ちょっと発表


“緊急事態解除状態”の日本の政治家たち

2021.05.04 

3組  佐々木洋  

 確か菅義偉首相は今年1月の施政方針演説で「人類が新型コロナウイルスに“打ち勝った”証として東京で五輪・パラリンピックを開催する」と断言していましたね。これが最近の「G7首脳声明」では「新型コロナウイルスに“打ち勝つ”世界の結束の証」とされています。“打ち勝った”という過去形が“打ち勝つ”という未来形表現に置き換えられていますが、これは東京オリンピック・パラリンピックまでに「打ち勝った結果」を残せないという実情を吐露したもののようです。しかし、そもそも菅首相曰くの「新型コロナウイルスに打ち勝つ」とはどういう意味なのでしょうか。


 かつて感染症として猛威を振るった結核に“打ち勝つ”ことができたのは、BCGワクチンと抗菌剤ストレプトマイシンのお陰でした。現状も決して“ウイズアウト結核”の状態にはなっておらず、日本でも結核はなお最大級の感染症となっています。しかし、「感染しない方法(ワクチン)と感染した場合の対応策(薬剤類)の提供」が実現されたため結核による死亡者数が激減し、“不治の病”として恐れられることもなくなりました。ドイツのメルケル首相も昨年3月に国民に向けて「コロナウィルスの治療薬とワクチンが発明されるまでのあいだは“時間稼ぎ”をすることしかない」と述べています。安倍晋三前首相も、問題解決に全く役立たないアベノマスクや一人当たり10万円の特別給付なんかしていないで、メルケル首相に学んで「来年3月にはワクチンを提供できるようにします。それまでに出来ることがひとつだけ。それは私たちの行動に関わることで、ウィルス感染の拡大の速度を落とし時間稼ぎをするしかないのです。」とでも説明しておけば、国民は納得して、外出規制要請にも積極的に賛同するようになったことでしょうに。


 菅義偉首相が「新型コロナウイルスに“打ち勝つ”」と述べている時にも“打ち勝つ”ために政府が打ち出すべき具体策が明瞭に意識できていないように思えますね。特にワクチンについては反復購入が見込まれないので、医薬品業界が先を争って開発に取り組む売れ筋医薬品にはなり得ません。こんな場合にこそ、できる限りの財政出動による国内需要分の買い取りや様々な資金支援を約したりして医薬品業界に働きかける手があるのですが、安倍晋三前首相から菅義偉首相に通ずる日本の首脳筋には、このような「国にしかできない」対策について配慮した形跡が見られません。パンデミックの“緊急事態”であるのにもかかわらず、厚生労働省による“通常ベース”のワクチン調達活動に終始しているからこそ、日本がワクチン接種の面で国際的に後進国に成り下がってしまっているのですが。


 中国などは国内での接種を優先したうえで、日経新聞のタイトルとなった「ワクチン接種 中国席巻 - 70国・地域で承認・契約 - 外交・経済で攻勢も」という状況を造り出しています。更に、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が「中国オリンピック委員会から、東京オリンピック・パラリンピックの出場者ら向けに新型コロナウイルスワクチン提供の申し出があった」と報告したという報道もありました。東京オリンピック・パラリンピックの主催国である日本こそ、国政の全力を掲げて「新型コロナウイルスに打ち勝つ」ためのワクチンの早期開発・調達の手段を講じ、国民の“時間稼ぎ”のために必要な努力を軽減するとともに、コロナ・フリーとなった日本へ安心してこられるよう五輪選手・顧客向けに呼び掛けられる状況にすべきところでした。

