西部劇は、1930年代から南北戦争(1861~1865)を挟んで、文明化が急速に進んだ1990年代までの、わずか数十年の間のアメリカ中西部を切り取った映画を指している。それは、まだバッファローと先住民族が住む未開拓の土地に、夢と希望を求めた人々が殺到し、法も秩序もなく銃が支配する正に疾風と怒涛の時代のことである。
この間、テキサスの自由と独立を掲げてサンタ・アナのメキシコ軍と対峙して玉砕したアラモ砦の義勇軍の攻防(1846)、リトル・ビッグ・ホーンに先住民族・インディアンの大群に包囲され壮烈な最期を遂げたカスター将軍(エロール・フリン)と第七騎兵隊(1876)、ビリー・ザ・キッドやパッド・ギャレットらが活躍するニュー・メキシコのリンカーン郡の争闘(1880前後)等、エポック・メイキングな出来事がいくつか起り何回か映画化されているが、何といっても”ガンマンの決闘”は西部劇の白眉といえよう。「シェーン」「必殺の一弾」「真昼の決闘」「ワーロック」「ヴェラ・クルス」「ガンヒルの決闘」などと枚挙の暇がない。
そのなかで、《OK牧場の決闘》は西部開拓史上最も名高い決闘で、日本には戦後間もなく公開された「荒野の決闘」で多く知られるようになった。一般的に”OK牧場”として知られているが、正しくは”コラル(馬囲い)”の狭い場所でのガンファイトであったようである。
1881年10月29日のこの《決闘》は1対1の決闘ではなく、ワイアット・アープ兄弟&ドク・ホリデイ3人(その後の映画では4人)にアイク・クラントン一家4人が相対し、至近距離で壮烈に撃ち合ったとされる。「荒野の決闘」ではクラントン一家は全滅、アープ側もドクは斃れ兄弟二人だけが生き残ったことになっているが、真実はどうも違うようである。
しかし、アープ役のヘンリー・フォンダの渋い個性と、野性味溢れるビクター・マチュアのドク・ホリデイの好対照な組み合わせ、その間にクレメンタイン(キャシー・ダウンズ)という可憐な女性を配して、ジョン・フォード監督が詩情豊かに描き、西部劇の最高傑作とされている。そのラスト、教師として町に残るという彼女に、アープが「クレメンタイン、いい名だ」と語りかけて去るシーンは一服の名画とさえいえよう。
しかし、その10年前、「フロンティア・マーシャル」(多分日本未公開)でほぼ同じ筋立てで、ランドルフ・スコットがアープを演じており、正にリメーク版であることを最近知った。原作者が同じではさもありなんか・・・。
そして、「荒野の決闘」の10年後に、バート・ランカスター、カーク・ダグラスというタフガイコンビで、フランキー・レインの印象的な歌に乗せて、ジョン・スタージェス監督の「OK牧場の決闘」(1957)が華々しく公開され、更にその10年後に同監督のもと、その後日譚として「墓石と決闘」(1967)が作られている。「墓石と決闘」は、ジェームス・ガーナーがアープ、ジェイソン・ロバーツがドク・ホリデイ。何とか生き残ったアイク・クラントンとのさらなる憎悪と対決をハードに描き、私の記憶では、死を迎えるドク・ホリデイを病院に見舞うアープとの二人の再会と別れの場面でエピローグとなる。アープはその後、奥さんとゴールド・ラッシュに沸くアラスカへ向かったとされている。
それから約30年後(1993)、より史実に近づけ、新解釈で映画化されたのが「トゥムストーン」であり、タイトルは決闘の行われた町そのものの名を冠している。この映画はアープ兄弟たちとアイク・クラントンが所属していた”カウボーイズ”なる無頼漢グループとの集団対決として描かれており、その中心人物としてリンゴー・キッドを配している。彼は「駅馬車」では、ジョン・ウエインが扮して悪党3人と決闘して倒すヒーローであり、時が変われば人も変わる典型となったアウトローである。
その監督はジョルジ・バン・コスマトス、アープ役はカート・ラッセル、ドク役にヴァル・キルマーと地味だが、脇役としてチャールトン・ヘストンやハリー・ケリー・Jrらが支え、正統派西部劇の雰囲気が全編にみなぎる130分の大作であり、一見の価値がある西部劇である・・・。
巨匠ジョン・フォードの西部劇を引き継いだのはジョン・スタージェスとなるが、日本の黒澤明監督がジョン・フォード監督を師と仰いでいたことは有名で、「七人の侍」「影武者」「隠し砦の3悪人」などで日本映画では珍しく”馬”を見事に使いこなしており、黒澤時代劇の男性的でダイナミックスな演出は、”西部劇”が原点と考えるのは間違っていないであろう。
そしてそのためにこそ逆に、黒澤作品を基として、「七人の侍」はユル・ブリンナーやスティーブ・マックイーンらの「荒野の七人」(これもジョン・スタージェス監督)に、「用心棒」はマカロニ・ウエスタンのクリント・イーストウッド主演「荒野の用心棒」に、「隠し砦の三悪人」はジョージ・ルーカス監督のSF大作「スターウォーズ」に受け継がれた。
実は、1991年にケヴィン・コスナーが「ワイアット・アープ」なる西部劇を作っている。彼は、南北戦争ではからずも英雄となった北軍中尉が、スー族と共生して生きる姿を重厚に仕上げた「ダンス・ウィズ・ウルヴス」(1990)に監督・主演し、アカデミー作品賞、ゴールデングローブ賞の2冠に輝く傑作をものにした。”2匹目のドジョウ”を狙ったようであるが、私は、観たような観なかったような、なんか世間的にも余り評価されない映画となった。
こうしていろいろな角度から映画を眺め、その繋がりを知ると映画の魅力が一層増すのではないか。人生残り少なくなった今、西部劇に限らずいろいろな映画を一作でも多く観て記憶にとどめ、冥土の土産にしたいと思っている。 |