随  筆


宗教映画と「エル・シド」
2015.03.01
6組 榮 憲道

  昭和25年(1950)に勃発した朝鮮戦争からヴェトナム戦争、イスラエルとアラブ諸国との数次に亘る戦争やキューバ危機を経て、最近では、ウクライナの東部情勢、チベット族やウイグル族に対する中国の弾圧問題、銃社会に揺れるアメリカ合衆国、民族闘争の激化するアフリカ諸国、そして直近では”イスラム国”なるテロ集団の勃興など各地の世界情勢を鑑み、敗戦後70年、戦死者が一人も出ない平和日本に生れてきてよかったと痛感している。 
 特に何よりも《宗教》に関して寛容な日本に、そして日本人であることに感謝している。私は小田原市栢山の善榮寺という曹洞宗の寺に生まれ育っているが、我が家には神棚があり、裏庭にはお稲荷さんが祭られていた。そして、クリスマスの時にはケーキを囲んで団欒の時を過ごしたことに、何の違和感を覚えていなかった。
 『旧約聖書』によれば、創造主(神)は、最初の人間としてアダムとイブのカップル誕生させた。従って人類は全て兄弟であり、宗教や人種などでいがみ合ううことはない。いわんや戦争などもっての他であると思うが、人類の歴史は戦争と闘争に彩られた”血”の歴史となっている。

 映画の世界でもそれがいえそうである。日本には宗教(神仏)とかを主題もしくは偶像化する映画は、信者向けのものを除くとほとんど創られていない。当然であろう。徳川家康、上杉謙信を悩ませた一向一揆、織田信長に対抗した浄土宗・石山本願寺の攻防。そして、圧制に絶えかね島原城に立てこもったキリスト教徒の抵抗ぐらいであろう。日本全体を揺るがすような宗教上の大乱はなかったし、外国からの侵略は元寇だけである。これまでヒットしたのは、三船敏郎が日本武尊を演じた東宝の「日本誕生」と長谷川一夫が親鸞を演じた大映の「親鸞と蒙古大襲来」ぐらいであろうか。
 一方外国では、「天地創造」から始まって「十戒」や「サムソンとデリラ」、「キング・ダビデ」といった神意とか神罰の映画から、「聖衣」、「クレオパトラ」などローマ帝国と他民族との衝突やキリスト教排斥、中世ともなれば「キャメロット」「獅子王リチャード」、「ロビンフッド」など十字軍のエレサレム遠征とイスラム教徒との対立。更に近代では「栄光への脱出」「遠い夜明け」、「ガンジー」など民族独立の映画、現代でも「エクソシスト」、「オーメン」、「セブン」など、悪霊や悪魔祓などの宗教がからんだ映画は枚挙の暇もない。
 ここに.チャールトン・ヘストンという俳優がいる。前記の「十戒」で古代イスラエルの指導者モーゼや、キリストの誕生を背景にエレサレムの豪族の息子ジュダ・ベン・ハーの波乱に満ちた生涯を演じて1959年度のアカデミー賞を総なめにした「ベン・ハー」、スーダンの回教徒との戦いで英雄となった英国のゴードン将軍を描いた「カーツーム」に主人公となっている。

 史劇以外にも、西部劇では「大いなる西部」や「ダンディ少佐」など、バチカン王国のシスティーナ礼拝堂に壮麗な天井画を描いた「華麗なる激情」のミケランジェロ、”猿の惑星”に漂着して驚愕の未来を知る「猿の惑星」の宇宙飛行士を熱演している。残念ながら、全米ライフル協会会長を長年務めた生粋の硬派のようで、人間的評価は別として、その風貌と貫禄は史劇役者として他の追随を許さない存在であろう。
 その史劇の中で、私が一番好きなのは「エル・シド」(1961)である。演出はアンソニー・マン。ジェームズ・スチュアートと組んで、下赤さん一押し?の「ウインチェススター銃73」などの西部劇で独特の色合いを出した監督であり、ゴールデン・グローブ優秀作品賞を獲得している。
 11世紀後半のスペインが舞台。アフリカから攻め寄せるイスラム教徒のムーア人とイベリア半島のキリスト教徒との300年余にわたる戦いの最終段階、いわゆるレコンキスタ(国土回復運動)の本格化した時代に登場したエル・シドことロドリーゴ・ディアスの一代記である。婚約者シメン(ソフィア・ローレン)との愛憎も交え、1部・2部190分の上映時間も短く感じられた。確か”聖者”も出てくるが、宗教色をかなり薄めた作品に仕上がっている。
 エル・シドは、シメンとのわだかまりを解いて晴れて結ばれるが、海岸の城塞都市バレンシアの大会戦において不運にも毒矢を胸に受ける。しかし「死してなお救国の英雄にならん」、白馬にまたがってスペイン軍の先頭に立ち、「神話の世界に旅立つ」ラストシーンは、鳥肌が立ち、鮮烈な感動と余韻が残っている・・・。

 「Xメン」、「バイオ・ハザード」、「ロード・オブ・ザ・リング」、「トランスフォーマー」、「スタートレック」、「アバター」など、最近のVFX、FSXをフルに使った娯楽大作も決して嫌いではないが、余りに現実味がなくてロマンが感じられない。ある程度史実に基づいた歴史スペクタル映画が大好きで、「エル・シド」に並ぶ私のベストスリーは、好漢カーク・ダグラスが主演した「スパルタカス」と「ヴァイキング」である。ここには、私の贔屓のジーン・シモンズとジャネット・リーがヒロインとなっていることもあるが・・・。
 この2月、「十戒」のリメーク版である「エクソダス/神と王」(監督は「グラデュエーター」のリドリー・スコット)が公開された。

「この映画は劇場で観たらきっと面白いと思うわ」という妻の言もあり、久し振りに近くのシネコン出かけ、最新の3D映像に現代的要素も加味したスペクタクル劇の醍醐味を堪能した。やはり、スケールの大きい映画は映画館で観るのが一番である。                                                           (完)


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