ちょっと発表



   魚名魚字 Part 8

2015.07.22   3組 佐々木 洋

 ホヤとドンコの話

 下赤隆信さん(2組)が「思い出す旨かったもの ― その6 仙台のホヤ」で“ついでに”ドンコを紹介し、その後、榮憲道(6組)さんが「ホヤもよし、スミヤキもよし、手羽先もよし」で“ついでに”ホヤについての“返歌”を贈られていました。いずれも、「魚名魚字シリーズ」投稿者である私の“縄張り”に限りなく近いものですので、「ホヤとドンコの本場に限りなく近い東北の一隅いわき宅に行った時に現物の写真を撮ってから是非投稿しよう」と思っているうちに、ついつい時間が立ってしまいました。下赤さんも榮さんも“忘れた頃にやってくる”のが“天災的”投稿者と開き直って、ホヤとドンコについて、以下の通り“怪説”します。



 1. ホヤの巻

 最初から尾籠な話で恐縮ですが、「屁」と「おなら」について、「野郎の汚いケツから出て臭いヤツが“屁”で、美女の綺麗なオシリから出て香り高いのが“おなら”だ」という“屁理屈”があります。下赤さんが「旨かったもの」として思いだされているホヤが発するのは、“ほのかな磯の香り”などというものではなくて“強烈な海の匂い”に近いものですから、「おなら」より「屁」寄りなのかもしれません。但し、「匂い」は「臭さ」と違って、「わあ、良い匂い!」と絶賛されることもありますし、和田アキ子も「あの鐘を鳴らすのはあなた」で、♪あなたに逢えてよかった あなたには 希望の“匂い”がする♪と歌っている通り、匂いに対する感度は「好き」から「嫌い」までアナログ状に分布しています。

 この点で、ホヤの「海の匂い」の場合は、「物凄く好き」(1)か「物凄く嫌い」(0)しかいない“デジタル海産物”だということが特徴だということができます。私も、若かりし頃に、下赤さんと同じく仙台で初めてホヤを食した際には少なからぬ衝撃を受けたのですが、その後その海の匂いに病みつきになっています。「酒匂川」の語源となったと考えられる「酒の匂い」の好き嫌いもアナログ分布していますが、榮・下赤・佐々木のHSSトリオが揃って“海の匂いフェチ”であるところを見ると、ことによると、「酒の匂い」は「海の匂い」とマッチするものであって、「酒好みならずしてホヤ好みたりえず」という“屁理屈”が成り立つのかもしれません。「この匂いはホヤ特有の不飽和アルコールによる」という“酒飲みのみホヤ好み仮説”を裏付ける有力な“証言”もされていることですし。

 一方、ホヤは「ホヤ貝」などと呼ばれることがありますが、私は「ほんまカイな」と胡散“臭く”思っていました。果たして、今回改めて調べてみると、Wikipediaに「水産物として“魚介類”という場合の“介類”は、エビ・カニなどの甲殻類をはじめウニ、ナマコ、ホヤなどの水産物としての無脊椎動物全体を含む語で、軟体動物に限る“貝類”とは区別されるのが普通である」という、これは屁理屈とは思えない解説がありました。ですからホヤが「貝」を名乗るのは詐称であり、辛うじて“魚介類”の仲間に入っているのですから、今回のレポートは「魚名魚字」どころか、番外の「貝名貝字」でもなく、辛うじて超番外の「魚介類名魚介類字」ということになります。そこで早速その魚介類名から行きますと、「ランプやガス灯などの火をおおうガラス製の筒」を意味する「シェード」に当たる日本語の「火屋(ほや)」に形が似ていることから付けられたという説を私は支持しています。そして、「火屋」さながらに動かずにおり、海底の岩などに固着していますので、植物の一種かと誤認されるようなこともあり“海のパイナップル”とも呼ばれています。実際に、「体内でセルロースを生成することのできる唯一の動物」で、限りなく植物に近いのですが、心臓、生殖器官、神経節、消化器官などをもち、植物プランクトンを餌としているレッキとした動物なのです。

