随  筆


ホヤもよし、スミヤキもよし、手羽先もよし
2015.06.13
6組 榮 憲道

 先日、下赤さんが『思い出す旨かったもの』として《仙台のホヤ》のことを書かれた。これまでにも《多度津のはまち》とか《厚岸の鮭》とか《土佐の沖うるめ》とか、営業の仕事で各地を巡った折や旅行の折などの【食べ物紀行】を何篇も寄せている。

 また、”魚食グルメ”の吉田明夫さんは《馬面ハギ》やら《カゴカキ鯛》やら《ネイラカマス》やらの変名・珍名の魚について記し、自ら調理して舌鼓を打っているようだ。更には、佐々木さんは『魚名魚字』なるタイトルで、”釣り吉”で”魚博士”にふさわしい解説やエッセイを展開している。その佐々木さんとは、小田高11期テニス同好会で昨春から一緒にプレーを楽しんでいるが、その後の打上げ会でも、お互い〈酒大好き人間〉なので同席になることが多い。

 昨年の打上げ会となった、杉山さんご贔屓の鴨宮の「べたなぎ」では”すみやき”なる魚が話題となった。佐々木さん、杉山さんらはよく知っていたが、今道さんと私には初めて聞く魚だった。どうやら”すみやき”は昔から相模湾でよく獲れる魚であるが、骨が多いため余り流通されず、小田原漁港近くだけで処分されてきたため、少し内陸部の今道さんや私の村には届かなかったようである。店の若大将に確認したところ、ちょうど仕入れてあるというので、早速注文して食してみた。やや大振りな魚体で、名前のとおり黒い鱗で覆われている。格別旨いというわけでも拙いというわけでもない、ごく普通の味の魚であった・・・。(詳細は昨年の佐々木さんのエッセイ参照)

 この5月の打上げ会は、辻幹事ご贔屓の小田原駅前の「つぼ八」である。今道さんが体調すぐれず欠席となり、辻・杉山・佐々木さんと私の4人であったが、やはりテニスの話と食べ物の話で盛り上がった。酒席での食物談義は、一番無難で楽しい時間といえる。
 私が名古屋で住んでいることから、来年あたりに名古屋方面で旨いもの観光も兼ねたテニス合宿などという”戯れ話”が持ち上がり、一応私が検討することになってしまったが、名古屋の名物がまた酒の肴になった。

 名古屋名物で一般的によく知られているのは、きしめん、ういろう(小田原が発祥の地となっているが)、名古屋コーチン、そして八丁味噌をベースにしたみそかつや味噌煮込みうどんであり、最近では、鰻重の変り種である”ひつまぶし”が全国的に知られるようになった。うなぎは静岡の浜名湖が有名であるが、実際は西三河を中心に愛知県が全国一の生産地である。他国の人には余り知られていない名物としては、天むす(海老天を具にはさんだおにぎりで、当日私が名古屋駅で買い込んで”つぼ八”で味見してもらった)、2mにもなる世界一細長い大根を使った守口漬けや知多の海老せんべい、また五平餅が愛知が発祥の地というのはご存知でしょうか。さらに東海3県(愛知・三重・岐阜)にまで枠を広げると、単品では日本一の売り上げを誇るお”伊勢さん”の《赤福餅》(複合商品では〈生〉も含めた京都の「八つ橋」が1位)、桑名のはまぐり、志摩のあわび・伊勢えび、的矢牡蠣もあるし、飛騨の赤かぶら漬や野沢菜、美濃地方には清流長良川の鮎、大垣の蜂屋柿などがある。そしてまた、なかなか手が出ないが、松坂牛・飛騨牛などの最高級品もある。その上で、”酒の肴”として私が推すご当地グルメは、若鶏の手羽先の唐揚げと、直径10センチ前後もある大アサリの浜焼きがある。

 その手羽先である。私は、鶏肉が余り好きではない。それこそ戦後の食糧難の時代、肉といえば、卵を産めなくなった老鶏を兄が裏の竹やぶで処置したものであり、今でもその状況が思い起こされることもあって、《やきとり》のほかは余り食さないが、この《手羽先の唐揚げ》だけは例外である。

 40代前半、私は大阪から名古屋に転勤になった。名古屋駅近くの居酒屋で毎週のように飲み会があり、その定番になったのがこの手羽先。こってりした一般的な手羽先とは全く違い、一口サイズの小ぶりな手羽先(名古屋では手羽中と呼ぶ)を、店秘伝の甘辛のタレをベースにからっと揚げ、胡麻や胡椒のスパイスを利かせた独特な風味で酒のアテはこれのみで十分、大皿に盛った手羽先が次つぎと空となった。今では名古屋駅の土産物店でも、名古屋コーチンで知られた有名店のものが売られているが、これを《名古屋の手羽先》として認めるわけにはいかない。名古屋では「風来坊」と「世界の山ちゃん」なる居酒屋チェ-ンのものが有名で、私は「風来坊」のものが一番気に入っている。次なる小田原行の際、「風来坊」から取り寄せて披露したいとも思うが、揚げ立てが一番だし独特の匂いが少々キツい。新幹線の中で、周りのお客さんに迷惑をかけそうなので一寸逡巡している・・・。
 
話は下赤さんの《ホヤ》に戻るが、私の女房は仙台に生まれ、小学校高学年まで仙台に育った。両親の墓も仙台、その義母の生家が泉区にあり昨秋も訪れている。妻の従兄弟が、私の希望を汲んで、車で東日本大震災の傷跡も癒えない石巻から牡鹿半島を一周して女川を巡ってくれたが、その折、車中で焼きホヤ、家に戻ってからは、漁場で直接買い込んだ獲りたての牡蠣を堪能した。ホヤは昔一度食したことがある。潮の香りが強すぎて「もうたくさん」の心境だったが、こりこりした皮と肉汁が程よくて美味であった。新鮮な獲りたてのものを食さなければ、好き嫌いは言わない方がよさそうである。

 下赤さんはまた仙台の《どんこ》なる魚のことも語っている。これも小田原の「すみやき」と同じく、”地元”でなければ知られていない魚であろう。今度仙台に行ったときは、下赤さん推奨の松島海岸の《布海苔の味噌汁》を味わってみたいと考えている。            
                                      
(完)
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