恩人夫妻のお嬢さんはアメリカの有名大学の教授(日本人)の奥さんで、毎月帰国して母親である奥様の身の周りに起る諸事をテキパキと片付け、整理をして、帰って行くことを繰り返している。恩人の死後数年もすると一人暮らしの老婦人には広すぎるマンションは掃除や片付 けも楽ではなくなってきた。 お嬢さん夫婦の勧めかも知れないが六本木の広いマンションを引き払い、すぐ隣街の超高層マンションの小さな部屋へ移り住むことになった。
季節の花の切手が貼ってあるのも奥様らしい。 90歳中の奥様はいわゆる<老人施設>が嫌いで今でも病院と自宅を往き来し気丈にしている。来客が重ならないような日に顔を見せに行こうと電話をすると「暖かくなったらいらっしゃい」、「涼しくなったらいらっしゃい」といつ都合がいいか言ってくれないので行きそびれてしまう。 老いて来ると誰も行動半径に合った生活環境に移していくことを考えなければならいことを教えてくれている「師」でもある。