ちょっと発表


魚名魚字 Part 15

シシャモ・カペリン(カラフトシシャモ)の巻

3組  佐々木洋   

<魚名はシシャモで魚字は柳葉魚 >


この魚は、“shi-sha-mo”という音感からするとどう見ても日本語らしく感じられないので「シシャモ」とカタカナ書きされることが多いようですね。アイヌの神によって柳の葉(「柳=シュシュ」+「葉=ハム」)からつくられたという伝説に由来して作られた名前であることから魚字も、発音はなくてその意味を受けて「柳葉魚」という漢字が当てられています。「乾燥した広大な地」という意味がある「サットポロ」や「沖の島」という意味がある「レブウンシリ」というアイヌ語に、それぞれその発音から「札幌」、「礼文」という漢字地名が付けられているケースが多いのと対照的ですね。古くは産卵期に、川がシシャモで埋まるほど遡上してきて産地周辺で食べられていたものであって、“内地”の物産展などで人気が出たのは1970年前後のことですから、地名などと違って発音に似せた漢字化なんか考える必要がなかったのかもしれませんね。アイヌ語の「スサモ」または「スシャモ」が日本語化した「シシャモ」で日本人社会にデビューしたままで「シシャモ」の道を貫き通してきたのでしょう。


<今は懐かし獲れたてシシャモ >


さてこのシシャモ、キュウリウオ目キュウリウオ科に属する回遊魚で、10月中旬~11月下旬になると群れを成して遡上してくるのですが、遡上する河川は、北海道東部太平洋側の胆振地方の鵡川(むかわ)、日高の沙流川、十勝川、釧路地方の茶路川、阿寒川、新釧路川、別寒辺牛川、尾幌分水川などに限られています。シシャモを町魚とする勇払郡鵡川町のシシャモ専門店「カネダイ大野商店」のホームページには「昭和20年代 鵡川でシシャモをとる少年達」という写真が載っています。恐らく往時は、北海道東部太平洋側の子供達にとってのシシャモは、内地の子供たち(つまり私たち)にとってのフナやザリガニと同じような位置づけにあったのでしょう。フナやザリガニと違うのは、とれたてを美味しく食べられること。私も、昭和39年(1964年)に北海道に出張した時に、たった一度だけ、とれたてのシシャモの焼物を頂いたことがあるのですが、酒肴として珍重されている干物と違ったふくよかで上品な味わいでした。

<“幻の魚”となった “神から授かった魚” >


シシャモはキュウリウオ目キュウリウオ科に属するです。キュウリウオ目とは、その名の通り、特に釣り立ての時に強いキュウリのような香りを発する魚の仲間で、ワカサギもキュウリウオ科ワカサギ属です。水揚げされたばかりの生シシャモは綺麗な輝きを放つそうですから、綺麗な輝きを放っている時にはワカサギと同じようにキュウリの香りを放っているのだろうなと思うのですが、残念ながら私は水揚げされたばかりの生シシャモを見たことも嗅いだこともありません。シシャモはほとんどが、口が開いた状態の干物として市場に出回るため、口を開いていない状態のシシャモを見ると、「これがシシャモなの?」と思ってしまいますが、“神から授かった魚”はそれなりに姿態も美しいものなんですね。生息域の狭い魚ですが、産卵回遊のために河川に上るときが漁期で、往時は子供でも捕獲できるような大衆的な魚だったのですが、今や穫れなくなった時期と重なったためもあって、市場価格が平均1キロあたり1,874円(2017年)にまで高騰して、大衆にとってはすっかり“幻の魚”となってしまっています。”

<カラフトシシャモは似非シシャモ >


現在スーパーなどで安価で売られているシシャモは実は“似非シシャモ”の「カペリン(英名 capelin)」で、これが「カラフトシシャモ(樺太柳葉魚)」という異魚名魚字を与えられているため市場で「シシャモ」として罷り通り食卓にも供されているというわけです。主に北大西洋アイスランド、ノルウェー、ロシア、東カナダのニューファンドランド島沖合で漁獲されていて、日本で売られているのは、卵を抱えた時期に大西洋で漁獲された輸入ものがほとんどだそうですが、オホーツク海の樺太周辺でも獲れるため1930年代に逸早く「カラフト」が付いた和名を授かっているのですから、全くの「名称偽装表示」とは言い切れないところがあります。

同じ「キュウリウオ科」の魚で、みごと「シシャモ代用魚」の役割を果たしているではないかとも思うのですが、本家シシャモ専門店「カネダイ大野商店」となるとそうは簡単に“似非シシャモ”の存在を認めるわけにはいかないようです。ホームページに「(同じキュウリウオ目ですが)シシャモ属カラフトシシャモ属と属種が分けられていて、生物学的に全くの別種です」としたうえで、北海道の太平洋沿岸に生息する日本固有種の「シシャモ」と海外から輸入される「カペリン(カラフトシシャモ)」が「シシャモ」という名前で国内に流通しており、「異なる魚であるのにまったく同じ名称で販売されている為、消費者に混同されてしまうことが多い」と訴えたうえで、「人間、チンパンジー、ゴリラも同じヒト科ですが、属種が異なる全く別の動物です。人間とゴリラはぜんぜん違う別の生き物です。同じネコ科であっても、もしも動物園でネコが“ライオン”とされていたら来園者の皆様はどう思うでしょうか?」と記述して注意を喚起しています。

<シシャモ代用魚も“幻の魚”に>


最近の日本経済新聞に「シシャモ 食卓から消える」という記事が載っていました。はてはと思ったのですが、案の定、樺太シシャモ(カペリン)のことで、「国内流通の9割以上を占める北欧産の中でも大産地のノルウエーが10月に資源確保のため2年連続で禁漁とすることを決めたので、来春には値上げで最高値となるか食卓から姿を消す事態になりかねない。ノルウエーと並ぶ大輸出国のアイルランドも来年の禁漁を検討中だそうですから、シシャモ代用魚の「キャぺリン(カラフトシシャモ)」が日本の食卓から一時的に消える可能性が十分あるということになります。たかがシシャモ代用魚ですが、されどシシャモ代用魚でもあって、酒肴の場にはなかなか欠かせないものです。改めて、目下のところ“似非幻の魚”カラフトシシャモに敬意を表しながら大いに賞味しようではありませんか。