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2013.12.30    佐々木 洋

 「驚愕!  感嘆! ニューハーフ・ショー」    この話は未だ円高の2012年2月の頃です

 ニューハーフ・ショーは驚愕!感動!でした。イカガワシサやイヤラシサが感じられるところは一切なく、臨席に座っていた若い日本人女性たちの口からも、「かわいい!」、「きれい!」、「脚が長い!」といった賛辞の形容詞が相次いで発せられていました。その中でも、最も人気があったのが右上段の写真の左端の”女の子”(?)だったようです。まだゲイ歴が浅いためか、脇役でしかなかったのですが、綺麗で愛らしい小顔で笑顔を振りまきながら、長い手脚を優雅になでやかにしならせておりました。

 私が昨年の大震災まで住んでいたところでも「何故いわきにハワイアン・ショーが?」と言われたものですが、「何故バンコクにニューハーフ・ショーが?」という問いに対する答えも、同じく「卓越した振付師と厳しいトレーナーがいるから」という答えになるのではないかと思われます。肢体が美しいだけでなく、歌や踊りも鍛え上げ洗練された見事なものでした。右の写真は松田聖子の「赤いスイートピー」を切々と歌っている”女の子”の画像ですが、「あれっ、松田聖子って、ほんとは男だったんだ」という倒錯した思いがするほどの美しくて切々とした歌唱ぶりでした。

 実は、私はニューハーフ・ショー行きを内心では渋っていて、「まあ、折角タイに来たんだし、話のタネにはなるだろうから行ってみるか」といった消極的な気持ちでおりました。これには、私の中に「ニューハーフ・ショー=ゲイ」という思い込みがあって、それがイカガワシサやイヤラシサといった先入観と結び付いていたところがあるのではないかと思います。「ゲイ」が「ニューハーフ」と似て非なるものだということを浅学の私が知ったのは、今回ニューハーフ・ショーを“鑑賞”してからのことでした。
 
 

「ゲイ」が男性同性愛者を指す“セックス指向”の言葉であるのに対して、「ニューハーフ」は男でありながら自分を女性だと思う“性自認”に発した言葉だとのこと。道理で、女性らしくありたいという気持ちが一杯だから、その振舞いが美しく見えるはずです。この点では、「女性よりも女性らしさを感じさせる」と評される歌舞伎の女形と一脈通じたところがありそうです。

 一方、「ゲイ」が英単語の”gay”に発しているのに対して、「ニューハーフ」は日本で生まれた和製英語であって、英単語ではないそうです。また、ご存知はるな愛ちゃん(本名:大西 賢治)は、2009年にここタイのパタヤで行われたニューハーフ世界一大会「ミスインターナショナルクイーン2009 」で優勝しています。ニューハーフを「クイーン」だの「ミス」だのというのは“ミス”テイクじゃないかとも思うのですが、ことによると、ニューハーフの受容度に関しては、日本もタイ国と並ぶ「ニューハーフ大国」になりつつあるのではないでしょうか。
 私たちの行ったニューハーフ・ショ―会場「マンボ」の座席も、圧倒的に日本人の姿が多く、これに応じて、演目も日本人を意識したものが多かったようです。右の写真は、「美」とは対極的で超デブなニューハーフが、巨腹を揺すってみせたりしながら、都はるみの歌を思いきりユーモラスにパロッて、会場を笑いで沸かせているところです。みんな、“観客満足度”の極大化を目指して、サービス精神旺盛でした。

 日本で繁くテレビに出るようになった「おかま」や「おねえ」というのも、範疇としては、「ニューハーフ」に限りなく近いのだそうです。更に、「女装なんとか」というイカツクて怪しいヤツまでがテレビ画面狭しと映し出されるようにもなりました。私には、このような日本の“似非ニューハーフ”が醜怪に見えるだけで、ついぞこの方、こうした人たちから「美」を感じたことがありません。「ゲイ」ではないから「無ゲイ」なのでしょうが、芸を鍛え上げられたタイのニューハーフに比べると全くの「無芸」のように思えます。「美」がむりなら「笑い」でも良いのですが、サービス精神は乏しく、自分を鍛え上げようとする向上心のかけらも見えず、何とかならないものかと改めて思います。

 そもそも、日本の“似非ニューハーフ”、更に言えば、これを登用している日本のテレビ局にとっての“顧客”はどんな層なのでしょうか。かつて、日本製品を”Japan as No.1”の地位に押し上げたTQC(全社的品質管理)の経営思想のもとでは「顧客満足度」向上が最優先課題とされていました。日本の“似非ニューハーフ”の姿を見て、顧客軽視が日本経済の沈没につながったのではないかと思うのと同時に、ニューハーフショーでの見事な顧客満足度重視の姿勢がビジネスの面にまで浸透してくれば、タイの産業界の展望が開けてくるのではないかとも思っています。

 

 閑話休題     ところ違えば「綺麗」も「ブス」に

 日本語の「綺麗(kiree)」は、このまま発音すると、タイ語で「ブス」という意味になるそうです。実際に、タイ語で「キレイ」なタイ女性が多かったのですが、後日たまたまカンチャナブリ・ツアーの際に出遭った日本語の分かる日本語で「綺麗」なタイ女性に出遭いました。私が「ニューハーフ・ショ―を見てきました」と言ったところ、彼女が「綺麗だったでしょう?」と言うので、「いえ、あなたの方がkireeです。もしかするとニューハーフじゃないんですか」と返したところ微妙な表情をされてしまいました。

 この女性は、カンチャナブリで年金生活をされている日本人男性と「年の差婚」をしていましたが、円高もあって低生活費で済むタイでの年金は高レベル安定財源となるので、日本人との結婚を目指すタイ女性の間で「年金」が一つのキーワードとなっているのだそうです。「年金」は英語では”pension”ですが、日本人ばかりでなく、若いタイ人女性と「年の差婚」をして、“ペンション・ライフ”を過ごしているように見える英米人の姿を散見することもできました。しかし、こちらの方は、折柄のドル安とユーロ安のお陰で、軒並み元気がなく、傍らにいるタイ人の若妻たちが元気を持てあましているように見えました。そのうちに、<kaizen>がそのまま英語になったのと同様に<nenkin>がタイ語の単語として採り入れられるようになるかもしれません。


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