ちょっと発表


「有権者としての自覚を」

2018/08/27  3組 佐々木 洋

<水に没した吉備真備の街>
西日本豪雨による被害が最も大きかったのが「真備」だったそうですね。「真備」の活字が目に入って、昔学校の日本史で習った「吉備真備(きびのまきび)」を思い出したのですが、調べてみると、この奈良時代の豪族・政治家の名前が町名の由来になっているということが分かりました。古い時代から平穏な農村地域として栄えてきたのでしょうが、常に水害と隣りあわせの状態で推移してきたようです。中国山脈から南北方向に流入する高梁川が、東西に走る天井川の小田川に合流するのですから、高梁川の水量がある基準値以上に上昇することを「想定」すれば、逆流現象が起こって小田川やその支流の主流の堤防が決壊するのは「必至のこと」だったのでしょう。実際に、想定される浸水区域や避難場所をまとめた「洪水・土砂災害ハザードマップ」が2016年に作製されていて、今回浸水した区域と予測されていた区域はほぼ同じで「想定内」だったようです。


<‟特別″なのだから仕方がない?>
今年の夏は異常な気象条件が続発しているようです。マスメディアも、気象庁用語では「猛烈な台風」とよぶところを、米軍合同台風警報センターの用語である「スーパー台風」を持ち出して報道し、国民に「特別」なのだ、そして「特別なのだから仕方がない」という意識を持たせようとしているように見えます。確かに、有史以来の降雨量に見舞われて、住民が逃げ遅れたという「特別な」ケースが多かったことでしょう。しかし、真備町に限らず他の被害地域も同様に「必須」の事情があったにもかかわらず、「想定外の大雨」という報道やこれによってもたらされる社会通念によって、災害の軽度化や回避の責任の所在や必要性が曖昧にされているのが“危険列島・日本”の現状のように思えて恐ろしいような気がします。


<避難勧告・指示の任を負わされている無力な地方自治体>
国土交通省が2015年に策定した「水防災意識社会再構築ビジョン」によると、避難勧告・指示に関しては地方自治体に任せられているそうです。しかし、真備町の場合、倉敷市長が小田川北側の住民に避難を指示した避難指示が出したのは小田川に流れ込む高馬川の堤防が決壊する4分前だったとのこと。刊行物の配布も含めた自治体の広報活動は市民ボランティアによる町内会によっていて、緊急連絡はといえば辛うじて全域で声が聞こえる程度の防災無線に多くを頼らざるを得ない地方自治体の行う避難勧告・指示に完璧を期待するというのは無理というものでしょう。また、国交省の河川管理部門が真備町に流入してくる高梁川の広域な水量情報を正確かつタイミングよく倉敷市当局に提供していたかどうかも疑問です。


<納税の義務を果たしていながら安全を守られていない住民たち>
適切な避難勧告が行われていれば逃げ遅れ事故は少なくすることができたはずです。ある宗教団体では、指導者が信者の家庭に一軒一軒電話をかけて、強く避難を呼びかけたため、倉敷市真備地区で逃げ遅れた信者家族は一人もいなかったと言っていました。倉敷市外の上流地帯の水量増加情報を得ていて、真備地区に「想定内」の洪水が起こるということを確実に予測していたからこそ信者の皆さんは避難勧告に従ったのでしょう。日本国民には納税の義務がありますが、その税金を使う側の行政体制には「住民の安全を守る」義務があります。そして、「住民の安全を守る」ためには、地方自治体だけではなくて警察や消防署などが取り組む必要があるのですが、どうも洪水・土砂災害の場合には事後の災害復旧の場面にだけ出番が限られていて、災害の予防の面では「住民の安全を守る」ことに貢献できていないようです。警察や消防隊の皆さんが河川の上流情報を携えて待ちまわりして緊急避難を呼びかけていたら住民の安全は守られていたことでしょう。


<総合的・複合的な問題解決能力がない国土交通省>
また、洪水・土砂災害の場合には「国土交通省」が「住民の安全を守る」活動に直結してこなければならないのですが、どうも国民の納税に応えるだけの活動をしているようには見えません。そもそも、「国土交通省」は、総合的・複合的な問題の解決ができそうな名前ですが、運輸省と建設省が合併した省庁であり、実態は合併以前と同じ縦割り組織になっています。例えば、気象庁は国土交通省で、気象予報の枠を超えた災害予報まで発信していますが、具体的に堤防が決壊しそうな河川の名前(例えば真備地区の「小田川」)や、自治体の枠を超えた広域情報(例えば真備地区に流入する「高梁川の流量」)を行きわたらせなければ住民に避難を決意させることができません。また、国土交通省の河川管理局からの上流情報を、適時・適切・適所に伝達する仕組みができていないから、折角「洪水・土砂災害ハザードマップ」が作成されていたとしても「住民の安全を守る」役に立てられていないということになるわけです。


<縦割りではなく横断的な行政体制が必要>
愛媛県内の2ダムでは、放流後に下流の川が氾濫し、住民計9人が死亡するという事件が起こりました。豪雨によって、貯留量が限界を超えるとダムが決壊するので放流するのは当然のことですが、この当然の放水に備えるべく堤防の強化が行われていなかった下流流域の住民にとってはいい迷惑です。ダム管理部門と河川管理部門の情報と行動が「住民の安全を守る」方向を向いて結びついていないのですから国土交通省は一貫して複合的な問題の解決に当れるよう改組する必要があります。運輸省と建設省が合併した省庁ですが、実態は合併以前と同じ縦割り組織になっているのですから、運輸業と建設業に関する専門官はそのまま縦割り官庁においておいて、総合的・複合的な問題の解決のために必要な官吏は、横断的な「国民・国土保安庁」に常駐させ、同じく‴国民・国土保安‴を旨とする警察や消防局もここに集結して有機的に連動させるようにするのです。もしも明治時代以前から営々として受け継がれてきた官僚体制を改革するのが困難ならプロジェクト・チーム体制を執ればよいのです。政治家たちも、民間企業が問題解決に用いてきた手段を行政機関に適用させる努力をすべきです。


