随   筆


ラグビーW杯、C・イーストウッド、そしてスポーツ映画・・・
2015.09.25
6組 榮 憲道

 

この秋、ラグビー発祥の地イングランドで開幕したラグビーワールドカップの初戦(9月19日)で、日本は世界ランク3位の強豪で優勝候補の筆頭とも目されている南アフリカに、追いつ追われつの大激闘の末、残り時間1分、29対32の劣勢のときもらった反則に、引き分けとなるキックを選択せず迷わずスクラムを選んだ。そのラストワンプレイの7分間の攻防は正に”ジャパン・ウエイ”、絶妙のパスワークで乾坤一擲の劇的トライ、奇跡的勝利を呼び込んだ。

 日曜日の午後のTVでライブではなかったが、「サッカーよりはラグビーが好き」という女房と、珍しく揃って最初から最後まで熱中したが、息詰まる攻防の連続で本当に鳥肌が立った。翌朝、我慢出来なくなり、今年初めてスポーツ紙を近くのコンビニで買ったが、1面の大見出しには「歴史的”大事件”」と報じていた。番狂わせは続けては起きないようで、次のスコットランド戦(23日)では、後半失速して大敗してしまったが、まだあと2戦、まだ決勝トーナメント進出の夢はかなり残っている。
 昨年の日本スポーツ界での一番の快挙が錦織圭の全米オープンテニス準優勝とすれば、多分この試合こそ今年最高のビッグマッチであり、ラグビー界だけでなく日本スポーツ界の快挙と考える。その立役者は、もちろんエデイ・ジョーンズヘッドコーチの卓越した指導とメンバー全員の力であるが、その筆頭格はキック7本を決め、同点トライも奪って24得点を挙げた五郎丸歩選手であろう。全国大学選手権で彼が活躍していた頃は、早明戦の激突が続きよくテレビ観戦していたが、両校がやや衰退してからの正月の楽しみは、完全TV中継の箱根駅伝に大きく移ってしまっていた。
 たまたまというか、2ヶ月ほど前に「インビクタス」(INVICTUS)という映画をビデオ店から借りて観ていた。1995年のラグビーW杯で初優勝した南ア共和国の史実を描いた感動的なスポーツ映画である。クリント・イーストウッド監督作品で、題名はラテン語で《負けざる者たち》の意味という。アパルトヘイト政策により、世界のスポーツ界から締め出されていた南アフリカが、27年間の過酷な獄中生活から釈放され、大統領となったネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)の下でラグビーW杯開催国となった。彼は、人種を超越した、人間としての尊厳を尊重した考え方で、「ラグビーは白人のスポーツ」として議会が圧倒的多数で決定しかけた代表チームの解散を、むしろ新しい南ア共和国の希望の象徴として是認・存続させ、それに応えたフランソワ・ピナール主将(マット・ディモン)とメンバーが力を結集して快進撃、史上最強といわれたニュージーランドとの決勝戦で、それこそ歴史的な勝利で優勝を勝ち取った。このとき日本はそのNZと戦い、17対145という歴史的惨敗を喫している。

 この映画のなかで、「ラグビーは紳士が戦う暴れ者のスポーツである」と語らせているが、2,3点先行すれば勝負が決まってしまうサッカーや、最近のプロ野球(特にセ・リーグ)よりも、たとえ10点差でも残り数分もあれば予断の許さないラグビーの醍醐味をたっぷり堪能させてくれる。そして、エンドロールに流れるホルストの「惑星」に基づく《World in Union 95》の曲、日本では平原綾香の《Jupitar》で知られているが、マンデラ大統領のメッセージが深く込められた素晴らしい歌詞である。

あらゆる人々が手を携えて 一つの思い一つの心に
全ての信条全ての肌の色が 垣根を越えて一つに集まる
自らの可能性を探りながら それぞれの力を発揮してゆく
勝っても負けても引き分けても みんなの心に勝者が宿る
世界の国々が互いに結びついて 一つの揺るぎない世界に
運命をつかもうと努力するから 新しい時代が拓けていく


