随  筆


青春万歳 ! ! 初恋・・・・万歳 !
2015.07.06
6組 榮 憲道

 青春映画といえば本来明るいものである。代表的な作品は、何回も映画化された石坂洋次郎原作の「青い山脈」や大林宣彦監督の一連の尾道ものであり、そして極め付きは加山雄三の若大将シリーズである。外国ではアメリカの「ローマの休日」、「卒業」や「愛と青春の旅立ち」とか、ヨーロッパでは「お嬢さんおてやわらかに」、「遥かなる国から来た男」が(私的には)挙げられる。
 にもかかわらず、映画的にはむしろ”死”が主題となる悲劇的ケースが多い。「ロミオとジュリエット」「ハムレット」「太陽がいっぱい」「冒険者たち」「ウエストサイド物語」、ジェームス・デイーンの「理由なき反抗」・・・更にはジェームス・キャメロン監督の「タイタニック」も壮大な純愛物語といえよう。

 日本映画では、「絶唱」「愛と死をみつめて」「野菊のごとき君なりき」・・・大ヒットした映画は.”死”がからんでおり、気弱な私は、前述の日本映画では、小林旭・浅丘るり子コンビの「絶唱」しか観ていない。 
 一方、その中間に位置していると言えるのが”初恋”をモチーフとした甘酸っぱい映画である。初恋は《カルピスの味》といわれるが、私にとって、正にそんな味の忘れがたい3本の映画がある。
 日本の「故郷は緑なりき」(1961)は、多分皆さんは知らないと思う。『雪の記憶』という富島健夫の小説を元に楠田芳子が脚本を担当、村山新治監督がメガホンを取った作品で、水木襄・佐久間良子コンビによる当時の東映には珍しい青春映画である。新潟県長岡を舞台にしており、通学の列車で出会い、恋をする。しかし東京の大学に進学した若者と地元に残った娘との間は次第に疎遠となって、結局結ばれることがなかったという以外、今となっては筋も判然としない。その年のキネマ旬報では30位程度の評価であるが、何故か二人を結んだ、御殿場線のような蒸気機関車の懐かしい爆音が耳に残る。そして何よりもセーラー服姿の初々しい佐久間良子の可憐な容姿にぞっこんとなった。

 最近たまたま手に取った、川本三郎・筒井清忠両氏の対談からなる『日本映画隠れた名作』(中公新書)のなかでこの映画が話題になっている。川本氏いわく「高校時代見た懐かしい映画でもう一度見たくてたまらなかったが、その機会がなく、神保町シアターでの鉄道映画特集で自分がプログラミングした。4回上映したが全て満員、終わったあとには拍手が起こった」そうである。筒井氏がそれに呼応して「男女共学なんてとんでもないという戦後すぐの話で、しかも地方でのこと。愛し合う二人が皆にいじめられて、実にリアリテイがありました。日本で作られた純愛映画で最高級のものだと思う」と語っている。
 そして、この作品は倉本聡脚本、舟木一夫、和泉雅子のコンビで4年後、「北国の街」(未見)として再映画化されていたというから、何か知る人ぞ知る魅力があったのではなかろうか。。
 そして、米映画「草原の輝き」(同じく1961)である。ウイリアム・インジの原作をエリア・カザンが監督した。大恐慌直前のアメリカ中部の田舎町が舞台である。ハイスクール時代深く愛し合った二人であったが、潔癖な彼女に男の方が別のクラスメイトと一夜を共にしてしまう。親との確執もあって、女は精神を病み入院、男はエール大学に進むが父が株の大暴落で自死、1年で中退し、故郷での牧場の生活に入る。何年か後、快癒した彼女が彼の家を訪ねると、彼は貧しいながらも幸せな結婚生活を送っていた・・・。実は彼女も1ヶ月後、病院で知り合った若者と結婚する予定であり、そんな互いの境遇を確かめ合ってさりげなく別れるという物語である。このDVDは長久手図書館に置かれていたが、”悲しい結末”と思い込んでいたので、ずっと借りないでいた。昨夏思い切って見直したが、意外や意外、大変後味のよい作品であることが判った。
 「草原の輝き花の栄光、再びそれは還らずとも嘆くことなかれ。その奥に秘めたる力を見出すべし」、この映画の骨格をなすワーズワースの詩が大変印象的であり、この作品はウオレン・ビューテイのデビュー作、相手役のナタリー・ウッドはアカデミー及びゴールデングローブ主演女優賞にノミネートされたし、インジはアアカデミー脚本賞を受賞している。

 エリア・カザンはハリウッドの”赤狩り”の協力者として悪名を残しているが、「エデンの東」「波止場」「革命児サパタ」(未見)など監督としての力量は大いに評価されていいであろう。 
 三番目の作品、「シェルブールの雨傘」(1964)はフランス映画の最高傑作の一つとされ、カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得している。カラフルな雨傘の舗道から始まり、会話の全てを歌で表すというジャック・ドゥミ(監督)とミシェル・ルグラン(作曲)の、大胆で洒落た試みが見事に結実した詩情豊かな映画で、戦争に召集された若者からの便りが途絶えた恋人(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、彼の子を宿したまま「それでもいい」という富裕な宝石商の男と結婚する。その何年か後、彼女ら一家は、たまたまガソリンスタンドで働く彼とばったりと出会う。彼はそれなりに幸せな家庭を築いているが、黙って見詰め合う二人の瞳と瞳、白一色の雪が舞う再会と別れが、「人生誰も思い通りにはいかない」、切なくてしかし暖かい気持ちにさせられた。

 「男ってほんとうに未練っぽいのね」。女房に笑われ、娘には軽蔑されているが、今もって”初恋の彼女”の夢をよく見る。私の彼女は小学校の同級生、その”現在”もクラスメートから多少聞いているし、当然居場所も知っている。せめて自分の死に際にそっと電話して、「幸せな人生だったかい?」、一声だけでも訊いてみたいと思っているが、所詮男のしがない妄想の類いであろう。

            
                                      
(完)

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