失った労働者たちが街にあふれ、セックス・バイオレンス・恋が交差する85番街に繰り広げられる人間模様を鮮やかに切り取っています。リーはこの映画で色仕掛けで男を誘い、仲間に暴行させて金を巻き上げる娼婦のトララを演じています。
「ミセス・パーカー ジャズエイジの華」(Mrs. Parker and The Vicious Circle)は1920年代のニューヨークで文化人のヒロインとして有名だった女流作家ドロシー・パーカーの人生を実話に基づいて映画化したものです。マンハッタン44丁目のアルゴキンホテルで男たちの注目を集めていたパーカー。最初の結婚に失敗した後プレイボーイの劇作家との恋も、彼女の妊娠を機に破れてしまいます。そんな情緒不安定の彼女を救ってくれた作家ベンチリートも結局は結ばれることはありませんでした。リーはそんなパーカーを見事に演じています。
「ジョージア」(Georgia)はジョージアとセイディという二人姉妹の物語です。姉のジョージアは美しく澄んだ歌声でカントリー歌手として成功しますが、妹のセイディは姉のような才能に恵まれず、安酒場のステージでどぎつい化粧とパンクファッションで感情を吐き出すように歌い続けます。幼いころから音楽という同じ夢を見ていた姉妹は、いつしか全く異なる人生を歩んでいました。アルコールやドラッグで身をすり減らしながら歌うセイディをリーが演じています。

  以上敢えてベスト3をあげてみましたが、ピーター・フォンダの娘ブリジット・フォンダと共演した「ルームメイト」はサイコ・サスペンスの傑作ですが、この映画でのリーの演技も絶賛されました。恋人と別れアパートの同居人を探していたアリソン(フォンダ)は応募してきたヘディ(リー)という内気そうでどこか野暮ったい女性を気にいり共同生活を始めます。二人の間には友情が芽生え、ヘディは洗練されたアリソンの髪型から服装まで真似をするようになりますが、アリソンが別れた恋人とよりを戻し彼が再びアパートに出入りするようになると、ヘディの態度に変化が訪れます。アリソンの恋人に接近したり、生理的な部分にまで迫る生々しい嫉妬がリアルで、心理的な恐怖感に圧倒されます。狂気に憑かれたように変貌していくヘディを演じたリーの怪演は見応え充分です。この映画でアリソンを演じたブリジット・フォンダ(1964年生まれ)はピーター・フォンダ(ヘンリー・フォンダの息子)の娘でリーとは二世女優対決ということになります。スレンダーでとても美しく、恐怖におびえる表情が印象に残ります。リーに話を戻しますと、「未来は今」ではトム・ハンクス演じる主人公の恋人で新聞記者のエイミーを演じ、キャサリン・ヘップバーンも顔負けのコメディエンヌぶりを見せてくれます。
このほかに未見のものでは

 「ねじれた家族」1991年、マイケル・ポートマン
 「ショート・カッツ」1993年、ロバート・アルトマン
 「カンザス・シティ」1995年、ロバート・アルトマン
 「黙秘」1995年、テイラー・ハックフォード
 「冷たい一瞬<とき>を抱いて」1996年、アンジェリカ・ヒューストン
 「キング・イズ・アライヴ」2000年、クリスチャン・レヴリング
 「アニバーサリーの夜に」2001年、ジェニファー・ジェイソン・リー
 「ロード・トゥ・パーディション」2002年、サム・メンデス
 「イン・ザ・カット」2003年、ジェーン・カンピオン
 「おわらない物語/アビバの場合」2004年、トッド・ソロンズ
 「マシニスト」2004年、ブラッド・アンダーソン
 「スキャンダルの天才」2005年、メアリー・マクガキアン
 「マーゴット・ウェディング」2007年、ノア・バームバック 
 「脳内ニューヨーク」2008年、チャーリー・カウフマン
 「ベン・スティーラー 人生は最悪だ」2010年、ノア・バームバック
 「キル・ユア・ダーリン」2013年、ジョン・クロキダス

などなど見たい作品が目白押しです。彼女の父ヴィク・モローは撮影中の事故で悲惨な死を遂げましたが、生存中は監督業にも関心を持ち自身が出演して多大な人気を得ていたテレビドラマ「コンバット」でも何作か監督をしています。その血筋を引いたのか彼女もいくつかの映画に製作や原案、脚本、監督などで関わっています。「ベン・スティーラー 人生は最悪だ」では原案・製作、「アニバーサリーの夜に」では製作、脚本、監督、「ジョージア」では製作でそれぞれ関わっています。残念ながら2000年以降の作品は日本未公開のものが多く、なかなか見る機会がありませんが配給会社にもっと多くの作品を公開してくれるようにお願いしてジェニファー・ジェイソン・リーへのオマージュとさせていただきます。

 好きな女優は・・・

 ジェニファー・ジェイソン・リーへの思い入れが強すぎて彼女についての記述が多くなり、他の女優について述べる紙数が尽きました。私の好きな女優のアンジー・ディキンソン、レベッカ・デモーネイ、シャロン・ストーン、グレース・ケリー、ハリー・ベリー、ミラ・ジョボビッチ、オルガ・キュリレンコなどについてはまた別の機会に触れたいと思います。



この稿をまとめるに当って下記の書籍を参考にさせて頂きました。

「外国映画女優名鑑 歴史に残る銀幕スター300人」共同通信社発行
「シネマクラブ 外国映画+日本映画」ぴあ発行
「映画遺産 外国映画男優・女優100」キネマ旬報社発行


ラウラ・アントネッリ
エレオノラ・ロッシ

ジーナ・ロロブリジーダ

モニカ・ヴィッティ

 ロッサナ・ボデスタ 

ソフィア・ローレン
C.カルディナー
ジェニファー・オニール
ミレーヌ・ドモンショ
マルティーヌ・キャロル
F .アルヌール
ブリジッド・バルドー
パスカル・プチ
ジャクリーヌ・ササール

ジェニファー. J .リー

 ブリジット・フォンタ
アンジー・ディキンソン
レベッカ・デモーネイ
シャロン・ストーン
グレース・ケリー
ハリー・ベリ
  ミラ・ジョボビッチ
オルガ・キュリレンコ

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