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1月17日の記憶

2020.1.18

4組   今道周雄

 あの日からもう25年が経ってしまったのだな、とTVに写る鎮魂の行事を見ながらつくづくとおもう。神戸でも震災を知らない人が半数近くになるということに愕然とする。

 あの日、私はサニーベールの子会社で会議をしていた。その席へ、日本で大地震が起きたという知らせが入った。すわやとTVを点けると、真っ暗な闇の中に炎らしきものが点々と見えるばかりで、何事が起っているのかさっぱりわからない。

 サニーベールへ来たのは、ノーザン・テレコム社を訪問し技術調査をするためだった。当時のノーザン・テレコムは電話会社からデジタル通信企業へと転換を図っていて、日本電電に海外企業として初めて契約することが出来た評価の高い企業だった。三菱電機は電話交換機の事業に参入する意図もあり、1994年には自社へノーテルの交換機を導入することが決まっていた。だが、購入した交換機をサニーベールの三菱電機工場でテストし始めると、多くのバグが発見され、また、性能が仕様に書かれているほどよくはないことが分かってきた。私たちはこの結果をフォローするために訪米したのである。

 当時デジタル交換機では、カリフォルニア州クパチーノに本社があるStrataCom(1986年起業)が高い評価を得ていて、私はStrataComのATM交換機を導入すべきと主張していた。だが日本電電との取引がある三菱電機としてはノーテル推進派の力が強かったのだ。

 この2社はいずれも長くは続かなかった。StrataCom社は1996年にシスコ・システムズに買収され、一方のノーテル社は2009年に破産申請を行って倒産した。1993年から始まったインターネット関連の技術開発は、凄まじい勢いで新興企業と旧来起業との争いを巻き起こし、ベンチャー事業が急速に成長する一方、大企業がそれらを買収するという、目まぐるしい変化の時代であった。ノーテルやストラタコムのような機器メーカばかりではなく、通信会社にも大きな変動が起こっていた。

 三菱電機情報ネットワーク(MIND)は、世界に広がる子会社をつなぐための海外ネットワークをKDDIに依存していたが、自前のネットワークを作るために米国のWilTelと契約し、1995年から1.5Mbpsのフレームリレー回線を開設した。しかし、すぐにWIlTelがMCI に買収され、私がドリーム・トレイン・インターネット(DTI)でサービスを開始した時にはMCIの全米ネットワークに接続することができたのである。MCIは1963年にマイクロウエーブ通信会社として出発し、1995年ころには長距離通信会社としてATTと競うほどの企業となっていた。だが1997年にはワールドコムに買収されMCIワールドコムとなった。だがこのころから通信業界のバブルはしぼみはじめていた。

 MCI ワールドコムは2002年に粉飾決算で倒産し、通信業界のスターであったCEOのベルナルド エバースは2019年12月に釈放されるまで25年間を牢獄で過ごしたのである。ベルナルドは米国で10指に入る最悪の経営者といわれるが、その経歴は苦労の連続であったようだ。カナダ人行商人の5人兄弟の2番目の子供としてカナダ・エドモントンで生まれ、カリフォルニア州やニューメキシコ州を転々とし、カナダのエドモントンで高校を卒業した。アルバータの大学に短期間いたがその後ミシシッピー大学に入った。その間は牛乳配達やナイトクラブの用心棒などをしていた。1967年にミシシッピー大学の体育科、1992年にはミシシッピー大学の法科を卒業している。ビジネスの手始めは、モーテルの経営者であったが、1883年にLDDSという通信会社に投資したのがきっかけで、通信事業に関わり始めた。LDDSでは60に及ぶ企業を次々に買収し、成長してきた。その挙句がMCIの買収と倒産という悲劇である。

 私は1995年から2000年までインターネットビジネスに携わったが、誠に波乱にとんだ5年間であった。神戸淡路大震災の記憶には、いつもインターネットの立上げとそのための苦労の思い出が付きまとう。特に1941年8月生まれのエバースは、印象が強く残っている。

私と1歳違いであるから、残された人生の長さはあまり変わらない。牢獄で費やした25年間は、彼にとってどのようなものだったか。彼は牢獄に入ったため、2度目の妻に離婚されいまは一人だ。これからの人生をどのように生きてゆくのだろうか。

 私の過ごした25年間は、それなりに実りあるものだった。だがこれからの人生をどのように生きるかは大きな課題である。

 1月17日の思い出話からとんだ回り道をしてしまった、調査団には神戸在住のメンバがいて、直ちに帰国したが大阪から神戸に入るのに大変な苦労をしたと後日談で聞いた。


                                      以上



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