ちょっと発表



2016.01.21
7組 斎藤良夫
 2本のクジラ映画

 映画は捕鯨論争を巡るドキュメンタリーです。私は以前から注目していましたが、その1本「ビハインド・ザ・コーヴ」(八木景子監督)が今月30日に東京・新宿の映画館で公開上映されるということで、このメールを送らせてもらうことにしました。もう1本の「ふたつのクジラの物語」(仮題)(佐々木芽生監督)は近く完成し夏に公開の予定といわれています。佐々木監督はニューヨーク在住で制作最中に一部環境団体からバッシングを受けているという記事が「週刊NY生活」紙(無料。日系小売店などに置かれている=2015年6月13日付け)に載っています。
 
 昨年12月1日に日本の鯨類捕獲調査船団が南極海に向けて出港しました。今は氷海で調査を始めているかもしれません。そして1月18日、反捕鯨団体が妨害船をオーストラリアから出港させたというニュースが報道されました。反捕鯨団体は出港前にニュージーランド海軍に「フリーゲート艦を派遣して日本船団に立ち向かうよう」呼びかけたとも報道されています。とても正気の沙汰とは思えません----。
2本の映画は、追い込みイルカ漁を行っている和歌山県太地町が舞台ですが、世界に広がるテーマです。私の地元を中心にした「国府津情報」の勝手なメール通信の番外です。記事が少々、いや長々となってしまいましたがご寛恕下さい----。


 


 クジラの映画は一口に言えば「捕鯨論争を巡る映画」です。1本は『Behind“THECOVE”ビハインド・ザ・コ―ヴ』(八木景子監督2016年1月30日より東京「新宿K’scinema」にて公開)。もう1本は『ふたつのクジラの物語』(仮題)(佐々木芽生監督近く完成夏に公開予定)です。
2本の映画は、和歌山県太地町のイルカ漁を隠し撮り手法で批判的に描き、2010年にアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した『ザ・コーヴ』への疑問が、ともに制作の動機になったそうです。「海の色を変えたり全てが真実ではない」----等々の声が当初からあり、八木監督は今回の映画を<『ザ・コーヴ』への反証映画>とし、また、佐々木監督は「のどかな港町の漁師を悪者に仕立てた一方的な伝え方に違和感、嫌悪感を抱き」制作を始めたと話しています。
八木景子(やぎ・けいこ)監督は1967年東京生まれ。米国のメジャー映画会社の日本支社に勤務後に会社を設立し世界各地の秘境などを旅して外側から日本を見つめ直しています。佐々木芽生(ささき・めぐみ)監督は1962年札幌生まれ。東北新社勤務後に渡米しニューヨーク在住27年。数々のドキュメンタリー映画を手がけています。
「捕鯨に関していろいろな主張があるのは当然---」のこととして、2本の映画は捕鯨論争における賛成・反対両派の人々へのインタビューが基軸になっていますが、2人の監督はこうも訴えています。「なぜ今まで『ザ・コーヴ』への反論映画がなかったのかということが重要だ」、「ニューヨークでは日本から有効な反論は聞こえてこなかった。唯一反論していたのは太地町長だけだったように思う」と。2人の女性監督のこんな思いがそれぞれの映画に込められています----。
(『ビハインド・ザ・コーヴ』や「八木景子」「佐々木芽生」名のインターネット検索で
映画のダイジェスト版や二人の監督のインタビュー記事等がご覧できます)

