ちょっと発表


Web11に“楽しみ”を求めていこう

3組  佐々木洋   

 新型ウィルス禍であれこれ行動が規制されている昨今ですが、いかが日々を“お楽しみ”でしょうか。私は突拍子もなく“平凡な魚”「たら(鱈)」について駄文を書いて“楽しんで”いました。実際に文章を書くとなる出鱈目(でたらめ)過ぎてはなりませんので少々調べたりもしましたが、インターネット検索などをすると、改めて知ることも多く本当に「楽しい」ものだと思っています。ご笑覧頂いて束の間でも新型ウィルス禍気患いから気分転換されて、この「楽しみ」を共有していただければ、嬉しいことですし、皆さんからも楽しまれた結果をお裾分けしていただければ無上の喜びです。

(魚名魚字シリーズPart16)
マダラ・スケトウダラ・コマイの巻

<身近に食べられる「いい魚」>
 日本における「たら類」の魚種別漁獲量(平成26年)は「いわし類」、「さば類」、「貝類」、「かつお類」に次ぐ第5位で、「さんま類」、「いか類」、「まぐろ類」、「さけ・ます類」、「あじ類」を凌いでいるのですから、堂々たるスター魚種なのですが、あまりスターっぽく輝いている様子がありませんね。漫画の「サザエさん」にも「タラちゃん」が登場しますが、大人しく物分かりのよい「いい子」で、少しもスターらしいところがありません。要するに、身近に食べられる「いい魚」として日本人に愛されてきたのだと思います。

<海外でも大人気>
海外でも人気がある魚で、水口幸治兄、中沢秀夫兄、山本哲照兄(いずれも7組)との旅烏カルテットで行った「ヨーロッパ三感トリップ」http://h-sasaki.net/EuropeTrip.htmでも、「世界一料理がまずい国」とされるイギリスのロンドンのレストランで食べたイギリスの代表的な料理だといわれるフィッシュ・アンド・チップスにもタラ(Cod)が使われていることが分かりました。また、ボストンから乗合船で釣行に出かけた時には、船がCape Codの脇を通って外海へと出て行きました。直訳すると「たら岬」とでもなるのでしょうか。半島の名前に使われているのですから、よほどアメリカ人にも愛されている魚なんだなあと思いました。

<標高2357mの湖畔でタラを食う>
上記の旅烏カルテットでの「還暦記念カナダ・アメリカ西部ドライブ」で、イエローストーン湖畔のレストランでAlaskan Pollock という魚が使われているというメニューを頼んだら「タラのような味がした」と書いています(http://h-sasaki.net/CanadaAmericaDrive3.htm)。後で調べたところ、「スケトウダラ」は「マダラ」と同じタラ目タラ科の魚類なのですが、英名はCodではなくてAlaska Pollockを名乗っているようです。「この湖か近くの川で獲れたての魚」と勝手に期待して注文したのですが、まさか北の海の魚が、北アメリカで最も高い場所にある湖(標高2357m)の畔にまで上陸していたとは思ってもいませんでした。

<「まだら」(斑)の「ま抜け」魚名>
 タラは、海水温の低い海域でとれるタラ目タラ科に属する魚の総称で、日本近海に分布するのはマダラ・スケトウダラ・コマイの3種類です。「タラ」の語源には諸説があって、その一つが、体側に不規則な褐色の斑紋があることからついた「まだら」(斑)が「たら」となったという説ですが、なんとなく「ま抜け」っぽく聞こえます。しかし、切っても身が白いことから「血の“足ら”ぬ」の「たら」を語源とする説や「ふとはら(太腹)」の意味といった説よりは説得力がありそうな気がします。

<魚字は「魚 + 雪= 鱈」です>
 魚字は「魚 + 雪」で「 鱈」となります。これも「雪のように白い身をしているから」という説がありますが、「冬の雪が降る頃、日本の浅い沿岸部に産卵に寄ってくる時期に獲れるから」という説に一票投じたいところです。 「水深200m以深で暮らすいわゆる深海魚が多い」と聞いて、深場の釣りに手こずった下手っぴ釣り師の私は「漁具も整っていない時代に漁獲するのは大変だっただろうな」と思ったのですが、「季節によって産卵のために生息深度を変えて沿岸部に近接する種類もおり」、しかも、「北に行くほどとれる水深が浅く、南ほど深くなる」とありましたのでなるほどと思いました。

<知らなかったなあ、“たら汁街道” だなんて>
 日本でも食文化は中世に始まっていて、室町期など畿内中心の時代には水深の浅い北陸などでとれたマダラが都に送られていたそうです。そう言えば、カミ様(我が家のカミサンの尊称です)のお婆ちゃんのもとを訪れて何回か富山に行ったことがあるのですが、新潟県寄りの道を走っていると、道路沿いに「たら」と書かれた旗がやたらと並びたてられているのが目立ちました。そしてある時、誘われて入った小屋風のお店で食べたのが「たら汁」でした。如何にも“漁師料理”という野趣に富んでいて美味しかったなあ。後で調べたところ、富山県朝日町では、「漁師が、船の上で獲れたてのスケソウダラをぶつ切りにして食していたが、浜に戻ってから家族とともに食す慣わしとなり、地域の家庭料理として定着していった。この浜汁を夏の海水浴客や温泉客に提供したところ評判を呼び、今日の宮崎・境海岸(通称ヒスイ海岸)名物の定番料理となった。」のだそうですよ。Wikipediaには「富山県朝日町の浜に併走する国道8号沿いは“たら汁街道”と呼ばれて多くの店が立ち並び、観光客などに提供されている。」とあります。知らなかったなあ、“たら汁街道”だなんて。