<被災自治体への財政支援で事成れりとする安倍首相の姿勢>
安倍首相は「‴被災自治体‴が財政的に心配することなく、安心して災害復旧に迅速に取り組み、被災者の皆さんが一日も早く安心して暮らせる生活を取り戻すことができるよう全力を尽くす」と語って、災害復旧に対して財政出動をすることを約束しました。「住民の安全を守る」政治体制ができていないことを問題視せず、短期的な災害復旧のために国費を投入すれば事成れりとする姿勢であることがありありとしているように見えます。更にこのことが、気象庁が臨時会見で記録的大雨の恐れがあるとし厳重警戒を呼び掛けており、既に住民への避難指示も出ていたその日の夜に、安倍首相が「赤坂自民亭」で開かれた自民党議員との懇談会に参加し、酒盛りに興じていた姿とかぶって思え、長期政権のもとに群がる安倍晋三シンパの代議士に清き一票を投じてしまっている日本国民に大きな責任ありと見ています。


<自衛隊も‴国民・国土保安“の前面へ>
安倍首相は、「総理大臣はいかなる事態にあっても国民の命を守る責任がある」と口にしています。しかし安倍首相の口にする「安全」は「安全保障」の「安全」に大きく傾いているようです。災害復旧対策に出動した自衛隊に対しては、「‴本来の業務‴と違うのに災害復興に当ってくれて」という感謝の言葉が投げかかられるのが与えられるのが常ですが、これも日本国民が洗脳されていて「安全保障が‴本来の業務‴」と思い込まされているからでしょう。警察や消防局と並んで災害対策に出動するからこそ‴国民・国土保安“に役立てるのですから、自衛隊は海上保安庁と並んで「国民・国土保安庁」に組み込まれるのが筋というものでしょう。


<日本の世界軍事力ランキング>
小田原市で行われた「8月15日を考える会」の講演では、講師が「現在の自衛隊は、アメリカ、ロシア、中国、インド、フランス、イギリスに次いで世界の軍事力ランキング7位に達している」と語られていました。防衛省は、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を、陸上自衛隊のむつみ演習場(山口県萩市)と新屋演習場(秋田市)の2カ所に導入する考えだそうですから、一層防衛予算は拡大していくことになりそうです。北朝鮮が、沖縄ラインに「イージス・アショア」が配備されているのを見越して、東日本上空越しにミサイルを発射したために秋田ラインに設置することを考えたようですが、ここでは、北朝鮮の非核化へ向けての動きがまるで斟酌されておらず、「北朝鮮がターゲットにしていたのはアメリカ本土であり日本ではない」ということが完全に見落とされているように思えます。そして、「“アメリカに守ってもらっている日本"から"アメリカとともに軍事行動できる日本へ”」とする考えが時代の潮流となっているように感じられます。


<安全保障にかける空費を‴危険列島‴改善経費に>
老人だらけで天然資源に恵まれない日本自身が他国からの攻撃のターゲットになることはありえません。攻撃されることがあるとすれば、アメリカの敵対国が在日の米軍基地を攻撃する場合だけなのですから、米軍基地を守るのはアメリカがすればよいことであって、"アメリカとともに軍事行動できる日本”めざして軍事投資するのは全くの税金の空費にしかなりません。しかし、年々‴安全‴保障のため増大する軍備予算に対して、住民の“安全”を守るための河川投資は限られているため、“危険列島・日本”は手続けられぬままの状態で推移してきているのです。真備町でも半世紀も前から堤防改築工事の必要性が議論されてきたそうです。流域の改善工事の計画は、一地方自治体の範囲を超えた広域的な問題で、予算を携えた国土交通省関係官吏がリードする必要があります。安倍首相は、‴被災自治体‴の財政を心配して災害復旧に財政出動するばかりでなく、国土交通省がなぜ“危険列島・日本”を改善することができずにいるのか、行政体制の不備と予算配分の不適正さを反省すべきです。


<納税者意識を働かせて投票を>
「8月15日を考える会」講演の講師は、日本国民を「挙国一致」といったような‴常識‴に誘いながら、日本は世界戦争に巻き込まれていったと語り、昨今同様な‴常識‴が罷り通っていることから、日本が「改憲・戦争ができる国へ急ピッチ」で展開し、「軍国少女がまたつくられる!」と訴えておられました。「アメリカは日本を守ってくれる正義である」、「正義のアメリカが核兵器を保有することは許され、日本はアメリカの核の傘によって守られている」というのが、安倍首相のもと「赤坂自民亭」に集った自民党議員たちは、これをもって日本国民の‴常識‴として打ち出しているようです。災害復興へ向けて財政出動するにしても、財源は安倍首相のポケットマネーではなくて税収です。自らは応益していないのに‴被災自治体‴救済のために税金が使われるのを黙認している日本国民の寛容さは素晴らしいことですが、‴常識‴ のもとに“危険列島・日本”が放置されている現状に対して更なる関心を払うべきです。首相も比べて政治家にできることは税金を使うことだけなのですから、納税者として候補者の税金の使い方意識を重視して投票するのが有権者としての正しい姿だと思います。

以 上