ちょっと発表


(「花の言葉に耳寄せて」Part 9)

金木犀&柊の花の巻

3組  佐々木洋   

 「そろそろ金木犀(きんもくせい)の花の香りが漂ってくるのだが今年は妙だな。これも新型ウィルスの影響なのだろうか。」などと妙なことを思いながら朝の散歩から帰宅する日々を重ねて来たのですが、ようやく花を咲かせ優しい声をかけてくれました。おお、待ちに待った良い香り。秋たけなわの候になったんだなあ。

 中国南部が原産で、江戸時代に日本に伝わってきたモクセイ科の常緑広葉樹であり、漢字名の「金木犀」は「木肌が動物のサイ(犀)に似ている」ことから付けられという全く香り気のしない命名です。しかし、花の香りを愛する日本人はキンモクセイを、沈丁花(ジンチョウゲ)、山梔子(クチナシ)とともに“三香木”として位置づけて尊び、その小さな花が放つ芳香がすっかり“秋の風物詩”になっている … と思いきや、さすが即興俳人の俳号・高幡大馬王殿もいきなり「キンモクセイの句を」と振られて、「なんとなくトイレの芳香剤の匂いのイメージしか沸いてこないなあ」と戸惑ったそうです。それでも辛うじて「散歩道でどこからともなく匂ってきたことがあったなあ」と思い出して次の一句を作って“寄進”してくれました。


    散歩道 姿見えねど 金木犀       高幡大馬王

 しかし良く調べてみると、原産地の中国でも、丹桂や桂花、金桂といった美しい別名で知られていて、観賞用だけでなくて、花びらを使って「桂花陳酒」という酒や「桂花茶」という茶を作って香りを楽しんだり、お菓子、漢方薬を作ったりする食用や薬用にもなる植物としても親しまれているそうですよ。学名の Osmanthus fragrans var. aurantiacusも、ギリシャ語のosme(香り)とfragrans(芳しい香り)、aurantiacus(橙色の)という意味があるのだそうです。英名もfragrant orange-colored oliveですので、芳香にこだわっているのは日本人だけではなく“国際的な香木”と言えそうです。


 キンモクセイ(金木犀)の花言葉のその1は『謙虚・謙遜』。「強い香りとは裏腹に、咲かせる花は直径1cmにも満たない小さくつつましい様子」にちなんでつけられた花言葉のようですね。花言葉のその2は『気高い人』。「季節の変わり目に降る秋雨の中で、潔くすべての花を散らせる」ことに由来しているのだとか。また、中国では位の高い女性の香料などに加工されたキンモクセイが使われていたことに由来するとも言われています。そして花言葉その3が『真実』。「その香りの強さから、開花時を隠すことやごまかすことができず周囲の人が知る。そのような嘘のつけない香り」に由来にしているようです。更に花言葉4-5は『陶酔』と『初恋』。これもキンモクセイの香りに由来するもので、それぞれ、「陶酔(気持のよいほろ酔い気分にさせてくれる)の香り」と、一度かいでしまったら忘れられない香りに因んで「初恋(一生に一度の忘れることのできない経験)」がこの花言葉に結びついているようです。いずれも言い得て妙な花言葉に恵まれているキンモクセイ(金木犀)は木花の世界の“隠れたスター”なのかもしれませんね。
 ところが、キンモクセイ(金木犀)はモクセイ科の常緑広葉樹であるギンモクセイ(銀木犀)の変種で、普通「モクセイ」といえばギンモクセイを指すのだそうです。銀木犀(ギンモクセイ)は、10月にしか咲かない金木犀(キンモクセイ)と違って、年に数回白い花を咲かせることがあるそうですが、「銀木犀」の名は初耳でした。銀木犀から金木犀、ギンからキンになるなんて将棋の銀将のようで妙な話ですが、中国で金将になってから日本に渡来したのですから、日本の自然界には自生していないのだとか。本来は雌雄異株ですから原産地の中国ではヒイラギと同じような楕円形の実が付きますが、日本には雄株しか入ってこなかったことから、日本にあるキンモクセイには実(種)がつかない、だから自生していないということになるのかな。
ヒイラギが、ジャスミン・ライラック・オリーブ・レンギョウとともに、キンモクセイと同じモクセイ科の花木であることも初めて知りました。キンモクセイは、ヒイラギを台木として梅雨時に挿し木することで繁殖できるのだそうですね。「雌雄異株で、晩秋(11-12月)にギンモクセイに似た白い小さな花が咲く。花は直径5mmほどと小さく、葉陰に埋もれるように咲くため余り目立たないが微かに芳香がある。」ともあります。「えっ、ヒイラギの花?どんな花なんだろ?」と思ってインターネットを検索してみたら以下のような写真が見つかりました。こんなに綺麗な花を咲かせるんだヒイラギって。

 

 ヒイラギは原産地が東アジアで、葉のトゲに触ると痛いことから、ひりひり痛むことを意味する「疼ぐ(ひいらぐ)」が花名の語源とも言われています。常緑高木で、一年中葉が緑に茂っているのですが、晩秋から初冬にかけて花をつけることから、「木」と「冬」を組み合わせて「柊」と表記されるようになったといわれます。私の「ヒイラギ」のイメージは、「赤い実が美しくクリスマスの装飾の定番として使われる木」だったのですが、これは実はモチノキ科の植物「セイヨウヒイラギ(クリスマスホーリー)」だったようです。紛らわしいことに、トゲのあるヒイラギの葉に似た葉を持つ植物は別種であっても「ヒイラギ」の名を与えられることがあるんだそうですよ。ヒイラギの花言葉は「用心深さ」と「保護」。「用心深さ」は、葉の縁にトゲがあり、むやみに近づいたり触ったりすることができないことに由来し、「保護」は、トゲのあるヒイラギが魔除けになるといわれていることにちなみます。

 即興俳人の俳号・高幡大馬王殿も私から「柊(ヒイラギ)の句を」と無茶振りされて困ったことでしょう。歳時記で調べた結果、「柊挿す」が節分のころの季語だと分かって一層困り、「いささかフライングだな」と思いつつ、新型コロナウィルス禍が「柊挿す」頃までに終息していることを願って、次のような一風変わった句を詠んで贈ってくれました。


    邪気とはウイルスのことか 柊挿す    高幡大馬王

 同じ下手っぴ釣り仲間として釣行をともにしたことがあるのでわかるのですが、高幡大馬王殿が「ヒイラギ」と聞いて真っ先に頭に浮かべたのは、シロギス釣りの際に外道として“釣れ過ぎてしまう”魚のヒイラギの方だったのではないかと思います。木のヒイラギの葉(下左)に似て棘があるため、または、この魚のトゲが鋭く手を刺すと「ひりひり痛む」(古語で「ひひらく」)のでこの魚名になったようです。釣れてくる時に滑る・刺さることがあるうえに、平たい小型魚なので可食部が少ないので、針から外すとポイ捨てしていました。しかし、今回インターネットで「身質はアジ類に似た白身で、塩焼き・唐揚げ・干物・吸い物の椀種・酢の物・煮付けなどに利用される」という記事にお目にかかり、更に、ヒイラギの唐揚げ・塩焼き・煮付け・潮汁更に刺身の料理が写真入りで紹介され、それぞれの美味振りを絶賛している記事にも巡り合いました。花木ばかりでなく魚類についても初めてわかった事柄は、俳句のお返しに高幡大馬王殿に教えてあげようかと思っています。


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