ちょっと発表


(「花の言葉に耳寄せて」Part 6)

ムクゲ&フヨウの花の巻

3組  佐々木洋   

 朝の散歩の途次に、通りがかりのお家の庭先から、いきなり爽やかな声が聞こえてきました。「おっ、ムクゲ君じゃないか。そっかー、もうすぐ夏休みのシーズンになるのだな」と、「ムクゲが咲いたら夏休みが始まってフヨウが咲いたら夏休みが終わる」といういつしか習い覚えた季節感が甦ってきました。


 そして、更に散歩の歩を進めると今度は華やかなピンクのムクゲのお出ましです。そうか、今や、暑さで人や植物が元気のなくなる季節に、次々と大きな花を咲かせるムクゲは、盛夏を彩る代表的な花木になっているんだね。私が出会ったのは50年程も前で、路傍のお家の庭先にポツンと咲いていた白いムクゲに見入っていたものですが、あの頃は辻堂界隈もこんなに住居が立て込んでいなかったっけ。今や、随所の庭先で成果の訪れを告げるほどになっているのですから、辻堂界隈も見事な住宅街になってきたものだと思います。

 しかし改めて調べてみるとこのムクゲ、奈良時代から日本人に親しまれてきたようですね。原産は中国だそうですから、まだ海運も不自由であった時代に日本人好みのムクゲを、海を隔てた日本に運び入れてくれた往時の日本人または中国人は本当に素敵なことをしてくれたものだと思います。中国語では「木槿」、日本ではこの「木槿」、または「槿」の一文字でも「ムクゲ」と読ませているわけですね。韓国では国花になっているそうです。そう言えば、末路が鮮やかだったと冷えませんが、東アジア初、韓国史上初の女性大統領に就任した「朴槿恵(パク・クネ)」さんもお名前の中に「槿」の一文字を採り入れられていましたね。「ムクゲ」は日本語にしては妙な響きですが、中国名の「ムーチン」か韓国名の「ムグンファ」がなまったのだという説があります。花言葉は「信念」、「新しい美」、「尊敬」、「慈しみ」ですが、いずれも美麗だけでなく凛とした花姿にふさわしい花言葉のように思えます。

 しかし、私に成り代わって即興俳句詠みに携わってくれている俳号・高幡大馬王殿は「木槿は“槿花一日の栄”と栄華のはかなさにたとえられる一日花だと歳時記に載っていました」と告げてくれました。そうです、次から次に開花しますからあまり目立たないのですが、朝に美麗で凛とした花姿であったムクゲは夕方には寂しく花を閉じ頭を垂れ下げてしまいます。そんな“物の憐れ”の方が俳句の世界では重んじられているのかもしれません。そこで高幡大馬王殿すぐさま、自宅近所を散策した時に神社の本殿の後ろに見つけた小さな奥殿の祠に想いを重ねて即興俳句を詠んでくれました。
   崖際の 小さい祠 花木槿      高幡大馬王
更に、「一日の栄」という言葉に、PC事業への貢献と英語力で社長に上り詰めて会社を壊した“どこかの社長”を思い出して詠んだ即興句も添えてくれました。
   人・地球 明日のためと 掃く木槿  高幡大馬王

 ムクゲがアオイ科フヨウ属に分類されるとして少々驚きました。ムクゲもフヨウもともに盛夏を彩る花木だとは思っていたのですが“戸籍”はまったく違う別物だと思っていました。そう言えば、ムクゲもフヨウも朝開いて夕暮れ時にはしぼんでしまう1日限りの命というところも同じで、近縁の似た者同士だったんですね。更に驚いたのは、「フヨウ属」の英名が Hibiscusだったということです。「ムクゲもフヨウもハイビスカスなのさ」などと言うとデタラメのように聞こえますが、英語で表現すれば素直に納得されるところなのです。実際に、ムクゲはHibiscus syriacus、フヨウはHibiscus mutableがそれぞれの学名になっています。日本語の「ハイビスカス」は“本名”仏桑花(ブッソウゲ)学名Hibiscus rosa-sinensisの花木を指していることが多いようですね。英語ではChinese hibiscusで、マレーシアの国花になっているのだとか。 アメリカのハワイ州の州花にもなっています。その昔新婚旅行で訪れたグアム島でも自生のハイビスカスが咲いていました。てっきり“太平洋南方の花”だと思っていたのですが、存外“アジアっぽい”花だったんですね。

 ムクゲやハイビスカスなどが居並んでいるのに「フヨウ属」という名称が与えられているところに日本におけるフヨウの人気の高さが表れているように思えます。原産は中国ですが、芙蓉は中国では「蓮の花」のこと。水の中に咲くものが「水芙蓉」で木に咲くものが「木芙蓉」と呼ばれていたのだそうです。そして、日本では蓮を芙蓉と呼ぶ習慣がないので、この木芙蓉が「フヨウ」として日本語にとりいれられたのだとか。日本でも昔から愛されていて、「美しい人のたとえ」に用いられ、美しくしとやかな顔立ちのことを「芙蓉の顔」ともいうそうです。花言葉の「繊細な美」と「しとやかな恋人」も、その花の美しく優しい感じから生まれたものと思われます。

 フヨウの学名Hibiscus mutableの”mutable”には、「変化しやすい、変わりやすい、無常の」という意味があります。毎日次々と新しい花がたくさん開いて見る人の目を楽しませてくれる反面で、朝開いて夕暮れ時にはしぼんでしまう一日花の儚さを表現しているように思えます。この“変わりやすい”特性を示す最たるものは、八重咲になる突然変異種の「酔芙蓉(スイフヨウ)」で、朝に白い花を咲かせ、午後からピンクに変わり人が酒に酔ったような様子を示すので愉快です。因みにお酒に因んで、学生時代にコンパで「嗚呼玉杯に」の2番を♪芙蓉の雪の精をとり♪と唄っていたあの「芙蓉」は何だったのかと疑問に思ったので調べてみました。『「芙蓉峰」は富士山の雅称。単に「芙蓉」と呼ぶことも。』とありました。財閥の流れを引いた「芙蓉グループ」については定かな説明が得られませんでしたが、その幹事銀行だった富士銀行の名前に由来しているのかもしれませんね。いずれにしても、日本一の山・富士山になぞらえられるほどにフヨウの花の人気は高いのだと改めて思いました。


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