「中国は共産党の独占支配体制だ」などと批判するのは無益で、“前例に従った意思決定”しかできない「官僚体制独占支配体制の日本」を反省する必要がありそうです。米国が中国に対する反発度を高めているのは、米国企業の進出によって経営諸資源(人・物・金・情報)の流入を得て経済力を高めた中国企業が米国市場にまで進出してきたことに対する恐怖感を裏返したもので、かつて同じような経緯で米国市場に参入して日本企業が受けたジャパン・バッシングの二番煎じのようなものです。日本政府が米国政府の意を“忖度”している場合ではありません。もし、徹底的な検討の結果日本の医薬品業界によるワクチンの早期開発が不可能と分かったのならば、中国からのワクチン輸入へ向けて早期に積極的に働きかけるべきところでした。更に、メルケル首相曰くの“時間稼ぎ”に役立つと判断したのなら、中国で効果を上げた「3日で1000万人PCR検査」を見習って採り入れるべきなのですが、どうも日本の首脳の頭の中は“緊急事態が解除された状態のまま”のようです。

 一方、地デジ時代ですので、神奈川県民は神奈川発信局発のコンテンツを視聴できるようになっているものと思いの他、私たちが選んだのでもない小池百合子東京都知事の都民に対する感染防止対策協力の“お願い”が繰り返しテレビ画面に現れるのでウンザリですね。そんなところに今度は私たち神奈川県民に向かっての「東京に来ないでください」の一言ですよ。オリンピック・パラリンピックで来られる海外の人にも同様に「東京に来ないでください」と言い放ちそうな感じなので呆れてしまいます。都民や他県民に対して余計な“お願い”の繰り返しをするだけで“知事にふさわしい決裁”をすることのない小池百合子女史を見ていると、「都道府県知事には権限がないのだろうか」と思いたくなってしまいます。

 緊急事態宣言を自ら発することなく国(日本政府)に要請するのは、国に対して営業時間短縮による損害補償の責を取るよう求めるためのもののようですね。本来は、個人事業、法人事業が都道府県に納入する事業税に財源を求めるべきなのでしょうが、都道府県知事には徴収した事業税の使途に関する権限がないのでしょうかね。いずれにしても、都道府県知事各位の頭の中も“緊急事態が解除された状態のまま”のように見えます。もともとパンデミックなのですから“宣言”など本来不要です。それでも、緊急事態宣言は戦時中の敵機来襲警報に相当するものですから相当に国民の警戒心をあおるのに役立つのですが、どうしてワクチン接種の準備もできていないまま緊急事態宣言の解除を繰り返すのですから国民の緊張感が途切れるだけですよ。

 小池百合子女史も少しでも身を動かして街を歩いてみたら、ご説の「ソーシャルディスタンス」や「三密」を実践している店舗、事業所が存外広く広まっていて、ご自分が危機管理意識旺盛な都民の皆さまに対して、余分な“お願い”をしていたことに気づかれることでしょう。そして、そんな危機管理意識旺盛な店舗、事業所等には「コロナ対策処置済み」を表した「安全地帯」のマークを表示してあげたら如何でしょうか。もちろん、相応の投資もしてコロナ対策処置を施された店舗、事業所には一律の営業時間短縮の“お願い”も無用です。他県民そしてオリンピック・パラリンピックの来訪客に対しても、冷酷な表情で「東京に来ないでください」なんて言っていないで、笑顔で「“安全地帯”拡大中の東京に安心してお出で下さい」と呼びかけるようにしてくださいよ。

 先日東芝日吉独身寮の頃の仲間と久し振りに電話会話した時に、日本のワクチン接種の立ち遅れが話題となり、総理大臣をはじめとした政治家たちの無策ぶりに共感し合った後に、彼から「まして日本はオリンピック開催国なのにねえ」というこちらが発しようとしていたセリフが発せられたのでビックリしました。結局は「俺たちが総理大臣にならなかったのがまずかったんだよなあアハハ」という仕儀となりました。実際のところ、私たちも東芝在社時代に、マッキンゼーなどのコンサルティング会社の考え方や手法から“学んで”中期計画を立てたり製品・市場戦略企画に当ったりしていたものです。民間企業では経営の維持・発展のために懸命に「学ぶ」姿勢をとり続けて頑張っているのですよ。総理大臣や都道府県知事諸侯におかれましても、先ずはご自分に対して“緊急事態宣言”をかけなおして、自分に欠けているところがあることを自覚し「学ぶ」姿勢をとって、“総理大臣または知事にふさわしい意思決定”をしてほしいものだと思います。


          1つ前のページへ