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横山大観の富士

2018.04.25

8組   植田武二 

横山大観の富士図については、今までに、いくつかの展覧会で一点二点と一部は見てきたが、数年前に平塚市美術館で「横山大観の富士」と題した展覧会で54点のまとまった富士図を見ることができた。

私は名山名木ばかりを描く画家には多少抵抗感を覚えるのだが、大観の絵を見てやはり感銘を受けた。その中に私の母校である神奈川県立小田原高校所蔵の『初秋黎明の富嶽』(69.0X – 170.0cm 絹本彩色・額)も掲出されていた。

この絵については、在校中に美術の善波先生から私たち生徒にその存在は知らされていたが、実際には鑑賞する機会に恵まれなかった。今回卒業してから55年ぶりに初めて小田原高校のお宝に接することができた。

新雪を抱いた山頂の白、山すそと雲海の墨、背景の金という簡潔で品格のある清雅な緊張感に満ちた富士である。

本画制作のいきさつは、昭和2年、昭和天皇の御大典を記念して小田原高校講堂に掲げるため、同校が大観に依頼したことによる。大観は「そういう国家のおめでたいことなら、私でよければ鈍腕を揮いましょう」と姿勢を正したという。制作は昭和5年1月初めで、富士の画題は高校の依頼ではなく大観自身の判断であったという。書き初めで描いたと伝えられる。御大典記念ということもあって絹本に描かれている。どれくらいの揮毫料を払ったのだろうとあらぬ想像をしてしまい、私は展覧会場で永いことこの絵の前に立って眺めた。

大観自身は、「富士の美しさは季節も時間もえらばぬ。春夏秋冬、朝昼晩、富士はその時々で姿を変えるが、いついかなる時でも美しい。いわば無窮の姿だからだ。私の芸術もその無窮を追う。」と述べているが、大観の絵画を論ずると長くなるので、ここで擱筆とする。



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