随    筆



 呆けて候
2016.12.28
6組 榮 憲道

 私は”映画大好き人間”である。いや女房に言わせれば”映画気狂い”の部類に入るのかもしれない。この12月初旬はそんな私の”映画レンタル店”の登録更新の時期であるが、更新後2週間は《半額サービス》があるのでいつも集中的に借りることにしている。といっても、時間的にも眼科的にも1日1本が限界である。取りあえず4本のDVDを選んでカウンターへ・・・「やや、これはミスった!」、肝心の会員カードを忘れてきてしまっていた。
 翌日に出直して、その4本を探し出して改めてカウンターへ・・・。すると、「このDVDはもう前に借りられたことありますよ」。何と4本のうち2本が既にこの2,3年前に借りたことのある作品であると指摘された。
 あわてて別の2本を選んで事なきを得、家でそのDVDを順次見始めた。・・・。すると、「これはしまった!」。『硫黄島からの手紙』、これは2006年の公開時に映画館ですでに観たものではないか。自分としてはその硫黄島2部作である『父親たちの星条旗』(2006)を借りたつもりだったのをすっかり間違えていた次第であった。折角なので見始めたが、その映画を彩る多くのエピソードはすっかり忘れてしまっており、わずか10年前に観た映画の筈なのにこの始末、いかに記憶力が減退しているかを痛感せざるを得なかった。私にはもう惚けが始まっているのかもしれない。

それにしてもこの映画、渡辺謙とアイドルグループ《嵐》の二宮和也が好演、かの硫黄島の激闘を日本側から描いた正に”日本の映画”であり、改めてC・イーストウッドの力量・度量・良心の素晴らしさを思い知った。彼は今86歳、その年齢でなおこの今年『ハドソン川の奇跡』という傑作を製作・監督している。かのチャップリンに匹敵する多才な尊敬すべき映画人であろう。
 そして3回に分けて借り出したのは、その『父親たちの星条旗』や、中学生の時に小田原の富貴座で観たリチャード・ウィドマーク主演の西部劇『襲われた幌馬車』(1956)、レオナルド・デュカプリオが悪役を熱演して評判となった西部劇『ジャンゴ/繋がれざる者』(2013)、トム・クルーズ主演で、1944年のヒトラー暗殺未遂事件を描いた『ワルキューレ』(2009)など12本のDVDを鑑賞した。この歳になると、心温まる映画が一番落ち着くものなので、西田敏行が謎の指揮者を演じる『マエストロ!』(2015)や老人と猫のロードムービーの名作『ハリーとトント』(1974)。特にそれぞれの最愛の人を失い心に傷を負った男女が再生していく姿を笑いや涙を交えて描いた感動作『世界でひとつのプレイバック』(2012)やNHK大河ドラマ『真田丸』でブレイクした三谷幸喜原作・監督の『清州会議』(2012)など、大満足である。

 そしてこの12月中旬、私の家から車で5分、長久手古戦場公園の前に大型SC《イオンモール》がオープンした。日本では初めてという全席座席が動くD-BOXなる設備を備えたシネコンもあるというので、やや落ち着いた22日の朝に出かけ、今話題の飛騨を舞台にしたアニメ『君の名は。』(やや筋が混みあっていて今一つの印象だったが)を楽しんだ。
 それはとにかく付近の道路はいつも渋滞、特に土日は大混雑で、すぐ近くにある私のテニスコートに行くのに早めに家を出かけざるを得なくなってしまった。車だけでなく自転車や歩行者の数もかなり多くなっている。
 その12月中旬、我が家に届いた小田原高校・樫友会報『八幡山』にある《5回生同期会通信》(昭和28年卒業生)の中に、我々世代、75~76歳でも当てはまる”川柳メッセージ”が揃っていたので、勝手ながらピックアップしてみた。
・恋に溺れるのが18歳、風呂に溺れるのが81歳
・まだ何も知らないのが18歳、もう何も覚えていないのが81歳
・道路を暴走するのが18歳、迷走するのが81歳

 確かに最近の新聞・テレビで、高速道路の逆走とかアクセルとブレーキの掛け損ない、高齢者の自動車事故に関するニュースが多い。更には、老々介護やその上の悲劇、死後の死後の墓地問題など決して他人事ではない。こんな呆け状態で頭痛持ちの私なので、女房はじめ家族が心配して、やれ脳外科へ行けとか、酒はほどほどに控えてくれとか、一段とその要請が強くなって居心地が悪くなってきている。来年は覚悟して、評判の高い長久手脳外科病院でMRI検査をしてもらい、妻の通う形成外科医院で、テニスで痛めた左肩や若い頃バドミントンで痛めた右膝の治療とかを行い、1日でも長くテニスやジョギングが出来る体を維持せねばなるまい・・・・。
 時代は今大きな曲がり角に立っているようだ。世界的にはトランプ大統領誕生でどうなるか分からない米国やEU離脱した英国などの保護主義の台頭、トップ交代の仏・伊、東南アジアの国境紛争、中東やアフリカの民族対立、東欧の避難民問題・・・70年続いた《平和日本》でも、アベノミクスの行き詰まり、中国・韓国等隣国との軋轢、憲法改正・原発の行方、天皇陛下の生前退位・継承問題、東京オリンピック施設や豊洲移転など問題山積のまま新年を迎える。
 そして、私個人的にはそろそろ人生の《終活》の準備でもせねばならないのに、これらの結末を見届けなければとても死にきれない状態である――?。これは「もっと長生きしろ!」との神仏の思し召しと善意に解して、もう少し頑張ろうかな。
 どうか皆さんも、お身体お大事によいお正月をお迎えください。
・老いの春なおいくばくの夢灯し妻と相踏む木漏れ陽の丘  (憲)

2016年師走好日 記

 


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