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捕鯨船団が南極海向け出港「日本政府のご英断と関係者のご協力によりまして、新計画の下で、鯨類捕獲調査船団が昨年12月1日に南極海の調査海域に向けて出港することが出来ましたことは、小生の昨年の何よりの喜びとするところでした。調査船団が大きな調査の成果を上げて、無事に帰港することを祈ります」(東京在住=O氏) ----。調査船団はもう氷海で活動しているのだろうか。そんなことを思いながらO氏の賀状を読み返したあとにiPadを開いたら、「予約の『鯨分限』が届いています」という小田原市立図書館からのメールが入っていた。1月20日。偶然だがクジラの話が重なった。
小説『鯨分限』(伊東潤著・光文社)は、幕末〜明治期、紀州太地鯨方最後の宰領、太地覚吾の一代記。抹香鯨(マッコウ)や長須鯨(ナガス)など巨大な鯨漁の凄まじさ、天災や事故で苦境に立たされた組織トップの苦悩などが描かれている。
小田原市立図書館の蔵書の貸し出しはインターネットで手続きが出来、希望の図書施設まで届けてくれる。私は自宅から徒歩5分の国府津学習館図書室をお願いしている。
「南極海における新たな鯨類調査計画」 O氏は鯨類研究一筋のクジラ博士。著書も多く教材にも使われている。日本鯨類研究所の名誉顧問と太地くじらの博物館の名誉館長を務めている。博士が言う政府の
新計画は、「新南極海鯨類科学調査計画」と呼ばれるもので、国際司法裁判所(ICJ)に提訴された「南極における捕鯨訴訟」(豪州対日本、ニュージーランドも訴訟参加)の判決(2014年3月)で指摘された調査方法などを踏まえて作成された。内容は----。
南極海での調査期間は12年間(2015/16年度~2026/27年度、6年後に中間評価を実施)。捕獲対象鯨種は「クロミンククジラ」で捕獲頭数は333頭。「南極海生態系の構造及び動態の研究」を重ねて、商業捕鯨のための持続可能な捕獲量を算出する手法を目指している。調査実施主体は日本鯨類研究所。使用調査船は母船1隻と複数の採集船・目視船。反捕鯨団体による妨害活動、悪天候等により、調査活動の中断等を余儀なくされた緊急時の対応策も記載されている。
この鯨類調査の新計画には外部からの科学的なコメントを歓迎し、必要に応じて今後も修正することにしている。2015年11月に水産庁と外務省が連名で新計画の概要をプレスリリーフした。水産庁HPの「捕鯨の部屋」で詳細が読める。
南氷洋捕鯨船団の同行取材新計画の下での鯨類捕獲調査船団は昨年12月1日午前、山口県下関市の下関港を出港した。2年ぶりの出港で「下関を母港とする調査捕鯨船2隻と水産庁の監視船も同時に出港した」(「朝日新聞」2015年12月2日付け)。
もう35年以上も前の話だが私は読売新聞社会部時代の1979年冬から1980年春にかけて「南氷洋捕鯨船団」に同行取材し、「南氷洋の40日『第三日新丸船団』同乗記」のタイトルで17回の連載記事を掲載した。取材の時、たまたま作家のC.W.ニコル氏と一緒になり南氷洋上で一夜語りあかしたこともあった。一回だけだった天空を覆うオーロラを見ることも出来た。私はただ見とれているだけだったが、船のクルーは荒れる氷海での操船に必死だった---。
この取材以来、<クジラ捕り>の皆さんとお付き合いをさせていただき、船団の出入港時には顔を見せるようにした。京都と下関で開催された国際捕鯨委員会総会(IWC)も取材し、また、各地のクジラの催事にも足を運ぶようにした。
「龍涎香」 クジラについては「捕鯨」に限らず話題は数知れない。私の体験ではこんなことがあった。趣味の一つの「狛犬探訪」が縁でネパール人の石像彫刻家D氏と友人になり結婚式に参列するまでの仲になった。彼はカトマンズの商工会議所の一員として大阪の財界人との商談のために来日した。ネパール大震災の前の話だ。私は彼を大阪のクジラ料理店に誘った。店内に掲示してあった鯨の写真を見ていきなり「マッコウクジラだ」と言うではないか。聞けば昔、石仏に「龍涎香」(りゅうぜんこう)を塗っていたというのだ。「龍涎香」はマッコウクジラの腸内に発生する結石で香料の一種。驚いた。クジラとネパールの石仏がつながっていたとは---。
クジラの新品種!? 私の住む小田原市国府津西隣りの「小八幡海岸」にザトウクジラが漂着した。2012年1月2日。「箱根駅伝」の日で大勢の人が集まった。調査のあと砂浜に埋められた。最近では、化石学者の話から「愛知県蒲郡市の生命の海科学館に開館当初から展示されているクジラの全身化石が新種ではないか」と話題になっている(「THE PAGE」愛知版。2015年12月29日付け)。研究チームが新種と結論づけた場合、今年の春ごろに正式発表の予定という。
また、「昨年11月ころから八丈島の沖にクジラ(ザトウクジラ)が集結している、もしや「繁殖の海」になるのではないか」とNHKテレビがニュースの中で放送していた(2015年12月24日)。番組には東京海洋大学大学院教授の加藤秀弘氏が登場していた。加藤氏は私の南氷洋捕鯨取材の時に母船に乗っていた。大学に勤務する前の話だ。東京海洋大学(品川キャンパス)の水産資料館に「鯨ギャラリー」があり「セミクジラ」の
全身骨格標本などが展示されている。加藤氏らの尽力によるものだ。私は東京海洋大学での水産関係シンポジウムに時々参加しているが、その都度、鯨ギャラリーを訪れることにしている---。

