悟正さんの随想


  音楽CD制作
2015.04.13
3組 山本悟正  

 長年の付き合いのタップダンサー、作詞・作曲・演奏家である女性シンガーが毎年発表会(コンサート)を行っていて私が舞台写真を撮っている。
 話は数年前になるが、今まで、何枚かのCDを作っていたが、今回は本格的な良い物を作りたいから協力してほしいと云うので「いいですよ」と軽く受けたら「CD作成の全般を任せるのでお願いできますか」ということになってしまった。
 彼女は知的障害の子どもたちと健常な子どもたちが一緒にタップダンスや歌を練習し発表会(コンサート)の舞台で成果を披露するNPO法人を主宰していてダンス・音楽ワークショップを実施、地域の小学校でもこの主旨の指導をしている。
 この年の発表コンサートはCCレモンホール(渋谷公会堂)という大きなホールでの公演とあって、観客動員のPRや協賛団体への協力要請などにNPOのメンバーが一年間力を入れていて舞台でダンスや歌の伴奏を生演奏する曲をCD化し頒布したいということだった。
 CDジャケットの写真を撮ってあげよう程度に思っていたら、写真なしでイラスト画のジャケットにしたいと女性グラフィックデザイナーを紹介され、デザイナーと打ち合わせをして「CD作成の総括管理をしてほしい」と言われた。全く経験のないことで戸惑ってしまったが、引き下がれる状況ではなく興味も湧いてきた。 ミュージシャン、録音スタジオなどはその世界のプロが集まるので彼女の守備範囲だったが、彼女のブレーンに音楽CDを作るプロはいなかった。彼女は既に大半の曲は出来ていて残りの作曲にかかっていた。
 私は先ず録音した曲をCDにプレスし、ジャッケットを印刷してくれる会社を探すことから始めた。インターネットで検索したいくつかの会社を選び問い合わせたが、全く経験の無い素人なのでメールや電話で専門用語を訊かれても解らないことが多くあり、話が遠くてやりきれず直接会社の事務所へ足を運び担当者とじっくり話をして一社を選んだ。
 CDプレスは台湾や中国ですれば安く出来ることが判ったが、海賊版を作られる危険性があるので国内・特に東京近辺でやりたかったので都内で印刷、プレス工場は横浜に決めた。全ての曲が自作なので「著作権」が気になり、「音楽著作権協会」へ入会を勧めた。
 今回の曲の多くが「児童文芸賞」など多くの賞を取っている女性童話作家・詩人の詩に曲を付けたものだったので作家本人と出版社の了解を取っておく必要が有った。童話本の大手出版社の担当は「先生は神出鬼没ですから連絡を取るのが難しいのですよ」というので出版社に出向き「手紙」を託したら、間もなく連絡が取れ主旨を理解してくれて、コンサート会場で本人の童話本を販売することを条件に快諾してくれた。

 コンサートは子どもたちにも大勢来て欲しいので障害者を含む小学生の「絵」を募集しコンサート会場で展示することとなり、障害者画家の「富弘美術館」にも協力をお願いし応援メッセージをいただいた。東京都、渋谷区、三鷹市などの協賛はNPOのメンバーが進めていて渋谷区の共催を得ることが出来た。
 いよいよ、録音の段階になり、私は知らなかったが、スケジュールの難しいミュージシャンを一同に集めて録音しなくとも別々に演奏して合体させるのが当節の常識であることを知った。忙しいミュージシャンとスタジオのスケジュール調整には全体の効率を図り経費を最小にしたいので大変だった。

 先ずは、ピアノ・キーボードの主メ ロディーを録音しそれをヘッドホンで聴きながらリズム楽器、バイオリンなど弦楽器を順に重ね、最後に子どもた ちを一同に集め「歌」を乗せていく段取りだ。最初、録音スタジオの担当者は私が<ド素人>であるので本気で相 手にしなかったが、写真家でCDジャケット写真や舞台写真を撮っていることが判り、段々こちらの話を聞いてくれるようになった。5~6回の録音でCDマスターが出来上がった。CDは500枚作る予定であったが、増刷も考慮し経費増になるがジャケット印刷の元版、マスターディスクの保管も依頼した。感心したのはミュージシャンが譜面を見て直ぐに演奏してしまう技術の高さだった。
 一人のミュージシャンは「音大で勉強をした者は編曲が大抵出来るし、初見で演奏出来るのは基本で、そうでなければ仕事にならない」と言っていた。

 コンサートのスタッフは元・大きな劇団の 演出家、元・ディズニーランドの照明家、紅白歌合戦の担当もしたことのある音響さん、演劇の美術の現役というベテラン達が協力していた。朗読・演技指導には私も付き合いのある文学座のベテラン俳優が当たり、活躍しているパントマイマーやフラメンコダンサーの特別出演も決まった。 公演間近になりそれらのスタッフと現場を下見しミーティングをしたが、私がコンサートや演劇の舞台写真の経験があることで意見や考えを尊重してくれたのはありがたかった。

 CDはコンサート会場でも販売したが招待客やチケットの高いS席のお客さんにはプレゼントした。今、振り返ると何も解らず手を付けてしまったが、多くのクリエーターや音楽関係者と出会い貴重な面白い経験をした。演出家は今スイス・ジュネーブに住み「国連関係」の仕事で世界中を飛び回っている。女性グラフィックデザイナーはパリと東
京を行き来している。若い素敵な女性ピアニストなど共にFace bookやメールなどで近況を交換し交流が続いている。

 CD作成の情報はインターネットで調べ、 関係者との情報交換もメールやパソコンで資料交換でき日程を何とかクリアー出来、新しい技術には改めて感謝しているが、人との関わりはやはり直接会って謙虚に話しをし、ミーティングを繰り返しコミュニケートすることが大切であり、結果として楽しい仕事になることを再認識した。


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