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民主主義の衰え

2016.07.17

4組   今道周雄

 この度の参議院選挙で失望した点が二つある。

1)投票率の低さ:投票した人の数は54.8 百万人、棄権した人の数は49.4百万人

2)議論の焦点外し:安倍自民党は改憲を目指すと言いながら、選挙では経済ばかりを表に出し、改憲  について触れようとしなかった。一方の 野党はアベノミクスの危うさを指摘しなかった。

 なぜ49百万人もの人が自らの国の将来に関わろうとせず、素知らぬ顔で選挙を避けたのか。

 福沢諭吉は「文明論之概略」のなかで次のように述べている。「国の独立は目的なり。今の我が文明はこの目的に達するの術なり。」「およそ世の事物は試みざれば進むものなし。ーーー諸国の政治も今正にその試験中なれば、遽にその良否を定むべからざるは固より論を俟たず。ただその文明に益すること多きものを良政府と名け、これに益すること少なきか、またはそれを害するものを名けて悪政府というのみ。故に政治の良否を評するには、その国民の達し得たる文明の度を測量して、これを決定すべし。世にいまだ至文至明の国あらざれば、至善至美の政治もいまだあるべからず。ーーーーーーーーーーー

 世の学者の説に、人民の衆議は好むべき事なれど、無知の人民は気の毒ながら専制の下に立たざるを得ず、故に議事を始めるには時を待つべしというものあり。けだしその時とは、人民に智を生ずるの時なるべしといえども、人の知恵は夏の草木のごとく一夜の間に成長するものにあらず。たといあるいは成長することがあるも、習慣に由りて用るにあらざれば功をなし難し。習慣の力は頗る強盛なものにて、これを養えばその働きに際限あるべからず。ついには私有保護の人心をも制圧するにたれり。ーーー

 百姓の身となりて一方より考えれば入り組みたる事にあらず。ただ己が作り出したる米を分ちて無縁の人を養うことなれば、与えると与えざるの二議あるのみ。また、士族の身となりて考えれば、家禄は先祖伝来の家産なり、先祖に手柄ありて貰いしものなれば、自ずから日雇賃に異なり、いま我が輩に兵役あらざればとて、何ぞ先祖の賞典をやめて家産を失うの理あらんや。士族を無用なりとしてその家に属したる禄をうばうことならば、富商豪農の無為にして食らうものもその産を奪うべからず。何ぞ1人我が輩の産を削りて無縁の百姓町人を肥やさんやと。

 かく説を述ればまた一理なきにあらざれども、士族の内にもこの議論あるを聞かず。百姓も士族も現に己が私有を得ると失うとの界にいて、恬として他国の話を聞くが如く、天然の禍福を待つが如く、ただ黙座してことの成り行きを観るのみ。実に怪しむべきにあらずや。ーーーーーーーーーーーーー

 ただ日本人が無議の習慣に制せられて、安んずべからざるの穏便に安んじ、開くべきの口を開かず、発すべきの議論を発せざるを驚くのみ。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 140年前に書かれた書物が現在の日本の問題点を正に指摘していることに驚く。日本の文明は進歩しなかったのか、あるいは途中で退化したのか。

  いま我々が私有財産と思い込んでいる預貯金はほとんどが国の借金に化け、国債という名前の紙きれになっている。この事実にだれも疑問を挟まず、アベノミクスの名の下に借金拡大を続けている。最悪は日本銀行に国債を買わせていることだ。2016年7月末の日銀公債保有残高は320兆円もある。一方民間銀行は94.7兆円の国債を保有していて、保有高を減らす方向だ。保険・年金基金は244兆円を保有している。もし、国債の信用が落ちれば我々年金生活者は年金と預金のダブルパンチを食うことになる。

 政府はなぜ平気で「国民1人あたり664万円の借金」などと書けるのか。日本が「無議の習慣」に制せられ、「安んずべからざるの穏便に安んじ、開くべきの口を開かず、発すべきの議論を発せざるを驚くのみ。」である。消費税を先延ばしにして景気を維持するというが、それで本当にこの借金を返せるのか?

 民主主義とは民が主体となって考え行動することをいう。「無議の習慣」にとらわれた日本にはもはや民主主義が存在しないに等しい。



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