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『Behind“THECOVE”』クジラの話題が長くなってしまった。映画の話に戻ろう----。『Behind“THECOVE”ビハインド・ザ・コ―ヴ』は昨年8月にカナダで開催された「第39回モントリオール世界映画祭」のドキュメンタリー部門に正式エントリーされた。映画の舞台は、追い込みイルカ漁が行われている和歌山県太地町の捕鯨の現場。カメラを持ち入り江で撮影しているアメリカ人らが「なぜ日本人に強圧的なのか?人種差別なのか?彼らの目的は日本人をみじめにさせること---」なのか。太地町の住民がとても迷惑していることを明確に伝えている。
上映時間帯が深夜にかかったこともあって観客数は数十人程度だったという。しかし、上映後、八木景子監督に次々と質問してくるカナダ人の姿が目立ち、「これまでネガティブなイメージだったが、日本の捕鯨がなぜ続けられてきたのか理解できた」等々の感想が寄せられたという。八木監督と一緒に会場入りしたベテランン通訳は「長年、映画祭では日本の作品を担当してきたが、上映後に出された観客の質問は最も多かった」と話していた(「産経ニュース」2015年9月5日付け)。
『ふたつのクジラの物語』佐々木芽生監督が初めて太地町を訪れたのは2010年6月。『ザ・コーヴ』がアカデミー賞をとって3か月後だった。10月。町にシー・シェパードの幹部が常駐しそのインタビューの最中に漁師がイルカを追い込んで湾に帰ってきて大きな騒動になった。「地元の人たちや警察官が集まり政治結社の街宣車もやってきて、現場はサーカスのようにめまぐるしく変化した。活動家と漁師たちの対立。相手が言っていることは間違いで自分の主張が正しい。目の前でまさに異文化の衝突が繰り広げられている感じ。まさに太地町の現場は世界で起きている捕鯨問題の縮図でした。この町の様子を撮影することで捕鯨問題の本質が見えてくるのではないかと思った」。この時、カメラを20時間近く回しぱなしだったという。
この制作途中の映画が昨年10月に東京で開かれた国際ドキュメンタリー祭「TokyoDocs2015」で最優秀企画賞に選ばれた(「産経ニュース」2015年11月3日付け)。
「クジラって1種類じゃないの?」佐々木芽生監督の映画制作の米国でのパートナーはこの業界トップエディターの50代の女性。当初協力を依頼した時「日本は違法でクジラをとって殺している。この仕事をするのは嫌だ」と断ってきた。佐々木監督は捕鯨にまつわる事情を懇切丁寧に説明し、太地町で撮影した映像を見せたという。すると彼女は「クジラって1種類じゃないの?」と聞いてきた。インテリである彼女でさえそうであるように、「米国ではクジラに関しては、そういうことさえ知られていないのです」と佐々木監督。今、彼女は映画制作に全面的に協力してくれているそうだ。
私が読売新聞中部支社(現)のデスク時代、フランスの有名な香水メーカーが名古屋のデパートに入ることになった。新設コーナーには香水の歴史を紹介するパネルがあった。「龍涎香」の写真もあった。ただそこに一緒に載っていた「龍涎香」の元となるクジラが肝心の「マッコウクジラ」(歯クジラ類)の写真ではなく、いわゆる「髭(ヒゲ)クジラ」類の頭が流線型の「ナガスクジラ」だった。
クジラを見たことが無い人でも、ある年齢に達すれば本や写真などで世界中の誰でもが「クジラ」を知るようになるといっても過言ではなかろう。ただ、「ハクジラ」と「ヒゲクジラ」、また、「クジラ」と「イルカ」(体長約4m以下のクジラを呼ぶ)の違いについて問われると、今は日本人でも即答出来ないのが現状ではなかろうか。
「クジラの映画」が訴えるもの佐々木監督はこうも言っている。「この映画『ふたつのクジラの物語』(仮題)
は日本政府のPRにはなりません。世の中には自分と価値観が違う他者がいることを提案する映画です。捕鯨を支持することが愛国心だと思うことは危険だと思っています。そう考えることで相手側の意見が見えなくなってしまうのではないかと思います。もちろん私は日本人だしクジラとイルカの問題が歪められて広まることに嫌悪感を抱いています。でもそれはナショナリズムの意識とは違います。やはり、私がニューヨークにいるからこそ物事を俯瞰して見えるのかもしれません---」(「産経ニュース」2015年4月30日付け)。
最後に、以下のニュースを伝えておきます。
「【シドニー共同】反捕鯨団体「シー・シェパード」は18日、南極海での日本の調査捕鯨などを阻止するため、妨害船「スティーブ・アーウィン号」がオーストラリア西部フリマントルを出港したと発表した。同団体は「直接行動」を取ると警告し、オーストラリアなどの「政府は真剣に対応する時だ」と主張した。シー・シェパードのニュージーランド支部長は、ニュージーランド海軍に対して、フリゲート艦を派遣し、日本船団に立ち向かうよう呼び掛けた。ニュージーランドメディアが伝えた」(2016年1月18日付け)
八木景子監督の映画『Behind“THECOVE”ビハインド・ザ・コ―ヴ』は今月30日から東京「新宿K’scinema」(ケイズシネマ)で公開されます。映画館の所在地は「新宿区新宿3-35-13 SHOWAKANビル3F」(☎03-3352-2471)です。

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私の「勝手なメール通信」---。国府津番外編が大変長くなってしまいました。「クジラ」の話になるとついつい話が進んでしまいます。加えて冗長な文章。ご寛恕下さい。映画紹介に加えて、最近のニュースを交えた「クジラ」に絡む写真も載せました。何かの時の話題の一つにでもなれば幸いです----。
 

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