随  筆


グレゴリー・ペックとロバート・レッドフォード
2015.09.02
6組 榮 憲道

 大好きな女優ばかりではなく、少しは男優のことも記す必要もあろう。
 外国男優では、米国ではランドルフ・スコット、ジョン・ウエイン、ゲーリー・クーパーの西部劇三人衆にトム・ハンクスやブラッド・ピット、ヨーロッパではジャン・ギャバン、マルチェロ・マストロヤンニ、ジャン・レノ、そして日本では、三船敏郎、萬屋錦之介、渡辺謙、佐藤浩市等、大好きな男優もいっぱいいるが、今回は次の米国俳優二人を取り上げてみたい。
 その二人とは、グレゴリー・ペック(1916~2003)とロバート・レッドフォード(1936~)である。典型的な正統派二枚目俳優であり、これまで公開された映画は共に50本程度、演ずる役柄も、なんとなく似ている。

 先ずグレゴリー・ペックである。名匠クラレンス・ブラウン監督の「子鹿物語」(47)でクロード・ジャーマン・ジュニア少年の父親役として好演しているし、ハーマン・メルヴィル原作、鬼才ジョン・ヒューストン監督の「白鯨」(56)では、”白鯨”への復讐に燃えるエイハブ船長に扮し鬼気迫る演技をみせた。ピューリッツァ賞受賞のハーバー・リーの原作で今でも毎年100万部も売り上げているといわれる「アラバマ物語」(63)(未見)では、人種偏見の激しいアメリカ南部での黒人の婦女暴行事件にあたった弁護士として、また敢然として家族を守る父親を演じてアカデミー主演男優賞を獲得している。
 更には、名匠ウイリアム・ワイラー監督の下でも、オードリー・ヘップバーンのデビュー作「ローマの休日」(53)で新聞記者を好演、同監督に気に入られたのか、「大いなる西部」(58)では東部出のインテリ青年役で、たまたま愛し合って結婚した相手がテキサスの大牧場主・テレル家の跡継ぎ娘。対峙するヘネシー牧場との水利権を巡る争いに巻き込まれるが、牧童頭チャールトン・ヘストンとの大草原での殴り合いは「静かなる男」と「スポイラース」と共に、映画史の語り草となっている。小田高の仲間、山本哲照さんと佐々木洋さんがそのロケ現場で再現したツーショット・・??を思い浮かべてください。

 そのペックには、ヘンリー・キング監督「白昼の決闘」(46)がある。題名を聞くと、”決闘映画”の典型と思われるかもしれないが、「風と共に去りぬ」(39)で当てた製作者R・セルズニックが《2匹目のどじょう》をと巨匠キング・ヴィダーを監督に据え、妖艶ジェニファー・ジョーンズを主役として製作した映画で、西部を舞台にした壮大なメロドラマといえる。学者肌でおとなしい兄(ジョゼフ・コットン)に対して、奔放でアウトローの弟を演じた。
 その他アンチ・ヒーローの末路を描いた「拳銃王」(1950)や、インデアンとの1対1の死闘を描いた「レッドムーン」(1968)も、異色作といっていい西部劇で、他の西部劇役者とは色合いの違う独自の存在感を表現している。
 最近、DVDでエリア・カザン監督の「紳士協定」(47)を観た。ユダヤ人を排斥して差別しようとする”紳士協定”の存在と、その問題点を抉り出そうとしたルポライターの苦闘を描いたヒューマンドラマで、アカデミー作品賞を獲得している。彼の面目躍如の映画であり、何より私は彼の声が好きだ・・・。

 R・レッドフォードに初めて出会ったのはジョージ・ロイ・ヒル監督の「明日に向かって撃て」(69)である。ジェームズ兄弟に並ぶ有名な銀行強盗ブッチ(ポール・ニューマン)とサンダンス(レッドフォード)を、軽快なタッチで描いたアメリカン・ニュー・シネマの傑作である。また、シドニー・ボラック監督の「大いなる勇者」(72)では伝説の勇者ジェレマイア。ロッキーの山奥に暮し、友好的な原住民の族長の娘と結婚するも、凶暴な別の部族に両親を殺された少年と暮らして数々の試練に遭遇する。そこには”西部劇”の派手さは全くなく、共に西部開拓期の終焉を印して異彩を放つ作品である。

 その後、彼は、「明日に向かって撃て」のコンビで、詐欺師フッカーの痛快きわまるどんでん返し映画「スティング」(73)でアカデミー作品賞を獲得した。また、アフリカを舞台に、冒険家デニスの役を演じた「愛と哀しみの果て」(85)では、アカデミー作品賞・監督賞など7部門を独占している。一方、ペックとは全く違う一面がある。それは俳優だけでなく監督としても素晴らしい実績を挙げていることである。
 その処女作「普通の人々」(1980)で、アカデミー監督賞を受賞している。が、むしろ、監督として主演俳優として評価したいのは「モンタナの風に吹かれて」(98)である。愛馬を操り損ね、友達を失い、自身も片足を失った少女の癒しと再生に賭ける”ホース・ウイスパー”なる役柄を好演、そしてその母親との切ない愛を謳い上げて心に沁みる作品であった。さらには「リバー・ランズ・スルー・イット」(1992)。これもモンタナの山河の自然を背景に、厳格な父親と繊細で真面目な兄と陽気で激情的な弟、三人の家族の絆をフライフィッシングを通して描き、彼が”監督”としての名声を確立した作品といえよう。

 二人とも派手なアクション映画とか、スペクタクル映画にはほとんど無縁だし、敢えていえば向きそうもない。誠実で、理想主義的で、真面目な・・・クールな”男”の魅力を力まずに演じてきた。
 そして、2003年に89歳で亡くなったペックに対し、レッドフォードは21世紀に入っても旺盛に活躍してきた。昨年には、出演者が全編彼一人という「オール・イズ・ロスト/最後の手紙」を製作した。さすがにこれは退屈至極の作品で”77歳、老いたり”を実感したが、6月の《COP10》の環境会議では堂々の演説を披露しており、やはり尊敬すべき人物であることを確信した。

 トム・クルーズ以降、魅力ある若い男優にはほとんど巡り合えないが、これは年老いた自分自身に原因があるのかも知れない

                                           (完)


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