<真(まこと)のたらは「まだら」なり> 
「たら」と言えば一般的には「まだら」を指すことが多いようですが、日本に分布するタラ類3種の中では最大種で、最大で全長120 cm体重23kg程度にまで達するそうです。インターネットを検索していたら、「まだら」を釣り上げたばかりの釣り人の写真が出ていました。こんなデッカイ「たら」が釣れるのなら、メンドクサイ深場釣ですが挑戦する価値がありそうですね。「まだら」の魚字は「斑」ではなくて「真鱈」ですが、やっぱり、「たら」の中でも大きくて立派なのが「真(まこと)のたら」だという話になったんじゃないかと思います。

<「たら刺」と「白子」の玄妙な味>
 「まだら」の身は柔らかく脂肪の少ない白身で、ソテーやムニエル、フライなどに使われる他、汁物や鍋料理(たらちり)の材料として特に寒い時期に欠かせない魚になっていますね。底引き網、定置網、延縄、釣りなどで漁獲されるのですが、需要が旺盛なので、アメリカなどからも輸入してまかなわれていて、特に20世紀後半頃からは輸入ものが多く流通するようになっているそうです。しかし、やはり釣りたての新鮮な「まだら」は最高、漁師の間で食べられるという刺身(「たら刺」となるのかな)を福島県いわき市の魚商が経営する寿司屋で一度だけ食べたことがあるのですが絶品でしたよ。それにもまして珍重されているのが「白子(しらこ)」と呼ばれる精巣の部分です。私は仙台市で2年間生活していたのですが、白子の玄妙な味わいが楽しめる飲み屋さんが行きつけになりました。メスよりオスの方に高い値がつくのは白子のせいかもしれません。

<「タラコ」の本命は「スケトウダラコ」>
最大で全長91 cm、体重1,400 g でマダラより小型ですが、マダラよりもはるかに大量に漁獲されているのがスケトウダラ(スケソウダラ)です。魚字は「介党鱈」で、漁に人手がかかるので「助っ人鱈」としたのが魚名の由来のようです。魚傷みが早いため鮮魚として流通することは少なく、かまぼこを初めとする魚肉練り製品の主原料としての需要が多いようです。フライやムニエル、乾物の棒鱈に多く利用され、脂肪が少ない身質で水っぽく生食には適さないのだとか。また、加工され、養殖魚の配合飼料のほか加工残渣は家畜類の飼料や肥料として利用されてもいるそうです。冷凍技術が発達する以前はなんと、利用しきれない魚はそのまま肥料として利用された捨てられたりしていたことが多かったというのですから、とんだ人権ならぬ魚権侵害というものじゃありませんか。しかし、「たらこ」や明太子となると、スケトウダラの卵巣の出番です。マダラのものはスケトウダラよりも品質が落ちるので特に「マダラ子」と呼ばれているのだそうです。

<“道産子タラ”のコマイで是非一杯>
 「コマイ」となると更に小型で、通常は体長40センチ前後で、最大記録でも全長55cm・体重1,300gです。この文章を書きながら、表記は「タラ」がいいか「たら」がいいか迷ってきたのですが、「コマイ」に限ってはカタカナ書きが正解だと思います。語源が、アイヌ語の「コマエ(「小さな音がする魚」の意)」だからです。同じアイヌ語から発した「シシャモ」が語呂と関係のない「柳葉魚」を魚字としているように「コマイ」も「氷下魚」という面妖な魚字を持っています。根室湾などで結氷した氷を割り、穴を穿って、氷下待網漁(こおりしたまちあみりょう)で、氷の下にいるものを釣ることから付けられたのだそうです。ワカサギの穴釣りと似た風情ですが、魚体が“こまい(細い)”ワカサギと違って、体長40センチ級の「氷下魚」を氷上に釣り上げるのですから、ちょっとした釣り味だと思います。アイヌ人から受け継いだ北海道特産のコマイの干物のほのかな味を楽しみながら今夜も一杯といきましょうか。

<「たら」をめぐる語彙のあれこれ>
「ればたら(orたられば)話」などとよく言われますが、これは「たら一族」のあずかり知らぬことであって反実仮想の助詞と言われる「たら」と「れば」を連ねた言葉に過ぎません。「出鱈目」も当て字であって、 「目」はサイコロを振って出た数(目)で条件設定の助詞「たら」を付けただけの話です。 「やたら」を「矢鱈」とするのも単なる当て字です。語源は雅楽の「八多羅拍子(やたらびょうし)」で、「素人がまねをしても上手くいかず、演奏が滅茶苦茶になってしまう」ことから「むやみに/無茶苦茶に」という意味になったのですから魚偏が入りこむ余地がありません。ましてや、関西地方で使われる「あほ」を強めた言い方「あほんだら」も「阿呆陀羅」ですから、庶民の見方「たら一族」とは氏も素性も違う言葉です。但し、「たらふく」は、大食漢で、ゴカイなどの多毛類、エビ、カニ、オキアミなどの甲殻類、イカとタコなどの軟体動物などをむさぼり食べる“鱈の腹”が語源と見て間違いがなさそうです。だから、大酒飲みが「たらふく飲んだ」というのは間違いですから注意しましょう…なんて自分に言い聞かせています。