 下左の写真をご覧になれば、「火屋」や「パイナップル」呼ばわりされるのが的外れではないということがお分かり頂けると思います。因みに、下の写真で中央は典型的な調理法である「ホヤ刺」です。このようにキュウリが添えられるのが定番になっているのは、「ホヤはキュウリとともに肥える」という言葉があるように、夏野菜のキュウリが畑で生育する時期に、海でホヤが良く育ち味も良くなるからでもありますが、キュウリとホヤの相性が抜群に良くて、キュウリとホヤで酢の物にすれば海の匂いが消せて、“ホヤ初心者”に受け入れやすくなるからでしょう。ホヤは夏場になるとグリコーゲンが何倍にもなり、甘みと旨味が増しますし、お値段も1ヶ100円程度とお値ごろになります。ホヤ道入門を果たすのには真夏を迎えた今がチャンスです。


 
 


 ところで魚介類名字の方は、そのまま、「火屋」でも良さそうなものですが、ランプそのものが少なくなってきている手前、今時の若いもんには「ランプのシェードが火屋なんだよ」などと説明しても分かりっこありません。そのため、「海鞘」、「老海鼠」、「富也」、「保夜」などといったイマイチの当て字がされていますが、いわき市の魚屋さんの店頭で見かけた「海花」(右端の写真)なんかが一番良いんじゃないでしょうか。

 現在“魚介類”市場を流通しているホヤ95%養殖もので、特にリアス式海岸地形が利用できる三陸海岸はホヤの養殖地として有名です。魚釣りなどの際に、海上から水面下を見てみると、鈴なり状態になったホヤの赤い色が一面に見えて花盛りのように見えます。



 1.ドンコの巻

 「ドンコ」の魚名の由来については、下の写真を見ていただければすぐにお分かりいただけると思います。頭でっかちでブヨブヨと脹れた腹と、どす黒くて鱗もないヌルヌルした肌で、見るからに“鈍”くさい格好をしているからドンコ。魚字としてもそのまま「鈍子」が当てられています。一説によると、“貪”欲に何でも食べるからドンコなのだそうですが、そうなると魚字は「貪子」?しかし、不つり合いに貧弱な尾っぽをしていて、どう見ても敏捷な動きができず鈍重そうにしか見えないところからしても「鈍子」の魚字の方がピッタリのような気がします。そう言えば、“頭でっかち”、“ブヨブヨと脹れた腹”で“鈍重な動き”という点では私も全く同じ。私が魚だったらドンコだったに違いありません。



 標準和名は「エゾイソアイナメ」になっていますが、カサゴ目アイナメ科という一家をなすアイナメとは全く違って、ドンコの方は「タラ目チゴタラ科」です。大きさこそ60-70cmになるアイナメと同じく50cm程度まで成長するドンコですが、引き締まった体形のアイナメにしたら、ブヨブヨ腹のドンコにアイナメを名乗られたら良い迷惑というものです。しかし、見た目がグロいからといって不味いかというと、そう捨てたものでもありません。刺身はさすがに水っぽくていけませんが、煮付けにすると、さすがにタラ目だけあって、プリッとした白身の淡白な味が引き立ちます。

 東芝時代の同期の会About38で「いわき分科会」を開いた時には、首都圏から11名が勿来の関を越えてきてくれました(http://h-sasaki.net/About38giji.htm#b1041029)。いわき市の最北端にあって、当時水揚げ高No.1を誇っていた久の浜漁港の近くの宿に投宿して、様々な近海魚料理を楽しんだのですが、翌日人気投票をしたところドンコは堂々銀メダル受賞でした。たった一人、ドンコに票を投じなかった故吉峰敏行兄にそのわけを聞くと「ドンコという名前を聞いて泥臭い魚だと思って箸を出さなかった」のだということがわかりました。 やはり、姿かたちや呼び名だけで差別するのはよくありませんね。ドンコの方は脂がのる11月から1月が旬です。東北の太平洋側に出回る魚ですが、最近は関東の魚屋さんの店頭にも並べられるようになってきました。どんこ汁や丸焼き、ぶつ切りの肝いり、みそ汁、醤油味の汁などのレシピもあります。どうぞ、見かけられたら、ダマサレタと思って東北の海の幸の味覚を味わってみてください。