 同じような映画がある。ブライアン・ヘルグランド監督の「42」(世界を変えた男)(2013)という野球映画で、これも最近DVDを観ている。
 アメリカ大リーグ初の黒人選手ジャッキー・ロビンソン(キャドウィック・ボーズマン)の偏見に敢然と向き合った不屈の人生と、彼を抜擢し暖かく見守ったブルックリン・ドジャースのオーナー(ハリソン・フォード)、そして妻との揺るぎない夫婦愛が胸を打つ佳作である。1997年、彼の背番号”42”は全てのチームの永久欠番となり、彼がデビューした4月15日には、全球団の選手が背番号42で試合に出場するほど敬意を表されている。
 また、C・イーストウッドが製作・監督・主演の「ミリオンダラーベイビー」(2009)では、アカデミー作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞(ヒラリー・スワンク)、助演男優賞(M・フリーマン)と主要部門を独占した。これまでボクシング映画は沢山作られているが、一押しの作品である。さらに、やはり彼の「人生の特等席」(2012)。野球映画とは呼び難いかも知れないが、目を患いながら、新人選手を発掘する大リーグの老スカウトマンを演じ、父娘(エイミー・アダムス)の愛情と葛藤を描いて心温まる一篇である。
 残念ながら、これまで素敵な”テニス映画”はお目にかかっていないが、この他のスポーツ映画で私の記憶に強く残っているのは、ヒュー・ハドスン監督の「炎のランナー」(英・1981)である。ケンブリッジ大学に入学したユダヤ青年とイギリス青年が、学内競走でトップを競い合い、それが縁で、人種の垣根を超えた深い友情に結ばれる。更には互いに切磋琢磨してパリ・オリンピック(1924)の400米走で優勝を争うまでになる実話である。アカデミー作品賞ほか7部門で受賞した、爽やかな”走る”青春映画の傑作であり、音楽賞を取ったヴァンゲラスの大変印象深いテーマ曲は、多分皆さんも聴けば「ああ、この曲か」、すぐ分かるかと思う・・・。

 次回のラグビーW杯は2019年に東京で開催される。新国立競技場建設騒動でイメージダウンした感じであるが、今回の”事件”を起爆剤に大いに盛り上がりそうである。

 そのためにも、「ハリーポッター」の作者J・K・ローリング女史が、この日本・南ア戦を観戦して「こんな映画は作れない」と語っているが、日本の映画界が総力挙げて製作して、それこそアカデミー賞を獲るような、世界に通用する素晴らしい”スポーツ映画”が出来ることを期待したい。                                        
                                          
2015.9.25 記

 《追記・及び訂正》
 

 今年1月より、毎月初頭に「映画エッセイ」を投稿し、吉田兄の厚意で「WEB11」に掲載させてもらっております。今回は、現在進行中のW杯での日本ラグビーチームの快挙に、”臨時版”を書き連ね、ついつい送りたくなりました。こういうものは内容よりスピード、余り推敲せずに投稿しましたが、その辺はご寛容のほどお願いいたします。次のサモア戦が《ベスト8》への”鍵”と思われますので、あまりのぬか喜びは禁物と考えております。
 そして、”訂正”ですが、前回の映画エッセイ、「グレゴリー・ペックとロバート・レッドフォード」のなかで、〈大いなる西部〉の項で、《山本哲照さんと佐々木洋さん》のアクションシーンは《藤井テルさんと佐々木洋さん》の間違いでした。私の記憶違いをお詫び、訂正いたします。

 なお、愈々最終章を迎えたセ・リーグのペナントレース、レベルの低い争いですが、どこに転ぶでしょうか。我が家では、佐々木さん同様、”巨人命”の女房と娘、アンチ巨人で総スカンの私ととの”暗闘”が続いております。

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