私は、毎日記者やN.Sさんと心情を同じくするものだ。その一方で、ペリュリュウ島からの生中継は、NHKの意欲というより、政府のある種の思い入れを感じる。慰霊は確かに陛下の強い思いであろう。しかし、政府の意思がなければ、そうそう簡単に実現はしない。
ちょっと横道にそれるが、ペリュリュウ島で両陛下を案内したのは厚生労働省の村木厚子事務次官である。彼女はかつて「障害者郵便制度悪用事件」で大阪地検特捜部に逮捕起訴された。全くの冤罪だった。検事の証拠改ざん、関係者の偽証により獄中に長期間つながれた。
私は読売新聞の社会部記者時代に司法を担当し、裁判官、検察官、弁護士らを取材してきた。検察取材は東京地検特捜部(私が担当中は、まだ大阪と名古屋の地検に特捜部はなかった)が中心だった。何人かの検事と仲良くなったが、一方で、「権力の怖さ」を痛感した。たとえ自らが潔白でも、一度にらまれたら、その復権の難しさを肌で感じていた。
村木さんは、その権力に翻弄された。弁護士の力とA新聞(新聞協会賞受賞)の調査報道によって無罪(当然のこと)を勝ち取った。村木さんが厚労省事務次官の肩書で政府を代表して両陛下と一緒にいる風景を見て、複雑な思いにかられ、改めて、私は「権力」という言葉を心中で反芻した。
韓国で開催される国際水シンポに、毎回(3年に一回)参加していた皇太子殿下の渡韓が、公務の日程上の都合を理由に見送られた。皇室の動きに、政府のタカ派の意見が大きく影響しています。両陛下の慰問と裏腹の関係にあります。
沖縄のしらゆりの仲間の会も解散した。高齢化で記憶の語り部も数えるほどになった。沖縄をはじめとして、戦(いくさ)への突っかい棒がどんどん減っている。合わせて若い議員たちの勉強不足も手伝って、N.Sさんがおっしゃるように、何かがじわじわと忍び込んで来ている感じだ----。
パラオ・ペリュリュウ島での両陛下の慰問のテレビ生中継を見ての私の感想です。
斎藤 良夫