果物の女王 Home



2014.01.24   4組 吉田明夫

 仕事の関係で時々上郡大井町の相和や山北町の川西へ行くことがあります。それらは市街地から暫し離れた山腹の山里で、秋になるとその辺の山道沿いに橙色の撓わな実を着けたいろいろな柿の木が山肌を背に「ほら、綺麗だろう」と誇らしげに語りかけて来ます。
 私はそれらを見て「あなたは甘柿さんか、それとも渋柿君か」とよく尋ねます。勿論、彼らは返事をしてくれません。でもいいや、渋くても甘くてもいずれ熟せば美味しくなるのだから。中にはそばかすの付いたのも居れば、可哀想に鳥にちょっかいを出されたのも居ます。
 私が道端に車を駐めて彼らを眺めていると直ぐ側の民家のおばさんがニッコリと挨拶をしてくれました。私もなるべく深くお辞儀をして答えました。お辞儀をしなくても元々腰は充分に曲がっていますが。おばさんは何かの野菜を持って家へ入っていきました。
 去年最後に行ったのは秋も終わり冬に入ろうという時期でしたので、彼らいや彼女らはもう円熟しきってドロドロと甘みを増していたでしょう。彼女らをいただけるんだったら、血糖値が跳ね上がっても気にしません。収穫もされず朽ちていくまで秋に彩りを添えてくれた彼女らが天使のように思えてなりません。

 なんて格好いいこと言ったて私の彼女らに対する食欲は並大抵のものではありません。もしかしたら彼女達はあのおばさんのものかも知れません。ならば今年は思い切っておばさんの家を訪ね、少しばかりおねだりをしてみようと思います。いやどうせ獲らないで鈴なりにしておくんだったら、多めにねだってもいいでしょうね。ちょっと手土産でも持って行けば。

 日本の果物にはリンゴ、梨、葡萄、イチジク、苺、桃など色々ありますが、中でも柿は私にとって格別に美味しいのです。りんごは少し酸味があってサクサクというか咽頭癌の放射線治療で味覚を失った私のくちには合わないのです。甘みを感じにくくなっているからでもあります。梨はジャリジャリするし、葡萄は酸味だけが強烈に感じ、イチジク、苺、桃はまあまあでありますが、柿の食感には敵いません。咽頭癌の治療前には柿を皮ごと食べたものであります。

 つまり彼女らは私にとって果物の女王様なのです。冷蔵庫に入れて置くとなかなか柔らかくはなりませんので長い間保存出来ます。今でも30個くらいは入っています。食べたいときは冷蔵庫から出して数日は日向に置いておきます。彼女の身体を片手で掴むように触り、ちょっとふくよかな感触を得たらご馳走になります。おいしいです。

 女王様、ごちそうさん。

 


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