ちょっと発表


魚名魚字 Part 13 「タラバガニ」と「ズワイガニ」の巻

3組  佐々木洋   

食卓にのぼった北海の美味

三井系企業の勉強会に「三井業際研究所」というのがあって、私も1993/4-1997/3「情報関連投資委員会」に参加していました(私が勤めていた東芝も三井系なんですよ)。委員会活動が終わった後も毎年OB懇親会は開かれており今年も3/27に都内某所で行われました。委員会の主査をされていた濱本敏孝さん(当時、大坂三井船舶専務)を中心に懇談が盛り上がっていましたが、なんといっても当日の引き立て役は食卓にのぼったタラバガニでした。久方ぶりに口にした北海の美味に、普段から垂れている目尻がいっそう垂れてしまいました。

タラバガニはカニにあらず

図に乗って、「タラバって何語だと思いますか」と濱本さんらに問いかけてから、「タラバというロシア語の単語はありますが、実は、ニシンがとれる場所をニシン場というようにタラがとれる場所だからタラ場っていうんですよ」とし、その上さらに「カニというけど実際はヤドカリの仲間なんですよ、ご存知でしたか」と、馬鹿の一つ覚えの“痴識”をひけらかして場を盛り上げようとしたのですが、なかには「えっ、ヤドカリの仲間なの!?」と、折角の北海の海の幸なのに少々腰を引かれた向きもおられたのかもしれません。

改めてタラバガニの正体検証

私自身も、ちょいと気になって、改めてカニとヤドカリって一体どこが違うんだろうと思い始めました。早速、OB懇親会の翌日インターネットを検索してみますと、「和名は生息域がタラの漁場(鱈場:たらば)と重なることに由来し、古来、“鱈場蟹”と呼ばれてきたものを、生物学が、学術名として引き継いだものである。“カニ”の名称は学術的には問題があるが、広く普及している通俗名を重視する姿勢をもって、改められることなく採用された。」と私の馬鹿の一つ覚えの“痴識”を裏付けるようなことが書いてありました。

欧米でも“クラブ・クラブ”のメンバーだった

それじゃ英語ではどう呼ばれているかと言えばRed King Crabで、これも嶽実的にはカニではなくクモに近い動物とされていながら同じく英名 King Crab と呼ばれるカブトガニと同様に、魚種(蟹種?)差別されることなくクラブ・クラブ(Crab Club:蟹クラブ)のメンバーとされているということが分かりました。洋の東西を問わずタラバガニはカニなんだよなあ。タラバガニの写真をインターネット検索してみると下の通り。どう見たってカニの姿じゃありませんか。どうして学術の世界ではメンドクサイ差別をするんだろ?

タラバガニは借家族に非ず


ヤドカリは、巻貝の貝殻に体を収め、脱皮をしながら成長していき、成長に合わせて新しい貝殻に引っ越します。
貝殻を背負って生活するところが「宿借り」の名の由来ですから、ひょっとすると、タラバガニも貝殻を背負って生活しているのだろうか。そこで、インターネットで、タラバガニの脱皮風景を撮った動画を探してみた結果わかりました。タラバガニの甲羅は決して借りものではなく自前のものでしたよ。「吾輩は借家族に非ず」とでも言いたげに、長時間かけて頑張って脱皮した後で、新しくできた甲羅をそのまま背負って動き出していましたから。

足の数“不足”が“蟹種差別”の原因

どうやら、学術の世界でカニ(蟹)を、十脚目短尾下目(これが端的にいうとカニ下目)に属する甲殻類の総称」と決めつけているから不当な種差別”が起こっているようです。先掲のタラバガニの写真をもう一度見てみてください。どう見ても十脚には見えませんね。要するに足の数が“不足”しているだけで、学術の世界で
はタラバガニをクラブ・クラブ(蟹クラブ)のメンバーから除外してしまっているわけですね。「足の数にこだわるなんて姑息な手段だ」と一本足打法で世を風靡した王貞治さんもおっしゃることでしょうよ。

タラバガニの足はゴツイはず

ところで、「タラバガニの足はゴツイはずなんだが、あの懇親会で食したヤツはなんだか優しいあししてたなあ」という新たな疑問が浮かび上がってきました。そこでタラバガニの足の写真を探してみたところ、見つかったのが下の写真でした。カニ通販会社の「タラバとズワイの盛り合わせセット」広告用の写真ですが、右側の方が懐かしいゴツイ奴。真相は、北海の海の幸の産地直送にご尽力いただいた元委員会の副主査・折戸博宏さん(当時、大坂三井船舶常務)に確認させていただかなければなりませんが、懇親会の食卓で優しい足を並べていたのは、まさしく左側のズワイガニだったのではないだろうかという気がしてきました。

ズワイガニとタラバガニと合わせて「二大蟹」なんだって

ズワイガニは、タラバガニと合わせて「二大蟹」と言われるカニ業界のエース的存在と言われるのだそうです。「ズワイ」は、細い木の枝のことを指す古語「楚(すわえ、すはえ)」が訛ったものとされ、漢字で「津和井蟹」とも書かれるのだとか。更に、オスとメスは大きさが異なるために多くの漁獲地域でオスとメスの名前が異なるのだそうで、エチゼンガニ、マツバガニなどの聞いたような名前も実はオスのズワイガニの地方名称だったんですね。「隠者、世捨て人、独居性の動物」という意味の”Hermit”こそつきますが、英語の世界ではヤドカリもHermit Crabでクラブ・クラブ(蟹クラブ)のメンバーになっているんですよ。学術の世界も、変な所で線引きしなければ良いのにね。私なんか、魚じゃないのにカニを「魚名魚字シリーズ」に加えて論じているんですから、学術の世界の人に爪の垢を与えて飲ませてあげたいくらいですよ。